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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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ウェイルの目

 二人がついに見つけた『不完全』と思われる人物は、イレイズとサラーであった。


「おやおや、意外と早く再会できましたね、ウェイルさん」


 イレイズはいつもと同じ表情で、しれっと言葉を紡ぐ。


「イ、イレイズ……!? 何故お前が真珠胎児を……!?」

「何故って言われましても。お話しましたよね。仲間と共に仕事をしにきたって。その仕事がこれなんです」

「そんなことを聞いてるんじゃない!!」


 信じられなかった。

 たった二回会っただけとはいえ、ウェイルはイレイズのことを気に入っていた。

 出来ればこれは冗談だと笑い飛ばして欲しかった。


「……お前、『不完全』だったのか!?」」

「――はい。私は『不完全』に属しております」


 そんな期待は淡々と話すイレイズによってバッサリと切り捨てられた。

 彼の目は本気だ。決して冗談なんかではない。

 イレイズは本当に『不完全』なのだ。


「ラルガ教会へ取引に行くっていってたよな。あれはどういうことだ」

「真珠胎児を納品してもらいにいったのですよ? 貴方に邪魔をされていくつか手に入りませんでしたけど」

「なんだと……!?」

 

 怒りで歯を食いしばっているのが自分でも分かる。


「サラー、君もそうなの……?」


 フレスが声を震わせて尋ねる。

 それに対しサラーは少しだけ俯きながらイレイズへと寄り添った。


「……私はイレイズについていく。昔も今も、そしてこれからずっと。ただそれだけだ」

「サラー……!」

「さて、どうします? ちなみにここに納品したのはすべてレプリカですよ?」


 イレイズが余裕たっぷりな表情で両手を広げ、語り始めた。


「貴方はここで私達に手出しは出来ないはずです」

「ああ、そうだな」


 イレイズ達は違法なことをしていた訳ではない。

 合法であるレプリカの出品をしにきただけだ。

 こちらとしても、今回の目的は敵の顔を見ることだ。

 下でアムステリアが暴れていることは棚上げするとして、これ以上、事を荒立てるつもりもない。


「私達はたった今仕事を終えたところです。そろそろ帰らねばなりません」


 イレイズがウェイルの方へと足を進める。


「ではウェイルさん。またお会いしましょう。次はそちらが奢って下さいね?」


 イレイズはウェイルの肩をポンと叩くと、サラーと共に部屋から出て行こうとする。


「――待て」


 奴らは『不完全』の一員だ。それは疑いようのない事実だ。

 だが、何か違う。そう感じたのだ。

 何故そう感じたのかは分からない。

 無意識のうちに、つい呟いて引き止めていた。


「どうかしましたか?」


 イレイズがこちらに振り返った。

 その顔は怪訝な顔をしていた。


「俺はプロ鑑定士だ。だから自分の目には自信がある。その俺の目は、お前達は他の『不完全』連中とは違うと言っている」

「なら貴方の目が腐っているのでは? 私達はこういう集団ですし、その一員である私だって同じです」

「違うな。お前は明らかにこの仕事を嫌がっている。俺には判る」

「何を仰るかと思えばそんな戯けたことを。貴方は私を買いかぶりですよ。わずか二度お会いしただけじゃないですか。私は自ら進んでこの仕事を引き受けたのですよ?」

「ならどうして、以前仕事の話をした時、辛そうな顔をしていたんだ?」


 相変わらず余裕たっぷりな表情を浮かべていたイレイズだったが、ウェイルの言葉を聞いた瞬間、表情が少し怯んだ様に見えた。


「サラー、お前だって判っているんだろう? こいつが好きでやってるわけじゃないことくらい」

「…………」


 サラーは何も反応しなかった。でもそれは肯定したと同義でもある。


「何故こんなことをしているんだ? これがどれほど酷いことか、お前は理解しているはずだ。善悪の分別のつく人間なのだろう!? お前は――」


「――知ったような口を語るな、鑑定士!!」


 イレイズの保っていた表情が露骨に変わった。

 だがそれは怒りの表情ではなく、悲しみに似た何かだ。


「貴方の言うとおりですよ。私だって、本当はこんなことをしたいわけではない! だがやらなくてはならない! やらざるを得ない事情がある!」

「イレイズ……? どうしてそこまでして……」

「『不完全』の仕事だからですよ!! それだけです!!」


 ウェイルには彼の気持ちが全く理解できなかった。

 やりたくない。ならばやらなければいいだけのことだ。


「仕事で人を殺め、仕事で違法品を集める。私だって判っていますよ!! これが如何に酷いことかを!」


 イレイズは半分自暴自棄のように、荒く言葉を紡いでいく。


「だったら止めればいい! どんな事情があるにしろ、それを決めるのは自分だろ!!」

「くっ……!!」


 ウェイルの言葉にイレイズが詰まった時、ウェイルの足元からボワッと小さな爆発が起こった。


「おい、お前……!! 少し黙れ……ッ!!」


 ずっと無言だったサラーがついに口を開けた。

 怒りに満ちた瞳でウェイルを睨むサラー。

 サラーの腕には輝く炎が揺らめいている。


「これ以上イレイズを侮辱するなら……焼き尽くしてやる……っ!!」


 サラーは左手をウェイルの方へ向けた。

 その手からは真紅に炎が立ち上り、より一層激しさを増して燃え盛っていた。


「事情も知らない癖に、イレイズを馬鹿にしやがって……! 絶対に許さない……!! この炎に焼かれて、骨になってしまえ……!!」

「――させないよ」


 フレスがウェイルを庇うかのように両手を広げた。


「サラー、お止めなさい」


 イレイズが前に出ようとしていたサラーを制した。


「だがイレイズ、こいつらお前に酷いことを!!」

「いいんです、サラー。ウェイルさん達は立場上私に手が出せない。それなのに私達が手を出してしまったら、それは卑怯者でしょう?」


 先程とは打って変わってイレイズの表情は落ち着いていた。

 イレイズに諭され、サラーは手を下ろして炎を消す。

 だがその目に灯る怒りの炎は、未だウェイルに向けたままだ。


「ウェイルさん、そろそろ時間ですので失礼したします」


 そう言いウェイルに背を向けた。

 去り際に言い放つ。


「次に会ったと時、私の邪魔をするようならば今度は容赦いたしません。全力でお相手いたします」


 ――これは警告か? いや何か違う。


 この言葉の中に殺気や悪意といった類の感情は感じ取れない。

 何か悟ってくれと、そんな感じのする口調だった。

 だとすると――


(……何を伝えたいんだ……?)


 ――そう、これはヒントだ。


 本当はイレイズだって止めたいのだ。『不完全』の暴走を。

 だが何等かの理由でイレイズは『不完全』に逆らうことが出来ない。

 イレイズが本当にウェイルを邪魔だと思っているなら、今ここで消すはずだ。


「……次に会った時……? ……つまりもう一度会うことがあるということか……?」


 イレイズの台詞は、必ず近いうちにまた出会うことになるという示唆だ。

 つまり『不完全』の犯行は今から行うということ。

 そして『全力で相手をする』という言葉は、戦わざるを得ない状況があるという示唆。つまりは違法取引があるということ。


「サラー、行くよ。確か六番街の酒場『ハーヴェスト』で、十九時からだったね」


 そう言った後、イレイズはウェイルの方を一瞥し、部屋から出て行った。

 サラーは最後までウェイルを睨んだままだった。


 ――最後のヒント。


 これはもう決定的だ。

 六番街にある酒場『ハーヴェスト』。この場所で裏オークションが開催される。

 今の時間は十八時ジャスト。開始時間まで後一時間だ。


「フレス、俺の目は腐ってなんかいなかったよ」


 イレイズは良い奴だ。間違いなく、絶対に。

 今は何らかの事情があって『不完全』にいる。

 だが他の『不完全』みたく人として腐っているわけではなかった。

 イレイズは半ば諦めているとしても、まだ『不完全』を止めるチャンスがあるという希望を持っているのだ。

 イレイズはその希望をウェイルに託した。

 そうでなければ、最後にヒントなんてくれやしない。


「フレス、俺達も酒場に行くぞ!」

「うん! 裏オークションを潰しに、そしてイレイズさんとサラーを救いに、だね!」


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