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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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光の時計塔での死闘!

 ――集中祝福週間 六日目。


 ―― 東地区『水の時計塔』 Act.ウェイル ――


 フレス達と別行動を開始したウェイルは、ラインレピア東地区『水の時計塔』へと向かっていた。

 退屈な汽車での移動中、ふと思い耽るのはダンケルクのこと。

 尊敬していた先輩と、よもやあのような形で再会するとは思いもしなかった。

 しかも再会の際に、カラーコインを全て奪われてしまうという失態まで犯してしまった。

 何度思い返しても頭の痛い案件だ。


「……ダンケルクが『異端児』か……」


 ウェイルにとって『異端児』というのは、仇の仇。

 故に直接の仇かと問われれば疑問に思うこともある。

 さりとて奴らは元『不完全』のメンバーであったことは事実で、当然のことながら許しておける存在ではない。

 危険性でいえば『不完全』よりも大きいと考えられる。


「俺はダンケルクと戦えるのか……?」


 あまり人付き合いの得意でないウェイルが、プロ鑑定士協会に入って最初に心を許した先輩だ。

 その彼に対し、果たして自分は非情になれるのだろうか。

 そんな心配事ばかりが心に募る。

 気が付けば、汽車は東地区駅へと到着していた。





 ――●○●○●○――





 ラインレピア東地区からは、都市周辺にある豊かな自然を望むことができる。

 ハンダウル山やクルクス湖といった有名な山や湖があるわけではないのだが、都市のバックにそびえる山々の織り成す景観は、見る者の口を黙らせるほど美しい。

 この景観をテーマとした作品群も、この東地区では多く誕生してきた。

 無論セルクの作品の中にも、この風景をモデルにしている作品がある。

 山の近くには、このラインレピアに流れる運河の水源である巨大な溜め池が存在する。

 溜め池から流れる水を調整することで、この運河の水を枯らさないようにしているのである。


「この辺はのどかな感じだな」


 東地区駅から近郊のメインストリートでも、中央地区のような喧しい賑わいは無い。

 しかしながら色とりどりの煉瓦で立てられた街並みが、落ち着いた雰囲気を醸し出し、芸術の風を感じさせる。

 行き交う人々も、どこかおっとりとした感じである。

 このような場所で奴隷オークションが開催されるなんて、誰が予想できようか。


「さて、時計塔は……――ああ、あそこだな」


 探す必要もないほど、時計塔は目立つ存在だ。

 太陽の光によって、鐘が黄金色に輝いている。

 その荘厳とした面持ちは、息を飲むほど凄い迫力だ。


「奴隷オークションの開催は夜と相場は決まっているが……。始まる前に潰す方がいいよな」


 開催されてしまえば監視や警備の目も増え、客に混乱も出てくる。面倒な芽を潰すのは早い方がいい。

 簡単な装備と、腰に差した神器『氷龍王の牙(ベルグファング)』を確認して、ウェイルは時計塔へ潜入した。





 ――●○●○●○――





 ―― 南地区『光の時計塔』 Act.アムステリア ――


「一体なんなのよ!?」

 

 鋭い殺気の嵐を避けつつ、突然この状況に陥ったアムステリアが愚痴を漏らす。


「貴女が私にとって邪魔。それだけ」


 そのような愚痴に律儀に返事をするのは、剣を振り回す殺気の主だ。


「私はそんな大したことのない理由だけで刃物振り回されてるわけね」


 ヒュン、ヒュンと、空を切る音だけがこだまする。

 ここ、南地区『光の時計塔』では、今まさに死闘が繰り広げられていた。

 奴隷オークションの開催される筈だった会場は、すでに崩壊し、用意されていた机も椅子も、見るも無残に切り刻まれていた。

 鋭い太刀筋に、アムステリアも苦戦を強いられていた。

 周囲にはメルソーク会員()()()者の肉片が転がり、足下は血でぬかるんでいる。

 バランスを取るのも大変な状況で、身の丈よりも大きな剣が振り下ろされてくるのだから、アムステリアも堪ったもんじゃない。

 時折反撃に蹴りを打ち込むも、彼女の身体は凄まじく丈夫でびくとも動じない。


「貴女、本当にタフね」

「うるさい、そっちこそ本当にすばしっこい……! いい加減斬られて」

「嫌よ。斬られたら痛いじゃない」


 攻撃を外した大剣は床を削りながら、じりじりとアムステリアを追い詰めていく。

 いつの間にやらアムステリアは壁際へと追い詰められていた。


「これでチェックメイト。私は早く帰って寝たいんだ。あ、先に剣の手入れをしなくちゃいけないけど」

「……変に呑気な子ね。貴女もイドゥの拾った子かしら?」

「そんなとこかな」


 イドゥの名前を挙げても表情一つ変えない。

 「ちょっとやりにくいかも」と、アムステリアは密かに思っていた。


「貴女、お名前は?」

「アノエ。貴女はアムステリアでしょ? イドゥが言ってた」

「へぇ、なんて言ってたの?」

「要注意人物だから気をつけろって。でも、大したことないね」


 その台詞に、アムステリアの胸に冷たい炎が宿る。


「舐められたものね。本当にそうかしら?」

「だって、もう逃げられない。どこへ逃げても、間合いに入ってるから」


 大剣の太刀筋、振るう速さを見ても、確かに常人であればチェックメイト状態だ。


 ――だが、アムステリアは常人じゃない。


「さて、アノエちゃん。一応私は貴女の先輩だから、ここまで本気では手を出さなかったけど、流石に大したことないなんて言われたら怒っちゃわうよ?」

「先輩? ああ、イドゥが言ってたね。貴女もイドゥの子だって」

「そうよー? だから忠告しておいてあげる。イドゥの言葉はもっと真剣に聞かなきゃダメ」

「……どういうこと?」


 言葉の意味が解らないのか、キョトンとするアノエ。

 対するアムステリアは、すでに反撃の準備を終えていた。


「――こういうことよ!」


 さっと隠し持っていた小瓶を地面に叩きつける。

 その瞬間、強烈な爆発が辺りを包み込んだ。


「――あっ!?」


 爆風を剣でガードするも、衝撃を受け止めきることは敵わなかったのか、アノエはそのまま吹き飛ばされる。

 

 ――ドクンッ……。


「――え……?」


 アノエがふっ飛ばされた先で受け身を取った時、身体に妙な違和感が生じた。


「な、何? これ……?」


 アノエの強靱な身体が、いつの間にか大きなダメージを受けていた。

 目に見える形の怪我じゃない。

 身体の芯に響く、身体の内側からじわじわ感じる、そんなダメージ。

 胸が冷たくなったように気持ち悪ささえある。


「き、気持ち、悪い……」

「気づいたかしら?」


 アノエが立ち上がる時間すら、アムステリアは与えない。

 立ち込める煙の中から、アノエに怒涛の蹴りを浴びてやる。

 どうしてか身体が動かないアノエは、とっさに剣の腹でガード。


「う、うぐ……!?」


 だが大剣のガードすら間に合わない。いくつかはもろに蹴りを喰らってしまった。

 ガードしたそのままの体勢で、またもアノエは吹き飛ばされ、今度こそ膝を落とす。

 次第に煙が晴れていく。

 この場に立っていられたのはアムステリアだけだった。


「ど、どうして、身体が……!?」

「簡単よ。私は貴女の心臓をピンポイントに攻撃した。それだけよ」

「心臓……?」


 胸のあたりを触ってみる。


「……あっ……!?」


 胸の甲冑が凹んで、部分的に砕けているのが判った。


「アノエちゃん。貴方は本当に強靱な身体してるわね。あれだけ打ち込んでも意識を保てるなんて、凄いわよ? 流石はイドゥが拾ってきただけはあるわね」

「いつ、やったの……?」

「貴女が剣を振るってきていた時、私もちょくちょく反撃していたでしょ? その時よ。後、爆発の時もね。爆発に乗じて、蹴りを浴びせてやったの。判らなかった?」

「正面はガードしたはず……!」

「あら、心臓を狙うのに、何も正面からじゃなくてもいいんじゃない? 背中からでもね」


 背後を取られた。煙があったとはいえアノエにとって初めての経験だ。


「そもそも、どうして爆発を受けて無事なの……?」

「それは秘密♪ ああ、それと一つだけ言っておかないと」


 倒れているアノエの傍へ寄ってきたアムステリアは、耳元にそっと寄り添ったかと思うと――


「貴女、まだまだ大したことはないわね。ま、もっと頑張りなさい」


 ――と、囁いてやったのだった。


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