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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 後編『沈む都市と聖なる剣』
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フロリア達の乱入

 光と闇を放つ聖剣(ケルキューレ)が、フレスの身体から抜かれる。

 心を破壊されたフレスベルグの身体は、重力に従い床に叩きつけられた。

 赤い血溜まりが、周辺へ広がっていく。


「フレスベルグッ!!」


 その名を呼んでも、もう返事が返ってくることはない。


 ウェイルには、弟子が二人いたのだ。

 心優しい性格の弟子と、少し生意気だが頼れる弟子。

 その後者が、この世界から消えた。

 このあまりにも残酷な現実に、ウェイルの心はケルキューレに斬られてもいないのに、砕けてしまいそうだった。


「さあ、龍の心は死んでしまった。今度こそウェイルの番だよ!」


 しきりなおしだと言わんばかりに、メルフィナは再び剣を振り上げる。

 光と闇を放つ剣が、天に向かって高らかと掲げられた――その時だった。


「ちょぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!」


 パリーンと巨大な音を立てて、天窓が砕け散った。

 落ちてくるガラスの破片と共に、禍々しい影が部屋に乱入してきたのである。


「あちゃ~、ちょっと遅かったかな?」


 その影には見覚えがある。嫌というほどに。


「ふ、フロリア、ニーズヘッグ!?」


「やっほ~、ウェイル、助けに来たよ~! 生きてる? ……って、酷い怪我!? すでに棺桶に頭から突っ込んでる!?」


 天窓を突き破ってホール内に乱入してきたのは、龍の姿となったニーズヘッグと、それにまたがるメイド姿のフロリアであった。


「とりあえず、ギリギリだったっぽいね! ニーちゃん、ナイス!」


『……うん……!!』


 フロリアはぴょんとジャンプしてニーズヘッグから降りると、ウェイルとリーダーの間に立った。

 そしてケルキューレを手にしたメルフィナやイドゥを前にして、茶目っ気たっぷりに笑う。


「やぁ、リーダーにイドゥさん! 目的は達成したっぽいね!」

「まあね。君のおかげだよ、フロリア」

「またまた、皮肉がお上手ねぇ、リーダー」

「で、君は何をしにきたのかな?」

「ちょっくら人助けをね。この男は、一応私の大切な人の恩人だから」


 チラリとウェイルにウインク。


「…………」

「え!? 無視!?」


 見事に無視されたのが哀愁を漂わせる。


「へぇ、そうなんだ。だったら困ったなー。僕は今からウェイルを殺そうと思ってたんだけど」

「そうなの? そりゃこっちだって困るよ。私は今からウェイルを助けようと思ってたんだけど」


 フロリアの背後には、黒き翼を携えた神龍ニーズヘッグが、紫色に目を光らせてメルフィナ達を睨み付けていた。


「意見が違ったらリーダーを優先しなよ。それが組織ってものだよね?」

「ええ!? リーダーって、リーダーだったの!?」

「酷いこと言うなぁ」

 

 アハハと互いに笑い合う。

 だが、彼らの放つ殺気はとても友好的なものじゃない。


「ニーちゃんもフレスを助けたいよね?」

『……当然……!!』

「あれれ、フロリア? リーダーの僕を、龍で脅す気? それって裏切りだよね?」

「裏切り? う~ん、そうなっちゃうのかな~。私として私がしたいことをしてるだけなんだけど。それが裏切りって言うんなら、そうなっちゃうのかな? ま、私が裏切るなんて、日常茶飯事でしょ? 個性だよ、個性」

「はは、確かにフロリアらしいね。裏切りは君の十八番だもんね。それでこそ『異端』だよ。君は。多分、君が裏切ったって知っても、うちのメンバーは誰一人驚かないだろうね」


 イドゥもそれにうんうん頷いている。

 ティアは「そうなの?」と首をかしげていたが。


「そういうことでさ。ここは素直に私のやりたいことをやらせてよ。ニーちゃんとやり合うのは、あんまりいい選択肢じゃないでしょ?」

「それもそうかもね。今のニーズヘッグ、無茶苦茶怖いしなぁ」


 アハハと笑い飛ばすメルフィナ。

 だが彼の魔力は笑い事では済まされないほど鋭くなっていく。

 空気がさらに緊張感を増した。


「さて、いつまでも睨み合うわけにはいかないし、こっちはやることやらせてもらうよ」


 フロリアはしゃがむと、ウェイルに声を掛けてきた。


「さぁ、逃げるよ。立てる?」

「あ、ああ。何とかな……」


 傷口はかなり痛むが、動けないほどではない。

 

「なら私はアムステリアを背負うからね。ニーちゃんに乗って」


 ひょいっとアムステリアを肩に乗せたフロリア。


「ニーちゃんもフレスを回収してよね~。……って、ニーちゃん?」


 先程からずっとメルフィナから目を離さないニーズヘッグ。

 怒りが収まらないのか、口から瘴気が漏れ出している。


『許さないの……!! リーダーは私の命より大切なフレスを刺した……!! 絶対に許さないの……!!』


 龍の姿で瘴気を放つニーズヘッグは、フレスの倒れた姿を見て激憤していた。


 ――龍の逆鱗に触れる。


 それはまさにこの状況を差す言葉だろう。


『リーダー、覚悟はいい……? 殺す……!!』


 目を真っ赤に染めた黒紫色の龍から放たれる殺気は、激しすぎてホール全体に振動が走るほどだ。


「おやおや、フロリア。そっちの龍は、やる気満々みたいだよ?」

「この子ってば、フレスのことになると見境なくなっちゃうからなぁ」

「今、龍と戦うのは勘弁したいね。どうする? イドゥ」

「逃げた方がよさそうだな。いくらお前がケルキューレを持っていても、万全の状態であるニーズヘッグを倒すのは難しい。ティアだって龍同士の戦いで魔力を使い果たしているだろう。正直言わせてもらえば、度重なる神器の使用で、ワシ自身もこれ以上動けん。目的は全て達したし、ここいらが潮時だ。お前ももう満足しただろう」

「そうだね。確かに満足したよ。ウェイルのことだって、実はもうどうでもいいんだ。帰ろうか。他のメンバーは、もう帰っちゃったんでしょ?」

「次の任務を与えてあるからな。ティア嬢ちゃん、帰るぞ」

「は~い! ティアも今日はもう疲れちゃったもん。眠くなっちゃったよ」

「じゃ、帰りますか! ウェイル、達者でね~」


 なんて暢気な会話を交わす三人は、ニーズヘッグのことなど無視して、出口へと歩き出した。


「…………!」


 バイバイと手を振りながら去っていくメルフィナに、ウェイルは声すら出すことが出来なかった。

 大切な弟子の心を破壊され、仲間も傷つけられた。

 それなのに、自分は過去の事実を突き付けられたと言うだけで、全く動くことが出来なかった。

 そのことが情けなさ過ぎて、自分に腹が立つ。


「ナハハ、すげー、その無視の仕方すげー。よく今のニーちゃんに背中向けられるよ! 流石リーダー! やるぅ!」


 変なところで感心しているフロリアの笑い声が、情けない自分をあざ笑うかのように聞こえてくる程だった。


『殺す……!! フレスを刺した奴、絶対に殺す……!!』


 ブツブツと呟くニーズヘッグの殺意は、留まるところを知らない。

 引き上げていく三人に対し、全力の魔力を放出し始めたニーズヘッグ。

 怒りに震えながら、翼に瘴気を溜め始めた。

 黒ずんだ瘴気の波動を、怒りに任せて撃ち放つつもりだ。


『殺してやる……!!』


「ちょっと、ニーちゃん、落ち着いて!! 今は皆を助ける方が先決!」


 怒り狂ったニーズヘッグがあれを放てば、敵の三人どころか、この時計塔自体が崩壊しかねない。

 そうなればウェイル達どころかフロリアの身も危ないとあって、フロリアは必至にニーズヘッグにしがみついた。


「フレスを助けるんでしょ! なら復讐は後回し! みんなを助けてから! それとも何? 復讐するために、フレスを死なせるの!?」


『でも……!!』


「でももへちまもあるか―!! ニーちゃんが本気出しちゃったら私だってただじゃ済まないじゃない! フレスも死んじゃうでしょ! いいの!?」


『フレスが死ぬのはよくないの……、フロリアはどうでもいいけど。……判った。フロリアの言うとおりにするの』


「……今結構傷ついたよ、私」


 フロリアの一括に、ニーズヘッグも渋々だが了承した。フロリアとしては納得できないところもあったが。


(しかし、よほどこの青い龍が好きなんだねぇ)


 フレスの命、それはニーズヘッグにとっては己が命よりも大切なものだった。

 自分の命より優先されるものがあるというのが、フロリアには納得しづらいことではあったが、不思議とニーズヘッグのその心が羨ましく思った。

 そうこうするうちに、メルフィはホールから去っていった。

 彼ら三人の姿が見えなくなってホッとしたのは、ニーズヘッグを止めていたフロリアと、そして。


「…………」


 ただ無言で、自分の本物(メルフィナ)が出て行った出口を、複雑な気持ちで見守っていたウェイルであった。


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