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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 後編『沈む都市と聖なる剣』
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氷の龍 VS 光の龍

「あはは! 楽しいな! もっともっと、壊せるよ!!」


 ティアにとっては、シュトレームの躯は、ただのおもちゃに過ぎない。

 壊れたおもちゃを、自らのストレス発散の為に利用する。

 血飛沫の上がる音、肉の裂ける音、骨が砕ける音。

 無垢に、無邪気に、ティアは何度も躯で遊んだ。

 この世でもっともおぞましい音のオーケストラが、そこにあったのだ。


 この過激な歌劇に、氷を司るフレスですら全身が凍りつく思いで、言葉は口から封印されていた。


 ――絶句。


 ――同時に戦慄。


 ――しばらくして――憤怒。


「止めなよ……!!」

「何を?」

「その行為だよ……! もしこれ以上続けるなら、ボクはもう君を許せそうにないよ……!!」


 自分には任務がある。

 この都市(ラインレピア)を救うには、彼女の龍の力を止め、その後に来る予定の大災害を防がねばならない。

 だから何が起ころうと冷静に、物事を対処せねばならない。

 それは師匠(ウェイル)と約束したことだし、ようやく自分を認めてくれた大切な仲間(アムステリア)との誓いでもある。

 だがティアの奇行は、そんなフレスの決心すらも揺るがしかねないほど、心を震撼させる破壊力を秘めていた。


「嫌! だってこれ、ティアのおもちゃなんだもん! ティアのおもちゃをどうしようと、フレスに関係ないもん!」


 ムッと、ティアの顔が不愉快そうに歪む。

 それと同時に、躯で遊ぶ勢いも増していた。

 砕ける骨の音は、その内しなくなっていく。

 何せ砕けるところはもう全て、どこもかしこも砕いてしまっていたのだから。

 もうティアがこれ以上出来ることは、それをすり潰すくらいしかない。

 もう犠牲者は助からないと知って、フレスは落ち着けと自分に言い聞かせる。


「ティア、君は騙されているんだよ。変な連中と付き合っちゃダメ。きっと楽しくなれないよ?」


 戦闘になることは覚悟はしているし、フレスもその気でここへやってきている。

 今の惨劇を見せつけられて、話し合いなどで解決できる余地はない。

 そうは思ってはいるのだが、これも仕事の一つ。

 とにかくこちらの魔力と体力は、少しでも温存しておきたい。

 ならば説得することも選択肢には入れておかなければならない。


「君が今一緒にいる人達は、とっても悪い人達なんだ。このアレクアテナ大陸を滅ぼすつもりなんだよ。ティアはこの大陸のこと、好きだったじゃない? 楽しいことが一杯あるからってさ」


 フレスは慎重に言葉を選んだ。

 ティアの心がすでに壊れていることを、フレスはよく知っている。

 神々が世界を支配していた時代から、彼女は壊れていたのだから。

 だがフレスは慎重さを見誤った。


「ティアが、この大陸のこと、好き? フレス、それはどこで聞いたの?」


 ティアの反応は、露骨に嫌悪感を示していた。


「……そう昔言っていたじゃない」

「ううん、言ってないよ。ティア、楽しいことは好きって言った。でもこの大陸のことは、そうでもないよ」


 見誤ったと、とっさにフレスは理解した。

 だからこそ、背中の翼に力を集中していく。


「ティアね。今イドゥやリーダーと一緒に遊んでるんだ。この大陸を滅ぼすんだって。楽しそーでしょ! だから、フレスのお願いは聞けないかな。それとも何? フレスがティアと遊んでくれるの?」


 ブワッと、ティアを中心に、とてつもない魔力が一気に放たれた。

 光り輝く魔力が、ティアの周りに渦巻き始める。


 ――その時である。


 ――ゴーン、ゴーンと、時計塔の鐘が鳴り響いた。


 光に包まれた時計塔が、鐘の音を響かせるのは、さぞ絶景であるだろう。

 出来れば自分も、そんな美しい光景を楽しみたかった。

 だけどこうなってしまった以上、最悪の事態を止めるべく、すぐさま行動を始めなければ――


 ――この都市が壊滅してしまう可能性だってある。


「ティア、遊んであげるよ。ボク、久しぶりに本気でやるよ」


 フレスは覚悟を決め、そう告げた。


「遊んでくれるの? でも、ティア、ちょっと忙しい。合図、鳴ったから」

「いいや、残念だけど、ボクのワガママを聞いてもらうよ。君にお仕事はさせない。君にお仕事なんて似合わないよ。君はいつも遊んでいる方が似合ってる」

「えー、フレス、ワガママ~! ティアだって、たまにはお仕事したいも~ん!」


 そうは言いつつも、ティアの目は笑ってはいない。

 無表情で、ティアは翼をはためかせ、宙を舞った。


「ごめんね、ワガママで。でも、お互い様だからね!」


 フレスもふわりと宙を舞う。

 全てを消滅させる光と、全てを凍てつかせる冷気が、空中にてぶつかり合う。


「さ、ティア、ボクに付き合ってもらうからね」

「……いいよ。フレスのワガママに、付き合ってあげる!」


 二人は互いに魔力を溜めると、力比べをするかのように、龍の誇る凶暴な魔力をぶつけ合った。


 ――光の龍と、氷の龍。


 その戦いの余波は振動となりて、周囲の地区を震わせていた。


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