揃った役者
ついに四つの時計塔から、光の柱が天へ上った。
魔力光を放ち、ラインレピアを眩く照らす時計塔の姿に、住民達の反応は様々であった。
――ただ美しいと感嘆する者。
――異変を感じ、恐怖する者。
――祭りのイベントの一環だと、歓喜する者。
想いの方向性はバラバラだったが、その視線だけは時計塔に集中していたのは間違いない。
集中祝福週間の最終日。
未だ輝かぬ時の時計塔だけが、ひっそりと目覚めの刻を待っていた。
――●○●○●○――
――中央地区 時の時計塔。
「イドゥ、準備はいい?」
四つの時計塔の発動を確認した仮面の男リーダーは、声を弾ませながらイドゥに問う。
「ああ。ケルキューレ解放の準備は整った。すぐにでも開始できる。このまま何の邪魔も入らず、順調に事が進めば、な」
「何の邪魔も、ねぇ」
すでに何者かが邪魔に動いていることは、イドゥの能力からも判っている。
楽に計画を進めるならば、邪魔は無いに越したことはないが、リーダーの本音はそうじゃなかった。
むしろ邪魔のある方が楽しいとすら思っている。
「あ、ティアが帰って来たよ!」
窓から金色の翼を携えた少女が、室内に入ってくる。
帰ってきて早々、ティアは相好を崩した。
「イドゥ! リーダー! ただいま! ティア、とっても楽しかった!」
「そうか、良かったな、お嬢ちゃん」
「おかえり、ティア!」
口を開くなりそんなことを言ってきたが、主語がないので何のことかは判らない。
とりあえず二人は適当に相槌を打った。
「それで何が楽しかったんだ?」
「あのね! フレスと遊んできたの!」
「……フレス? 誰だ……?」
聞き慣れぬ名前。
ティアが他人の名前を覚えるなんて、滅多にない。
というより『異端児』メンバー以外の他人の名前を知る機会自体がない。
つまり元より知っていた名前ということになる。
「あのね! フレスはね! ティアのお友達だよ!」
「……友達?」
そこでピンと来たイドゥはリーダーと視線を交わた。
「フレスか。うんうん」
リーダーもなんだか満足げに頷き返してきた。
「いやぁ、ティアの友達がこの都市にいるなんて、僥倖だねぇ」
「ああ。これで全ての龍の居所を掴むことが出来た」
計画に龍は必要不可欠。
『セルク・ラグナロク』の通りならば、これでほぼ全てのパーツが揃ったことになる。
もちろんキーとなるパーツは、ここに封印されている神器であるが。
「ティア、『三種の神器』みたい! 早く封印、解いて!」
「そうしようか。僕だって早く使ってみたいし」
「そうしたいのは山々だがな。そうもいかないらしい」
イドゥはチラリと、時計塔ホール入口の扉を一瞥した。
ピアスを右手で握りしめ、左手は何もない空間を掴む。
「……どうやら、お客さんが来たようだぞ」
扉の奥より強い気配。
「あれま。行動早いねぇ。……いや、もう時計塔は発動したんだし、むしろ遅いのかな?」
「時計塔が発動するところまで想定して動いていたんだろう」
「お客さん? 誰~?」
ティアがワクワクと期待に胸を膨らませる中、来客者が扉を開けて姿を現した。
「――お邪魔ぞ。言葉通りにな」
「客が来たんだもの。お茶の準備は出来ているんでしょうね?」
「出来てるわけないだろ。『異端』な連中にそんな常識が通じるかよ」
「それもそうですね」
凛とした声と共に現れたのは、ウェイル、アムステリア、イルアリルマ。
そして遅れて――
「――ティア、まだお遊びは終わってないよ」
ティアが帰って来たのと同じ窓から、蒼い翼を携えたフレスが入って来た。
――ついに時の時計塔に、役者が勢ぞろいした。




