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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 後編『沈む都市と聖なる剣』
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強酸使いのゴスロリ娘、スメラギ

「お久しぶりね。名前は確か……スメラギ、だったっけ?」

「うん。久しぶり」

「……え? 知り合い、なんですか?」


 状況の見えぬイルアリルマが、少し戸惑いながら訊ねた。


「知り合いってほどでもないわよ。こいつはね、昔私の命を狙っていた殺し屋さんよ。よく追いかけられていたわ」

「え!? 殺し屋!?」

「別に追いかけてない。貴方には興味ないもの」

「よく言うわよ。それはそうと、あの男――ルシャブテとの仲は上手くいってるの?」


 愛しの異性の名前を出され、少し驚くスメラギだが、すぐに顔を赤くして憤り始めた。


「アムステリア……!! 私からるーしゃを奪おうとする、酷い女!! 泥棒猫!!」

「それは誤解ってずっと言ってるでしょ。私はあんなヘタレには興味はないの。ウェイル一筋だから。だからあのヘタレは貴方のものよ?」


 相変わらずねぇと、アムステリアは苦笑する。


「るーしゃはヘタレじゃない。むしろ積極的。肉食」

「あら貴方、襲われたことがあるの?」

「な、ない……。……いや、ある。既成事実を作った」

「それ、嘘ね」


 この質問をすると、スメラギはうつむきウジウジするものだから、嘘かどうかなんて丸わかりだ。

 実に可愛らしい後輩だ。

 ――恐ろしい神器を所持していなければ、だが。


「ま、ルシャブテのことは自分で頑張りなさい。何ならまた相談に乗るわよ? その代り条件があるけど」

「条件? 出来ることなら聞く」

「この騒ぎを止めなさい」

「無理」


 一瞬たりとも時間を置かず、スメラギはそう返答した。


「ここは私の担当。火の時計塔を起動しないと、イドゥ喜ばない」

「イドゥの為に、その他大勢の人間を犠牲にする気なの?」

「そう。私はるーしゃとイドゥさえいればそれでいい。他の人間なんて、どうでもいい」

「話し合いの余地なし、か。貴方に関して言えば、最初からそんなものは期待してなかったけど」


 瞬時に空気が張りつめる。

 肩に掴まるイルアリルマも、グッと力を込めて振り落とされないように覚悟した。


「この時計塔を発動されたら困るの。だから貴方を殺す。いいわね?」

「それはこっちの台詞。お前、るーしゃを奪う悪い女。絶対に許せない……!!」


 理不尽すぎる嫉妬であるが、その憎悪は彼女の魔力を増強させ、神器を覚醒させていく。


「みんな、みーんな、溶かしてあげる! 神器『強酸手袋(アシッド・ハンド)』!」


 フリフリのゴスロリドレスをはためかせ、スメラギの手から魔力光が弾け飛ぶ。

 その光は緑色の液体となって、彼女の周辺を包んでいった。


「アムステリアさん、二歩下がって!!」


 イルアリルマの指示で即座に動く。

 その2秒後、今いた場所に瓦礫の山が降って来た。


「あ、危ないわね……!!」

「あの神器、おそらく魔力を強酸のような性質に変えているんだと思います!」

「厄介ね。あの液体自体も脅威だし、建物を溶かして瓦礫を武器にするってことも出来るのね。あの子、見た目に反して結構賢いわ。神器の特性をよく理解して使いこなしている」


「結構じゃなくて、私、賢い。失礼な女」


 アムステリアの声が聞こえたのか、スメラギはさらに魔力を酸に変えて、周囲の瓦礫を飲みこんでいった。


「えげつない能力ね……!!」


 何でも溶かす強酸を、自由自在に操る力。

 その量も範囲も彼女次第。えげつないにもほどがある。


「彼女に近づこうにも、瓦礫と酸の二重罠(ダブルトラップ)を潜り抜けなければいけないのね……!! 分が悪いわ」


 強酸の量はさらに増え、アムステリア達を囲むように広がっていく。

 コポコポと泡立つ強酸の飛沫が服に付いた。

 シュウと音を立てて、嫌な臭いが立ち込める。


「本当に厄介ね……!!」


 強酸は壁のように周りを取り囲んでいく。

 身動きが取れなくなるのも時間の問題だ。

 アムステリアにしては珍しく、正面から向かうことは止めて一旦距離を取ると、強酸の壁から脱出を図る。

 そして目の前にあった建物の中に身を隠した。


「……ふぅ、この建物なら、少しは耐えそうね。あまり長居は出来なさそうだけど……。ここの住人は逃げているのかしら?」

「人の気配は感じませんので大丈夫だと思います。時計塔へ逃げたのかと」

「それはそれで問題だから困りものよね」


 そこで一旦、イルアリルマを肩から降ろした。


「大丈夫ですか、アムステリアさん」

「ええ。酸が少し服に当たっただけ。……いや、あまり大丈夫ではないわね。この服、お気に入りだったから……!! あの子にはきついお仕置きが必要ね」

「しかしどうします? ここに隠れていてもいずれは溶かされてしまうでしょうし……」

「そうなる前に服の恨みも兼ねてあの子をブッ飛ばしたいんだけど、それも難しそう」


 自慢の蹴りを浴びせてやれば、この状況は打破できる。

 そこまではいつもの敵と同じだ。

 だがスメラギにだけは、それが通用するのか疑問だ。


「あの子、結構強いのよねぇ……。体術も相当なものだし」


 アムステリアがそう評価する程、スメラギは強い。

 それこそ彼女が愛してやまないルシャブテよりも、遥かに戦闘能力は高いのだ。

 『不完全』を裏切り逃げていたところへ、彼女は何度も刺客として現れた。

 彼女との戦闘は、大抵途中から恋愛相談に変わっていたが、戦闘中はアムステリアも結構全力で戦っていた記憶がある。

 そんなスメラギが、今は厄介な神器すら所持している。

 不死身の肉体を持つ自分でも、苦戦を強いられるのは想像に容易い。


「あの子に近づければ何とかなりますか?」

「近づければね。それが一番難しいのよ」


 触れてはいけない強酸の量が多すぎて近づくことが出来ない。この点が問題だ。

 自慢の蹴りも間合いを詰めねば不発どころか放つことさえままならない。


「判りました。私が必ず、貴方をあの子の目前までお送りします」

「……どういうことなの?」


 突然のイルアリルマの提案。何か策でもあるのだろうか。


「私の察覚と聴覚を使えば、多分何とかなります」

「リルの感覚ね。なるほど」

「私を信じてください。お願いします」


 力強いイルアリルマの言葉。

 アムステリアは、その言葉を信頼し頷いた。


「おっけ、任せる。私を奴のとこまで導いて」

「はい!」


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