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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 後編『沈む都市と聖なる剣』
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聖剣に選ばれし者


「思い出すね、おねーさんを追いかけていた頃のことをさ。なにせおねーさん、強いんだもん」


 アムステリアは答えられない。

 力が抜けて、意識を保つのがやっとの状態だからだ。

 水晶球の中は、緑色の光が蠢いているようにも見える。


「この『星牢獄の宝球(ゾディアスフィア)』がおねーさんの弱点だったことを思い出してね。実はこれ、昔イドゥにおねーさんを殺すように命じられた時にさ、対策として貰っていたんだよね。結局自分でこれを使ったのは今日が初めてだよ。綺麗だからずっとお守りみたいに持っていたんだけどね~」


 アムステリアの身体には心臓がない。妹であるルミナステリアに奪われたからだ。

 その代りに彼女の身体には、神器『無限龍心(ドラゴンハート)』が埋め込まれている。

 膨大な魔力を宿すその神器は、彼女の身体を超人へと変えてくれていたが、その代わりにいくつかの重い代償を彼女に背負わせた。

 代償の一つには、肉体的には死ねないことがある。

 それは彼女を無限の時間という牢獄へ幽閉している。

 そして弱点と呼ぶべき代償が、神器の魔力を封じる神器に弱いということだ。


(魔力を封じる神器か……!!)


 おそらくあの神器は最初からアムステリアにのみ発動する様に組み込まれたものなのだろう。

 先程の仮面の男の言葉からもそう推測できるし、何よりイドゥの神器も発動していることがその証明だ。


「……クソ……!!」


 身体が言うことを聞かない。

 自由に動けないことが煩わしくて腹立たしい。


「リーダー、お前の出番だ」

「任せて~。……あら、ウェイルってば、まだ意識があるんだね。ラッキーだね。これから僕がケルキューレの所有者となる瞬間を、間近で見ることが出来るんだから。偽物君(・・・)には勿体無い光景さ」


 うつ伏せのウェイルをそう見下し、リーダーはイドゥが横から見る中、ケルキューレの柄を掴んだ。

 その刹那、ケルキューレの刀身が、鮮烈な光と深淵の闇を解き放っていく。

 放たれた光と闇は、リーダーの身体を包み込む。光が身体を蝕んでいくようにも見えた。

 その光景は一瞬だったかもしれない。

 だが見ている者は皆、そうは思っていないはずだ。

 あまりにも現実離れした光景に、何時間も見ていた気分であった。


「あは、あはは、あははははははははははははははははははッ!!!!!!」


 光と闇が、リーダーを解放する。

 彼の仮面に、光と闇が刻印されたかのように、白と黒の傷が浮かぶ。


「上手くいったよ。なんだか生まれ変わった気分だ」


 姿こそ変わらぬリーダー。

 だがイドゥは判っていた。

 リーダーは今、ケルキューレの所有者に選ばれたのだと。


「ひとまずおめでとう、と言っておこう。だがこれはあくまでスタート地点に過ぎん」

「判ってるってば。でも、この剣、凄いよ。今なら何だって出来そうさ」


 身体中からみなぎる力。魔力も体力も今なら無尽蔵に感じられた。


「目的は果たした。全て手に入れることが出来たし、ここには用はない。さっさと引き上げるか」

「ちょっと待ってよ、イドゥ。折角ケルキューレも手に入ったし、しかもウェイルに再会したんだよ? 少しぐらい会話させてよ」

「……判った。少しだけだぞ」


 止めさせようかとも思ったが、イドゥは彼のワガママを聞き入れた。

 いや、聞いたと言うよりは聞かされたと言うべきか。

 その声は、有無を言わさぬ迫力があったのだ。


「やあ、ウェイル。勝負はまたも僕らの勝ち。ケルキューレはこうして僕のモノになった」


 美しい刀身を、うっとりと丹念に見回しながら、ウェイルの元へやってきたリーダー。


「今僕は非常に気分がいい。念願の代物を手に入れることが出来たし、何より君に会えた。二十年ぶりに、僕の影にね」

「…………影、だと……?」

「そうさ。僕は光、君は影」


 リーダーはウェイルの前にしゃがみ込み、見下ろしてくる。


「うん。本当に懐かしい顔だね。ちっとも変ってない。なんだか嬉しいねぇ」

「お前、何が言いたい……!?」

「いやね、君が知りたがっていたことを教えてあげようと思ってさ。本当は一生隠しておこうと思っていたんだけど、今僕はテンションが高いから。つい教えたくなっちゃったのさ。それにこのまま一生知らないままでいるのも、君には可哀そうだしさ」

「俺の知りたがっていたこと……?」

「そうさ。君は言ってたろ? 僕が君と会えて嬉しいって言った時、一体何のことだって。その解答だよ」


 そう、この仮面の男は、最初からウェイルのことを知っている風に見えた。

 時折新聞にも名前が出していたし、贋作士であればプロ鑑定士のウェイルのことを知っていても何らおかしい話ではないのだが、どうやらそういった類の面識ではないらしい。

 もっと深く、それこそウェイルという存在の根底から知っているような、そんな雰囲気。


「君と僕はね――フェルタリアからの仲なんだよ? もっとも、君は僕のことを知らないんだろうけど」

「――フェルタリア、だと……!?」


 その言葉はあまりにも衝撃的だった。

 突如仮面の男の口から、フェルタリアという単語が出てきたのだ。驚かない方がどうかしている。


「どうして俺の故郷を!?」

「君の故郷? それは勘違いさ。あれは僕の故郷だからね」

「何だと……?」

「もう、全てを教えてあげるよ。君はね――」



「――ウェイル! 耳を塞いで! 奴の言葉なんて聞いちゃダメ!!」


「――フレス!?」


 意識を取り戻していたフレスが、辛うじて立ち上がり、大声で叫んでいた。


「ウェイル! 奴の言葉は全部でたらめだよ! 聞いちゃダメ――うぐッ!?」

「フレス――!!」

「ちょっと黙ってて。嘘つきフレス」


 不機嫌そうなティアが、フレスを蹴飛ばしていた。


「とんだ邪魔が入ったね。話を続けよう」


 仮面の男リーダーは、さらにグッとウェイルに顔を近づけて、そして言い放った。



「君は僕の――――贋作なのさ」


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