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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 後編『沈む都市と聖なる剣』
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仮面型神器『見送りの風―センド・ウィンド―』

 蒼白く輝く光と共に、強烈な冷気が時計塔全体を凍らせていく。

 気温は一気に氷点下まで下がり、天井からはツララが伸びる。

 白く深い冷気の中から、氷の神龍フレスベルグが、その姿を現した。


「――へぇ、これが氷の龍フレスベルグか」


 仮面の男は驚く様子もなく、フレスベルグの姿をもの珍しそうに見ていた。


「フレス、かっこいいいい!!」


 ティアに至っては、なんだか楽しげである。


「ねぇねぇ、ティアも変身したくなっちゃった!」

「ダメダメ、ここは狭いし入れないよ。それに君は変身が出来ないんでしょ?」

「あ、そうだった。ティア、龍の姿に戻れないんだった!」


 心を破壊されているティアは、龍の姿に変身できない。

 それは本来こちらにとって有利になるはずである。

 だがウェイル達は全くと言っていいほど有利とは思っていなかった。むしろ人の姿のままの方が不気味に思えるほどだ。


「でも君の魔力なら、あれしきの龍くらい、余裕で相手できるでしょ?」

「う~ん。多分ね~」

「なら、そっちはお願いね」

「わかったー」


 のほほんとした返事をしながら、ティアは少女の姿のままフレスベルグへと向かいあった。


「さて、僕はこっちの先輩とやろうかな」


「――のんびりしていられるのも、今の内だけよ!」


 仮面の男(リーダー)が、ティアと呑気な会話を交わした時には、すでにアムステリアが鋭い蹴りを放っていた。

 

 ――ズバンと強烈な衝撃音。


「ふぅ、危ない危ない。確かにのんびりするのは無理そうだねぇ。先輩?」

「相変わらずいい反応ね、後輩」


 突き刺さったように見えたアムステリアの蹴りは、仮面の男にしっかりとガードされていた。


「お姉さんとこうやって殺し合うのは久しぶりだねぇ」

「そうね。アンタは知らない仲じゃないし、出来ることならやりたくはなかったけど」


 二人は一度離れて距離を取る。

 だがすぐさまアムステリアは猛攻に出る。

 床にひびを入れるほどの脚力で、一気にリーダーへ迫ると、マシンガンの様に蹴りを放った。


「ここで決着をつけてあげるわ!」

「いつ見ても怖いキックだよね。鋭すぎて目が追い付かないよ。一般人だったらさ」

「アンタが一般人でないことがとても残念よ!」


 アムステリアの音速の蹴りを、ひょいひょいと軽い身のこなしで避けていくリーダー。

 それだけでも十分凄いことではあるが、同時にウェイルへの警戒を全く解いていない。

 ウェイルもこの戦闘へ乱入するタイミングを、ずっと窺っていた。

 しかし、リーダーは常にこちらを意識して動いているため、アムステリアのサポートに入る隙がない。

 そんな手をこまねくウェイルを見て、リーダーはクスッと笑う。


「そういえばウェイルなんだよね? ルシャブテの恋敵ってさ」

「恋敵も糞も、私は最初からルシャブテには興味ないっての。私はウェイル一筋だから。それよりなんでアンタがウェイルのことを知ってるの?」

「ちょっとした――どころじゃないほどの知り合いでね。ほんの二十年前くらいの話なんだけど」

「そんな昔の知り合いのこと、よく覚えていたわね」

「案外わかるもんだよ? 身体は大きくなっているけど、顔は全然変わってないしねぇ」


 バチィッと鞭のようにしなる蹴りが、リーダーの腹をかすめる。


「うぐっ!? い、痛いなぁ、もう……」

「でしょ? そのまま倒れて楽になりなさい」

「やだよ。だってまだウェイルと話してないんだもん――――ふやあっ!?」


 今度はヒヤリとした刃が、リーダーの背中を撫でる。


「――俺を勝手に話の中心にするな」

「あ、ウェイル! 久しぶり! 元気してた?」

「俺の知り合いに、仮面で素顔を隠す変人なんていない」


 アムステリアの蹴りのおかげで、乱戦へ突入を果たしたウェイルが、氷の剣でリーダーの背中を捉えていた。


「二対一って、酷いよ!?」

「『不完全』を潰したお前達がよく言うよ」

「あー、そういえばそんなこともしたねー。忘れてた」


 シュタッと思い切り地面を蹴り、リーダーは二人から距離を取る。


「さて、お二人さん。どうして僕が()()()()と呼ばれているか、判るかい?」


 「さて、問題だ」と言わんばかりに、手を広げる仮面の男。


「そういえばそうね。リーダーならイドゥの方が相応しいはずだし」

「そうだよねー、僕もいつもそう思ってる。仲間達だって、皆イドゥをリーダーだと思ってるよ。僕は形だけって感じなのかな。…………それはそれでちょっと傷つくけど」

「自分語りが好きな奴だ」

「ウェイルは嫌いそうだね。そういうところも僕とは表と裏みたいで好きかな。で、正解はね――」


 ――この一瞬に、仮面の男からとんでもない殺気が放たれた。


「――仲間達の中で、僕が一番強いからなんだ」

「なんだと……!?」


 全身に戦慄が走り、恐怖で身体が震えた。

 恐怖によって生じたほんの僅かな隙、およそ2秒。

 仮面の男にとっては、2秒あれば十分であった。


 ――そう、仮面を付け替えるには、丁度良い時間。


 今の仮面をそっと脱いで、素顔を見せぬように顔を伏せ、いつの間にか手に持っていた羽根飾りのついた仮面と付け替える。


「さあ、お祭りを始めよう。最初の演目は――『見送りの風(センド・ウィンド)』――!! 轟く風をお楽しみあれ!!」


 羽根はゆらりゆらりと揺れ始め、リーダーは仮面から手を放す。

 その瞬間だった。


「――――クッ!?」


 猛烈な突風が、二人に襲い掛かる。

 その風は渦を巻き始め、その中心にはリーダーが佇む。

 さながら竜巻の様であった。


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