死闘、開始
――9:00。
火の時計塔および音の時計塔では、アムステリアとイルアリルマによって、とある騒ぎが起こっていた。
それぞれの時計塔から、もくもくと煙が上がっていたのだ。
それに治安局が厳戒態勢を引き、時計塔を取り囲んでいる。
「計画通りにことが進むのは、なんて快感なのかしら……!!」
二人が一体何をしたのかというと、簡単な爆弾を作製し、時計塔内で爆発させたのである。
さらに治安局に爆破予告の電信を匿名で送りつけた。
これにより、火と音の時計塔周辺には、治安局員が配置され、現場検証のために入場を規制することに。
「……はぁ、いくら任務とはいえ、悪いことをしちゃうのは気が引けます……」
「あーっはっはっはっ!!、たまにはこういうやり方も悪くないわね! 癖になっちゃいそう!」
両者の正反対の意見は置いておくとして、一応の人払いは成功したのであった。
しかし懸念事項はまだある。
何せ敵の奥の手を、二人は知っているのだから。
「こればかりはフレスにお願いするしかないわね」
「フレスさん、頑張ってください……!!」
――●○●○●○――
――水の時計塔。
「また会ったな」
時計塔のホール内で椅子に深く座っていたダンケルクの背中に、ウェイルは声を掛けた。
「……ん? ウェイルか。……一体何をしに来た」
「カラーコインを返してもらいに」
「だから俺はもう持ってないって言っただろう?」
「一応先に聞いてみただけだ。期待していたわけじゃないさ」
「なら、何の用だ? ……って聞くのも、もう野暮かもな。知っているんだろ? 俺達の計画」
「ああ。だからお前らを邪魔をしに来た」
「ま、そうなるよなぁ」
ゆっくりと顔を此方に向けるダンケルクに、ウェイルは不敵な笑みを見せつける。
「俺はお前に逃げろと言ったはずだぞ? 先輩の忠告は聞くもんだ。笑ってないで、逃げた逃げた」
「なら計画を止めてくれという後輩の頼みも聞いて欲しいもんだ」
グーッと、背伸びをしながら立ち上がったダンケルク。
軽快な身のこなしで、ひょいと壇上へと上がると、腕を組んでウェイルを見下してきた。
「そうはいかんわけだ。俺達にも目的があってな」
「『三種の神器』だろ。何に使う?」
「さてな。そいつはリーダーやイドゥに直接聞いてくれ。俺は興味ない」
「興味がないなら別にいいじゃないか。ここで止めてくれても」
「う~む。確かにそう言われたらそうだな……。まぁ、それでもあいつらは裏切れんよ。何だかんだで面白い連中だからな。しかしお前がここに来るってことは、フロリアから全部聞いたな?」
「ああ、そうだ」
「だよな。全くあいつもブレないよな。裏切りのプロだ。そこが面白いところであるし、憎めないところでもあるんだがな」
「いや、憎めはするだろうよ……」
豪快に笑うダンケルク。
だがその表情は次の瞬間には一気に鋭いものとなった。
「フロリアについては正直どうだっていい。今俺が興味あるのは、お前が俺の邪魔をするか、しないか――それだけだ」
「奇遇だな。俺もほとんど同じことを考えている。お前が止めるか、止めないか、だ」
「流石は先輩後輩。考え方も似てくるか」
「残念ながら、そうみたいだな」
互いに、一瞬だけフッと笑うと、瞬時に殺気を放ち、ぶつけ合った。
「俺を止めたいなら、俺を倒せばいい。俺に負けを認めさせてら、この計画から手を引いてやる」
「いいのか? そんな約束して。折角お前を止めるために色々と考えてきたのにな。寝ずに考えた泣き落とし説得用の原稿をどうしてくれる。そんな単純でいいなら、これほど楽なことはない」
「その説得とやらは少し聞いてみたいな。まあ、後輩想いの先輩に感謝するこったな。それにさっき言ったろ。俺は『三種の神器』には興味ない。ただ、俺が楽しければそれでいいのさ。『異端児』ってのは、そういう連中が集まっている」
ウェイルは氷の剣を精製し、ダンケルクは双剣を構えた。
「久々に本気でやりあえる。楽しみだよ、ウェイル」
「正直俺は全然楽しくないんだけどな……!」
「考え方、全然似てないじゃないか」
「残念なことにな。だってそうだろ? 親切な先輩に、俺が引導を渡すと考えたら気が重いよ」
「言ってくれるねぇ。生意気に後輩にはお灸が必要のようだ」
「是非やってくれよ。それは楽しみだ」
「やっぱり似てるじゃないか、後輩」
「みたいだな、先輩」
瞬時、氷と鋼がぶつかりあう。
氷の溶けた水しぶきと、耳に刺さる金属音が鳴り響く中、二人は互いの目だけを睨み付けていた。
「もっとスピードを上げるぞ。ついて来れるか?」
「後輩は先輩に言われたら嫌でもついていくもんさ」
さらにスピードの上がった斬撃の応酬が繰り返されていく。
――二人の死闘が、今、始まった。




