思わぬ二人組
「――なっ!」
「ねぇ、出品者はどこかしら? 教えてくれたら、もっともっとイイコトしてあげるのだけど……?」
「な、なんだ!? そのイイコトってのは……?」
「やだ、これ以上女の私に言わせる気?」
アムステリアのウインクと、さらなるキス攻撃がベガディアルに襲い掛かる。
「嵌めようとしているわけじゃないのよ? ただ貴方に一目惚れしただけ。だって仕方ないじゃない? 貴方って私のタイプなんですもの。フフッ……」
目を細めてさらにベガディアルを誘う。
ウェイルの勘違いだろうか。
アムステリアの腰から、黒い尻尾が見えたのは。
「うっ……! ……フフフ、解った。そのイイコトってのをしてもらおうじゃないか……」
――落ちた。
ついに落ちてしまった。
なんと恐ろしい罠なのだろうか……。
「べ、ベガディアル様、いいのですか!? ベガディアル様を篭絡して情報を得ようとする、この女の罠ですよ?」
「構わん。これが罠だとしてもワシは男だ。女のこやつより何倍も腕力がある。いざとなったら叩きのめしてやる。たっぷりと可愛がってやろう。情報は私が満足したら教えてやろう」
「ああ、もう、じらすわね! それなら早くイイコト、しましょ?」
アムステリアはウェイルに向けて軽くウインクすると、ベガディアルと共に近くの部屋へ入っていった。
「アムステリアをそこらの女と同じに扱うと死を見るぞ……」
あの部屋に入ったが最後、もうベガディアルに勝ち目はない。
正直ベガディアルには、これから身に降りかかる災難を思えば、少し同情してしまう。
「ねぇ、ウェイル。イイコトって何するの?」
純粋無垢なフレスがこれほどまでに可愛いものかと心底思い知らされた。
やはり純粋さが一番であるとウェイルは心から噛み締めた。
「何するの?」
「……後で教えてやる。それよりも出品者を探すぞ」
「うん。わかったよ。後できっと教えてよね! 絶対だよ!」
(――教えるつもりはないけどな)
「ぎゃあああああああああああああああああああ!?」
アムステリアとベガディアルと共に入っていった部屋から、身も毛もよだつような悲鳴が上がる。
地獄の扉を開くかの如く、アムステリアが扉を開けて戻ってきた。
その手は何故か真っ赤に染まっている。
「はぁ、危うくあの汚らしい男に肌を触られるところだったわ。さっきのキスも反吐が出そうだったし。ウェイル、口直しに私とキスしてよ」
「するわけないだろ。ベガディアルはどうした?」
「さあ。きっと今頃は天国だわ」
「手を真っ赤にするほどいいことしたってのかよ……」
ウフフと妖しく微笑むアムステリアに、ウェイルとフレスの冷汗は止まらない。
「ベ、ベガディアル様!?」
「血だらけだ!? おい、そこの女! これは一体どういうことだ!?」
「どういうことも何も、その人、私に抱き着こうとして間違えてそこにある鉄の甲冑に思いっきり抱き着いちゃって思いっきり頭を打ってたわ。ついでに私も足を滑らせて股間に蹴りが当たっちゃって、ついでに顔面にも拳が入っちゃったの。全部事故なのよ、信じて!」
「うわぁ……、酷い嘘だね……」
フレスが思わずツッコミを入れてしまうほどの清々しい嘘に、ボディーガード達は身体を震わせて怒りを露わにしていた。
「許さんぞ、貴様ら……!! この会場から出られると思うなよ……!!」
続々とアムステリアの周りには、武器を構えた男が取り囲んでいくが、等のアムステリアの顔は涼しげである。
「ウェイル、場所は聞き出せたわ。二階に王冠のエンブレムが付いている部屋がある。そこが真珠胎児の保管場所みたい。ここは私に任せて、早く行って」
「ああ、判った」
「ウェイル、テリアさん一人にしてもいいの!?」
「問題ないさ。俺達は二階へ行くぞ」
アムステリア一人を残し、ウェイルとフレスはこの場を離れて階段を駆け上がっていった。
「逃がすか――ふぐっ!?」
二人を追いかけようとした男は、気づかぬうちに床に転がったことだろう。
アムステリアの足が、彼の鳩尾に入っていたのだから。
「ウェイル達は追わせないわ。貴方達の相手は私よ。掛かっていらっしゃい!」
アムステリアによる阿鼻叫喚の地獄絵図が、これから繰り広げられようとしていた。
――●○●○●○――
二人が二階に駆け上がると、目的の部屋はすぐに見つかった。
王冠のエンブレムが描かれた扉を開き、部屋の中に潜入する。
「……誰か、いるね……!!」
部屋の奥から人の気配を感じた。
耳を澄ますと、微かに会話も聞こえてくる。
声の数から人数は二人。男と女の声だった。
「お前達が『不完全』だな!! 姿を見せろ!!」
ウェイルとフレスは意を決し、敵の前に飛び出した。
だが次の瞬間、ウェイル達は凍りつくことになる。
「――なっ、お前っ……!?」
「――え……!?」
何故なら二人が見た『不完全』と思われる人物は――
――イレイズとサラーだったからだ。




