表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
532/763

甘さと優しさ

「魔力を吸う、かぁ……」


 神器の特徴を聞いたフレスは、何やら心当たりがあるのか、少しそわそわしている。


「ボク、それ聞いたことあるかも。人間の魔力を無理やり奪って、死ぬまで吸い続ける旧神器だ。多分ミルはボク以上に詳しいと思うよ。ボクはミルから聞いたんだからさ」


 その昔、フレスとは違ってミルは率先して神器を持つ人間達と戦っていた。

 だからミルはフレスよりも神器に詳しく、この神器は気をつけろと釘を刺されたことがある。

 それが今回の神器だとフレスは言う。


「それほどの神器を持っているということは……。アムステリア、襲ってきた女と言うのは『異端児』だったのか?」


 ウェイルの質問に、アムステリアはコクリと頷いた。


「そうね。イドゥの名前に反応していたし間違いないかしら。……イドゥってば、あんなじゃじゃ馬、どこから拾って来たんだか。……まぁ私も人のこと言えないけど」


(全くだ)

(全くです)

「全くだ! ……フギャ!?」

(……バカフレス……)


 思ったことを口にしてしまうフレスは何と素直で、そして愚かなのであろうか。

 笑顔のアムステリアから繰り出されたチョップは、フレスの頭上に、綺麗な(タンコブ)を作らせた。


「うみゅう、痛い……」

「お前、そろそろ思ったことをすぐに口にする癖は直さないとな。リグラスラムでも痛い目を見ただろうに」

「ううう、だって勝手に口から出ちゃうんだもん……」

「……ホント、馬鹿な娘……」


 呆れるアムステリアは、そんな二人を無視して話を続ける。


「私が聞いた情報では、『異端児』は『三種の神器』を求めているということよ」


 直接聞いた情報であるし、何よりイドゥが絡んでいる。間違いはなさそうだ。


「他に情報は?」

「ごめんなさい。これくらいしか判らなかったわ。あの子、イドゥの為なら命は惜しくないと言っていた。事実、自分自身の魔力を神器に吸わせていたくらいだしね。そこまでするような子だから、おそらく拷問したって口は割らないでしょう? だからこれ以上の情報は手に入らなかったわ」

「……そうか」


 話を聞く限り、その女もかなり狂っている。

 彼女にとって、命の価値とは、とても軽いものなのだろう。

 人を殺すことに躊躇いはなく、恩人の為ならば、己が命すら投げ捨てる。

 こういう覚悟を決めた者は、とにかく危険で厄介だ。

 もしこれから対峙することになるのならば、これほど恐ろしい存在はいない。


「なぁ、どうしてそいつを助けてやったんだ? 自分の身を挺してまで」


 これから脅威となる存在なわけだ。潰すなら早いに越したことはない。

 それが判らぬほど、アムステリアは甘く温い女ではない。

 つまり彼女はあえて敵を生かしたのだ。その理由が気になった。

 ウェイルの質問に、アムステリアは少し困った――というより申し訳なさそうな顔をする。


「一応、私にとっても恩人だからね」

「……恩人?」

「ええ。恩人なの。『異端児』を実質的に指揮しているイドゥって男は、私とルミナステリアにとって命の恩人なの。以前話したことあるでしょ?」

「……ああ、そういえば聞いたよ。貧困都市(リグラスラム)のジャンクエリアで、お前達を拾ってくれた男だな?」

「そう。もしあの時イドゥと出会ってなかったら、私とルミナスは既にこの世にはいなかった。そして命を『救ってくれたばかりか、私達に仕事と、そして居場所をくれた」


 ――ああ、だからか。

 先程アムステリアが懐かしそうに笑みを浮かべていたのは。


「イドゥは拾ってきた子供達を、心の底から大切にしてくれる。おそらく今日会ったあの子も、イドゥに大切にされていたのね。だから命を捨ててもいいなんてまで考える」


 ――そう、アムステリアは、放っておけなかった。ただそれだけだ。


「私は彼女の気持ちが理解出来た。私だって、昔はイドゥとルミナス、リューリクの為なら命なんて惜しくなかったもの。だからかな……」


 ――アムステリアは優しい。何せ――


「彼女をみすみす殺したくはなかった。だって、彼女が死ねば、イドゥ、絶対に悲しい筈だから」


 ――自分と同じような境遇の、それも後輩を、敵と言う垣根を越え、同情してしまっていたのだから。


「躊躇いなく人を殺す人間だけど、イドゥは自分の子供のことだけは本当に大切にしていたから。私もね、少し甘くなっちゃった」

「…………そう、か」


 ――憂いた表情を浮かべるアムステリアのことが、何故だか少し愛おしく見えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ