鈍感師匠と嫉妬弟子
部屋から出たウェイルたちが見たものは、泡を吹いて倒れる従業員達を重ね、その上に退屈そうに座っているアムステリアの姿だった。
「お待たせ」
「やっと終わったの? こっちはすぐ終わって暇で暇で」
「お前の方が早く終わりすぎだ」
「で、どうだった? 奴らの面、拝めた?」
「ああ、バッチリ拝めたよ。ここにある真珠胎児は全て贋作だ」
「やっぱりそうなのね? それで本当の競売場所はどこ?」
「六番街の酒場『ハーヴェスト』だ。知ってるか?」
「ええ。麻薬取引の温床となっているという噂で有名な酒場ね。開始は何時から?」
「十九時からだ。後一時間しかない」
ウェイルは懐中時計を取り出すと、現在時刻を確認する。
「な~んだ、後一時間もあるじゃない。なら、こうやってウェイルと楽しめそう」
なんて言うが早いか、アムステリアはウェイルに抱きついた。
その様子を見るフレスは何故か不機嫌そうである。
アムステリアもフレスが不機嫌になっていることを知って、敢えてそれを見せつけるように、より一層強く抱きついてきた。
「ウェイルってば!! 何デレデレしちゃってんの!? 早く行くよ!!」
フレスはウェイルの手を引っ張って急かしてくる。
確かに急いだ方が良いのだが、それでもフレスの不機嫌さと慌てっぷりは異常だった。
「別にデレデレなんてしてない。アムステリア、お前も早く離れろ」
「本当にウェイルってば鈍感ねぇ。そこがまた可愛いのだけど」
アムステリアの言う意味がイマイチ理解出来なかったウェイルだが、こんなことをしている場合じゃないと自分に渇を入れた。
「もう時間がないんだよ!? 早く行かないと!!」
「落ち着きなさい、小娘。奴らは万全の準備でオークションに望む。見張りを始め、中には武装した兵もいるはずよ。まして顧客は違法品を求める大富豪達。彼らを警護するボディガードだって相当数になる。いくらなんでも私達だけじゃ、とても戦力が足りないわ」
「その点については心配するな」
背後から声が聞こえた。
サグマールがこの会場にやってきたようだった。
「すまんすまん、遅れてしまった。しかし凄まじい状況だな、これは。誰がここまでやれと言った」
無論サグマールとて誰の仕業かは判っている。
アムステリアも少しやりすぎたと自覚しているのか、サグマールと視線が合わせないように目をキョロキョロさせていた。
「まあいい。それに話は聞かせてもらったぞ。裏オークションの会場は酒場『ハーヴェスト』だな。この酒場はアムステリアも知っての通りゴロツキ共の溜まり場だ。以前よりマークしていた場所でもある。ここで間違いはないだろう。真珠胎児の本物は全てそこの裏オークションで流すはずだ」
「エリクはお前が一足先にここに行ったと言ってたぞ? どうして来るのが遅れた?」
「実は治安局に寄っていてな。裏オークションを摘発するから戦力を貸してくれと頼みに行っていたのだ」
「なるほどな」
流石にサグマールの手回しは速い。
事の行く末をすでに予感していたみたいだ。
不安だった戦力も、これで十分整った。
「これで準備は完璧だね!」
「ええ、完璧よ。後は奴らを捕らえるだけね」
「元同僚を捕らえる気分はどうなんだ?」
サグマールはアムステリアにイジワルな質問をぶつける。
「別に。どうも思わないわ」
アムステリアの回答は何とも素っ気ない。
「私にはウェイルがいれば十分だもの! ね?」
「同意を求めるな、同意を」
ウェイルの腕に抱きついたアムステリアを見て、フレスはまたも不機嫌になっていたみたいだが、今回は先程とは少し様子が違うようだった。
顔を赤くしてプルプルと震えて、そして叫んだ。
「ウェイルはボクの師匠だもん! テリアさんなんかには渡さないよ!!」
ガバッと、フレスは空いていた方の腕を抱き、アムステリアに対抗心を剝き出しにした。
「お、おい、ちょっと待てフレス、お前は何が言いたいんだ!?」
両手に花という慣れない事態にする狼狽えるウェイル。
「言うわね、小娘。私とサシで勝負するってんの?」
「するよ! ボク、絶対負けないもん!」
二人の視線が火花を散らす。
その中心にいるウェイルは堪ったものではない。
「ふ、二人共、それは事件を解決した後にしてくれないか?」
板挟みになったウェイルは、早々と二人を振り切って、この場から逃げ出したのだった。




