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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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胸の痣

「私は人助けをしちゃっただけだからね。あまり面白い情報は手に入らなかったわ」


 アムステリアは光の時計塔での出来事を、かいつまんで話した。

 すでに奴隷オークションは潰されていたこと。

 その奴隷オークションを潰した張本人の女と死闘を繰り広げたこと。

 そしてその女の命を助けたこと。


「あの娘が持っていたのは剣型の神器だったのだけど、相当な業物だったわ。あの魔力は並大抵の神器では出せない。おそらくは旧神器」

「旧時代の神器だったの!?」


 現代の神器は、ある程度解析された情報を元にして人工的に作られた神器が多い。

 量産が効く分、性能は旧神器に比べて抑えられている。

 逆に旧時代の神器は、未だに解明されていないことが多く、また数も少ない。

 その分性能が非常に高く、扱える魔力量も桁違いだ。


「その神器の特徴は? フレスなら判るかもしれん」


 旧神器ならばフレスの得意分野。

 フレスの神器に関する知識には、今まで何度も助けられている。


「特徴か。大きさは本人の背丈より高かったわ。大の大人が三人くらいいないと持ち上げられないほど大きな剣だった。刀身は黒光りしていて、破壊力は凄かったわね。刃物であると同時に鈍器でもあったわね」

「おい、ちょっと待て。大人が三人で持ち上げるような大剣って、お前を襲ったのは女一人なんだろ!? どういうことだ!?」

「どういうこともこうもないわよ。巨大な剣を、女の子が軽々と片手で振り回してきた。ただそれだけのことよ」


 ウェイルの常識では、あまり想像できない光景である。


「神器が持ち主に怪力にするとか、持つときだけ軽くなるとか、そういう能力を持っている神器なら結構あるよ?」

「う~ん……。多分あの子は、本当に怪力なのよ。だってその神器の能力はそんな生易しいモノじゃないから。ほら、ウェイル、見て?」

「何を――――だっ!?」

「あわわわわっ!? テリアさん!? 突然何してんのさ!?」

「……?」



 アムステリアは、唐突に衣服を脱ぎ始めたかと思うと、下着まで脱ぎ捨て上半身裸となり、自慢のスタイルを二人に見せつけてきたのだ。

 一人視力のないイルアリルマ以外は、突然のアムステリアの奇行に目を丸くしていた。


「ほら、ウェイル? 欲情した? 襲ってきてもいいのよ?」

「馬鹿なこと言ってんじゃない! 早く服を着ろ!」

「おおおおおお、おっぱいが大きい!? そういえばテリアさんの裸って、今まで見たことなかったかも!?」

「ほーら、ウェイル! ここを見て?」


 自分の胸を強調するアムステリア。いつもの悪戯顔である。


「見られるわけないだろ!?」

「あら、私の胸は見る価値がないって? 心外ねぇ」

「そういう意味じゃないだろう!?」

「そういう意味じゃないって言いたいのは私の方よ。ほら、見なさい」

「だから見られないって――」

「……およ? ウェイル、見てみてよ。これ……」

「フレス、お前まで何言って――」

「違うよ! テリアさんの胸に、傷がある! 痣が残ってる……!?」

「それがどうかした――――痣があるだと……!?」


 おかしい。それだけは絶対にないはずだ。


「……ホント、なのか……? 本当に痣が……?」

「ホントよ。だから見なさいって言ったのに。ウェイルってば、こういうところはヘタレになるのよね」


 などと文句を垂れながら、さっと服を着たアムステリア。


「見たでしょ? 私の胸の痣。この私の身体に、痣が残っているのよ。私だって驚いているんだから」

「いや、見ては無いが……。だがお前に身体に痣を残すだなんて、よほどの神器じゃないと不可能だ」


 アムステリアの身体には、神器『無限龍心(ドラゴン・ハート)』が組み込まれている。

 『無限龍心』は旧時代の神器であり、その能力は所有者の身体を龍のように強靭化させる。

 そのせいで、アムステリアの身体は老いないし、朽ち果てることもない。

 どれほどの傷を負ったって、すぐさま身体は修復され、傷が痣となって残ることなど絶対にない。

 それほどまでに彼女の持つ神器『無限龍心』の能力は強大なのだ。


「『無限龍心』の能力と対等、もしくは上回る力を持つ神器ってことか……」

「あの剣は、おそらくは斬った相手の魔力を吸い取ってしまう神器ね。魔力を糧に強大な破壊力を生む神器。彼女は私に追い詰められた最後、自らの魔力を剣に吸わせようとした。それを私が止めて、このあり様よ」


 フフフと、アムステリアは苦笑していたが、後悔している様子はなさそうだ。


「私なら魔力をいくら吸われても死ぬことはないからね。彼女の代わりに私の魔力を吸わせてあげたの」

「敵に塩を送ってどうするんだよ……」

「私が身代わりにならないと、彼女は死んでたから。自らの剣に殺されていた」

「人助けって、そういうことか……」


 とはいえ、アムステリアの様子が普段と少し違うことに気が付く。

 いくら敵が命を落としそうになっていたとしても、所詮敵は敵だ。

 普段であれば、アムステリアは黙って見守っていただろうし、むしろトドメを刺しに行っているに違いない。

 先程の苦笑の顔は、どこかで見たことがある。

 あれはそう、なんだか昔を思い出して、懐かしさで思わず笑みを漏らしてしまったという、そんな表情。

 フレスがライラを、アムステリアがルミナステリアを思い出す時のような、そんな顔だった。


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