再戦! フレス VS ティア!
フレスが床に突っ伏すことになったのは、ウェイルとアムステリアが、仮面の男と戦闘を開始したその隣で起きた出来事が原因であった。
「ティア、もうフレスと遊ぶの飽きたんだけどなー」
『そうか。我はそんなことはないのだがな』
龍の姿に戻ったフレスベルグが、少女の姿のままのティアと対峙する。
本来の魔力を取り戻したフレスベルグの威圧感は周囲を凍てつかせていたが、そんな中でもティアは楽しげに笑みを浮かべていた。
「でもこっちの姿のフレスって、すっごく久しぶりだよねー! こっちのフレスなら遊んであげてもいいよ!」
『遊んであげる、か。身の程知らずのワガママ娘が……!!』
フレスベルグの瞳に怒りの色が宿っていく。
こちらのフレスの性格は、少女のフレスほどお人好しではない。
放たれる殺気の鋭さは、後方で見守っていたイルアリルマが恐怖で動けなくなっているほどだ。
そんな殺気の中でさえ、ティアは笑顔を絶やさない。
そもそも自分に殺気が向けられていることさえ気づいていないみたいだった。
『……ティマイアよ。我は貴様のことを不憫に思う』
ティアのが、なんだか心を持たない無機質な人形のように見えた。
「……不憫? どうして?」
この言葉に、ティアが少しだけ表情を変えた。
『我は昔の貴様を知っているからな。昔のお前は、本当に心の優しい、良い奴だった』
あまり過去を語らないフレスベルグが、ポツリとそう漏らす。
『あの時の戦いは、まだ終わってはいないんだな……』
フレスベルグの独り言。
今も脳裏にこびりついている、ケルキューレに貫かれたティアの姿。
数千年前の戦いの傷跡が、未だに残り続けている。
それが悲しくやりきれない。
『ティアの心は、壊れたままだ』
フレスベルグが何気なく呟いた独り言であったが、ティアはそれに反応した。
「ティアの心が、壊れてる? どうして勝手にティアのこと、決めつけるの……?」
露骨に、ティアの機嫌が悪くなった。
自分のことを勝手に解釈されたことが腹立たしかったようだ。
ティアの心が破壊された経緯をフレスは覚えているが、ティアにその記憶はない。
だからティアにとってフレスの言葉は、純粋に罵倒されたと感じるものだった。
ティアとしては、フレスだけが妙に納得しているのが、腹立たしく思えたのだ。
「ティア、ちょっと不機嫌。ティアの心、壊れてないもん。……怒ったよ……!」
『そうか。なら掛かってこい。遊んでやる』
「馬鹿にして……!!」
『馬鹿になんてしていない。我はただ懐かしんでいるだけだ。貴様が本気で来るのなら、こちらも本気で遊んでやる!』
会話の主導権を握ったフレスベルグは、戦闘の主導権も握るべく最初から魔力を全開に放出した。
相手は小娘の姿だが、その正体は龍族中最強の魔力を持つ光の神龍『ティマイア』なのだ。
油断は即、敗北になりかねない。
『凍り付いてもらうぞ。三種の神器が消えてなくなるまでな!!』
フレスベルグの纏う冷気は、もはや冷たいという言葉では表現できぬほどで、空気が痛いと感じるレベルにまで達していた。
冷たく凍りきった空気を凝縮させ、フレスベルグは蒼く輝く球体を練り上げた。
それはさながら蒼く冷たい太陽の様。
その絶対零度の蒼い太陽に対するは、神をも焼き尽くす裁きの槍。
「――『神除き』。今度はこれをフレスにぶつけてあげる……!!」
バチバチと稲妻が走り、ほとばしる青白い火花が、周囲を焼け焦がしていく。
古の神々さえ葬ってきたこの槍をまともに喰らえば、いかにフレスベルグの姿とはいえひとたまりもない。
『二度は負けぬ、放ってみよ!』
一度は敗れたこの技だが、今回のこちらは龍の姿。
同じ手を二度も喰らうほど、フレスだって馬鹿じゃない。
「ひゃは! 死んじゃえええええッ!!」
『掛かってこい!!』
身体を大きく振りかぶり、ティアは稲妻の槍を投げ飛ばす。
その槍に対し、フレスベルグは蒼い太陽で対応した。




