四つの時計塔が輝く時
スメラギの華奢な身体に、隕石の如き破壊力を持ったアムステリアの蹴りが、深々と突き刺さったのだ。
呼吸困難どころか、並大抵の人間ならば口から内臓を吐き出しかねないほどの、超威力のキック。
一瞬にして意識を失ったスメラギは、その勢いのまま吹っ飛び、壁に衝突。
そのままズルズルと血を吐きながら崩れ落ちた。
スメラギが意識を失ったことにより、彼女が放出した強酸は全て消え去っていく。
「な、何とかなったわね……!」
今のは流石のアムステリアも緊張していたようで、力が抜けてペタリと座り込んでしまう。
スメラギが最後に放出しようとした大量の酸は、すでにスメラギの頭上に精製されており、いつ発射されてもおかしくない状況だったのだ。
イルアリルマの完璧な指示があったからこそ、無事切り抜けることが出来た。
「ありがとう、リル。貴方に任せて良かった」
「いえいえ、私は私の出来ることを全力でしただけですから。本当に凄いのはアムステリアさんです。指示通りに身体を動かせる人なんて、そうはいないです。信頼してくださり、ありがとうございました」
「どういたしまして。でもあのスメラギって子、本当に凄いわね……。私、今回ばかりは本気で殺すつもりで蹴ったのに、まだ息があるんだもの。流石はイドゥの拾ってきた子ね……」
ともあれこの地域の危機は消え去った。
あそこで気絶しているスメラギは、しばらく目を覚ますことはないだろう。
止めを刺してもよかったが、やはり一応彼女の先輩として、また何度か彼女の恋愛相談を聞いてやった姉貴分として、殺すのはなんだか忍びない気がした。
「ここは守れたし、治安局に通報しておかないとね。その後はすぐにウェイルの元へ――」
よっこらせと、アムステリアが立ち上がった、その時だった。
「――アムステリアさん!? 多くの悲鳴が……!? もしかして!?」
「と、時計塔が、輝いてる……!? ……どうして……!?」
信じられない光景が、そこにはあった。
爛々と魔力を帯びて輝く、時計塔の姿がそこにあったのだ。
「あの子は倒したのに……!?」
チラリと横たわるスメラギを睨む。
「もしかして、彼女は囮だったのではないのでしょうか……?」
「……そうか……!! イドゥのやり方を失念してたわ……!!」
イドゥは常に保険を掛ける。
その保険は何重にも掛ける。
どんな状況に陥りようとも、彼の立てたプランを絶対に遂行するために。
『異端児』の誰かが、スメラギを囮にして計画を遂行させたに違いない。
急いで火の時計塔へ向かう。
「……やられたわ……!!」
辿り着いた時、時計塔の中は大炎上していた。
輝く魔力光は、天を目指して高く伸びる。
ついにこのラインレピアの都市に、四つの光の柱が上がったのだ。
「リル! すぐにウェイルと合流するわよ! 重力晶はあるわね?」
「はい! ですが私、目が見えないので、手を繋いでもらっていいですか?」
「勿論よ! 絶対に離しちゃ駄目よ!」
「はい!!」
ついに四つの時計塔の全てが発動した。
後は中央の『時の時計塔』を残すのみ。
そして、ついに現世に『三種の神器』が降臨する。
世界に蘇ってはいけない存在が、再びこの世界に現れようとしているのだ。
――ウェイル、フレス、アムステリア、イルアリルマ。
各々当初の目的こそ果たせなかったが、こうなることも想定済みだ。
次に自分のせねばならない使命を胸に、4人は中央を目指したのだった。
――●○●○●○――
「……うぐぐ……」
「無事か? スメラギ」
「……ぐぐ、……無事、じゃ、ない……」
「生きてる時点でお前は凄いぞ」
「……そ、その声、るーしゃ?」
「ああ、そうだ。お前を迎えに来た」
ルシャブテはスメラギを優しく抱きかかえた。
「任務、うまく、いった?」
「お前が囮になってくれたおかげでな」
「えへへ、るーしゃ、褒めて?」
「……ああ、よくやった」
「うん。るーしゃ、顔まっか」
「そのまま止めを刺すぞ」
「いいよ。るーしゃにら殺されたい」
「…………治療しに行くぞ」
「るーしゃにキスしてもらったら、すぐ治るのに」
「するかバカ。しばらく苦しめ」
「……けち」
「俺達の任務もひとまず終わった。リーダーの所に戻るのも面倒だ。作戦が上手く行けばしばらく忙しくなるし、このまま遊びにでもいくか」
「それ、デート?」
「ちげーよ」
こうして任務を終え、スメラギを回収したルシャブテは、彼女と共にこの都市から消えたのだった。
この二人がアムステリアと因縁の再会をするのも、そう遠くない未来のことである。




