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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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戦慄のアムステリア


 凄まじいスピードで空を駆ける三人。


「バカ、魔力を込めすぎだ!!」

「だってだって、魔力の加減が判らなかったんだよ!」

「……常人離れした魔力ね、この娘。ウェイル、貴方また変なことに首突っ込んだの?」

「だから弟子をとっただけだっての」


 フレスの持つ膨大な魔力のおかげで、一瞬にして目的地へと到着した三人。

 壁に衝突する寸前でアムステリアがフレスの魔力を相殺してくれたおかげで、三人とも無事に地に足付くことが出来た。


「ともあれ会場にはたどり着けたわね」

「噂はすでに広がっているようだな」


 三人がオークションハウス『ベガディアル』に到着して驚いたのが、この人の多さである。

 オークション開始まではまだ時間がかなりあるというのに、オークションハウスの前には長蛇の列ができていた。

 この列に並んでいる連中の多くは、真珠胎児が目当てであろう。真珠胎児について口々に噂していた。

 偽物をつかむ可能性があると知りつつも、三つあるという噂の本物欲しさにここに来ているのだ。


「こいつら、本当に血の通った人間かよ……!」

「ウェイル、落ち着いて」


 ウェイルが不満をぶちまけ、それをアムステリアが諫める。


「凄い人数だね……。嫌な人達だよ……」


 フレスもウェイルと同じ気持ちのようだった。


「二人共、不満を漏らすのは後にして。さっさと会場中に入るわよ」


 アムステリアが先陣を切り、三人は列を掻き分け、入り口へと向かう。

 その様子を見た警備員が、アムステリアを呼び止めて前に立ち塞がった。


「おい、ちゃんと列に並べ。それと会場はまだ準備中だ。出品者以外は立ち入り禁止となっている」

「私達はプロ鑑定士よ? 今日の競売品を鑑定しに来たの。これがプロである証明書。ここを譲ってくれないかしら?」


 アムステリアは自らのプロ鑑定士証明書である秤と虫眼鏡の描かれたカードを取り出して、その警備員に見せつけた。

 これを見せれば大抵のオークションハウスには無条件で入ることが出来る。

 しかしこの警備員は微動だにしなかった。


「駄目だ。オーナーの命令で出品者以外立ち入り禁止だ。プロ鑑定士だろうが例外は認められない」


 どうしても警備員は道を譲る気はないらしい。

 いくらカードを見せても通してくれない警備員に、アムステリアがしびれを切らし始めた。


「貴方、もう一度だけ言うわ。私達はプロ鑑定士としてこのオークションハウスを調査する。どきなさい」

「知らないね。今日はどんなことがあろうとも会場時間までは通せない。理解できたらさっさと帰ってくれ。理解できなきゃ、その身で理解してもらうことになる」

「あら、私と同じ考えなのね? 私も今、その身で理解してもらおうと思っていたところよ!」


 言うが早いか、アムステリアはその警備員の股間を思いっきり蹴り飛ばす。

 見ていたウェイルが、思わずブルっと身体を震わせるほどだった。


「――――ッ!?!?」


 無防備な場所へ、無慈悲な一撃を加えられたのだ。

 警備員は身体をくの字に曲げ、言葉すら発することも出来ずに悶絶し、そのまま崩れ落ちた。

 周囲の人間は『痛そう……』、『ありゃ当分目覚めねぇな……』等と口々に噂し、アムステリアに恐怖している。


「あら、ごめんあそばせ! 足元がちょっとだけ滑ってしまいましたわ!! あはははははははは!!」

「ちょっとどころの威力じゃなかったぞ……」


 高らかに宣言するアムステリアから発せられる、魔王のようなドス黒いオーラを察知したのか、周囲の客もスーッと距離を取っていた。


「ウェイル……、やっぱりこの人、怖すぎるよ……」

「あ、ああ……、俺だって怖いよ……」

「二人共、急ぐよ!」


 こうして三人はオークションハウス『ベガディアル』へ潜入することに成功したのだった。





 ――●○●○●○――





 オークション会場内は、オークションの準備に多くの従業員達が忙しなく働いていた。

 そんな中、ウェイル達三人組の姿は非常によく目立つ。

 周囲の奇異な視線が集まるが、三人は、無視して真珠胎児の捜索に当たる。


「貴様ら、一体何者だ!? 見慣れぬ顔だ、うちの従業員じゃないな!?」


 三人に対し妙に偉そげな声が飛んできた。

 セリフからして、声の主はここのオーナーであるベガディアル本人のようだ。


「関係者以外、立ち入り禁止だ!! 出ていけ!!」

「俺達はプロ鑑定士だ。突然で申し訳ないが競売品を調べさせてもらう。違法品が持ち込まれているというタレコミがあった」

「違法品? そんなもの有りはしない!」

「真珠胎児って言えば判るか?」

「ふん、巷で流れている噂の件だな? 確かに真珠胎児のレプリカは出品されている。だがあくまでレプリカだ。違法性はない」

「それを証明するのは俺達だ。その真珠胎児を確認させてもらう」

「出て行け!! 今オークションの準備で忙しいんだ! お前達鑑定士の相手なんてする暇もないくらいにな! まったく、外の警備は何をやっている……!!」

「真珠胎児の出品者はどこだ?」

「アホか、貴様。出品者情報を無関係の者に伝えるオークショニアがいるか。おい、摘み出せ!」


 どうやら最初から聞く耳などないらしい。

 ベガディアルは屈強そうなボディーガード二人を呼びつけて、自分の背後に従わせた。


「痛い思いをしたくないなら、早々に立ち去れ!」

「あらあら、どうやら私の出番ね。ねぇ、ベガディアル様?」


 アムステリアは色気をたっぷり孕んだ声で、艶めかしくベガディアルの名を呼んだ。


「うっ……。な、なんだ?」

「真珠胎児の出品者はどこ? 一目お会いしたくて。本当に一瞬見るだけでいいのだけれど……?」


 スカートのスリットからすらりと伸びた足を見せつけ、口元に指先をあてがう。

 漂う妖しい香水の匂いも相まって、アムステリアの蠱惑的な魅力はベガディアルをこちらのペースへ誘おうとしていた。

 その様子にウェイルとフレスは鳥肌が止まらない。

 今のアムステリアの姿は、甘い匂いで獲物を誘う食虫植物であるかのようだ。


「私、貴方みたいなダンディな方、結構タイプよ?」

「ば、バカ言え! そんな言葉に乗せられるわけがないだろう?」


 そうは言いつつも、ベガディアルは一瞬たじろいだ。

 その隙をアムステリアは見逃さなかった。


 ――突如としてベガディアルの背中に手を回すと、その勢いのまま唇を奪ったのだ。


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