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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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異端の奏でる交響曲

 一方その頃。


「さて、一通り面子は揃ったな」


 イドゥを中心として、『異端児』のメンバーが、薄暗い大ホールに集結していた。

 ここは中央の『時の時計塔』地下ホール。

 本来であれば、今頃秘密結社メルソーク主催の奴隷オークションが開催されていたはずだ。

 誰かさんに奴隷オークションを潰されて、さらに組織のトップであったシュトレーム亡き今、この会場はすでに異端なる者達の住処と化していた。


「イドゥ、一通りじゃないよ~? アノエとルシカがいないからさ」

「判っておる。あの二人にはワシの代わりにそれぞれの奴隷オークション会場へと向かってもらった」

「何しにいったのさ? 奴隷オークションを守らせに?」


 イドゥは今、メルソーク総帥シュトレームの持っていた情報を全て手に入れている。

 その情報を利用すれば、イドゥがメルソーク総帥に成りすますことなど容易であった。

 元々シュトレームは表に出てくるような人物ではなかったことが、いいカモフラージュになっている。

 よもや総帥がごっそりすり替わっていることなど、メルソーク会員達は想像すらしていないだろう。



「いや、違う。逆だ。奴隷オークションなどさっさと潰してしまえと命令したのだ」

「潰すの!?」

「ああ、そうだ」


 想像とは真反対のことに、思わず声が上ずるリーダー。

 アノエとルシカに魔力の根源となる奴隷達を守りに行かせたのだと、リーダーはそう思っていた。


「別にお前さんは奴隷オークションになんて興味ないだろうが」

「ないけどさぁ。資金源にはなるんじゃない?」

「目先の利益だけに囚われていると失敗するぞ。今奴隷オークションを開催したら()()()と接触してしまう。それだけは勘弁だ」

()()()って、アムステリアのことだよね?」


 アムステリアについての情報は、敵から偶然手に入れたもの。

 勿論この情報は『異端児(イレギュラー)』全員に共有されている。

 だからリーダーもアムステリアが奴隷オークションを潰して回っていることを知っていた。


「そうだ。アムステリアの奴、奴隷オークションを楽しみながら潰して回っているらしい。ワシの拾う子供達は、どうして皆おてんばなのか」


 イドゥの視線は、この場にいる全員にも向けられた。


 ――ドンッ……!!


 突如響いた強烈な音は、腕をぷるぷるさせるスメラギによるものだった。


「ちっ……、あの泥棒猫ババア……!!」


 アムステリアという名前に過剰反応を示すスメラギであった。


「あーあ、スメラギったら、椅子を壊さないでよ。後片付けするのはダンケルクなんだから」

「何故俺が片付けなきゃならんのだ。しかし、嫉妬というのは恐ろしいな……」


 嫉妬の拳は椅子すらも貫通するらしい。座席部分には見事に風穴が開いていた。

 ……まるで便座みたいである。


「あの女……! 次るーしゃに手を出そうとしたら――殺す……!!」

「いやいや、いつもちょっかい出すのはルシャブテの方からでしょ」


 リーダーのニヤつく顔(といっても仮面のせいで判りづらいが)は、いつもルシャブテを憤慨させる。


「黙れ。あの女、腹立たしいんだよ。昔からな」

「だってさ、スメラギ。ルシャブテってば、昔からアムステリアのことしか頭にないんだって」

「ほ、ほんとなの……るーしゃ……?」


 上目遣いで涙目のスメラギ。

 スメラギのことを何も知らないなら――さらに言えば鬱血しそうなほどの握力で腕を握られていなければ――とても可愛いと思える光景だ。


「は……離せ……!」

「るーしゃ、本当にあの女のことばっかり考えてるの……?」

「んなわけないだろ……!!」

「そう、よかったぁ!」


 パアっと笑顔に変わるスメラギと共に、ルシャブテの腕にもパアっと血が戻っていく。


「でも浮気したら、こうだから」


 ――ドンッ……!!


 その音の後には、便座みたいになった二つ目の椅子があった。


「あらら、だから掃除するのはルシカなんだからさぁ。ねぇ、ダンケルク」

「だな。ルシカが掃除担当だ」


 会議に欠席する者は、いつの時代も勝手に面倒な役を押し付けられるものだ。


「いい? るーしゃ? いい? こうなるよ?」

「……ああ、判ったよ……」


 いつもながらに愛され過ぎというのは困ったもんだと、ルシャブテ以外の男子面々は揃って頷いた。


「お約束のコントはいらん。リーダーよ、あの二人を焚き付けるな。面倒だ」

「そうだね。ごめーん」


 全く悪びれていない所が実にリーダーらしい。似た性格のティアと息が合うわけだ。


「だが、どうしてアムステリアとの接触はまずいんだ?」


 腕組みをするダンケルクがイドゥに問う。


「ダンケルクよ。お前はあの女の実力は知っているだろう? 不死身で、そして最上級デーモン(ジェネラル・デーモン)以上に強靱なキック力を持っている。正直我々では手に負えん」

「……そうだったな。あの女は怒ると手に負えない。なるほど、ルシカやアノエには荷が重いということか」


 ダンケルクだって、アムステリアの戦闘能力は熟知している。

 どれだけ神器で武装したって、彼女に勝てる気はしない。


「一人で立ち向かうべき相手じゃないからな。今のプロ鑑定士協会は貧弱揃いだが、あいつだけは別格だ」


 心臓を神器と入れ替え、不死身となった元贋作士のプロ鑑定士、アムステリア。

 彼女と正面からやり合うのは骨が折れる――いや、骨が何本あっても足りなさそうだ。


「だが偶然鉢遭う可能性だってあるだろ? こっちが潰す前に奴が来る可能性だってある」

「だからルシカとアノエに行かせたのだ。ルシカであれば例の感覚を使って逃げ切ることが出来るだろうしな」

「アノエを行かせた理由は?」

「アノエが唯一、アムステリアと対等に戦える可能性があるからだ。アノエはワシの子の中でも別格の強さだからな。それでもアムステリアほどではないから、分の悪い勝負には違いないが」

「分の悪い勝負、か。本当にそれだけならいいんだがな」


 実の所、イドゥはすでにアムステリアと遭遇することを()()()いた。

 これからイドゥ達がどんな行動を取ろうと、アムステリアは必ず現れる。

 ならば、こちらの切り札であるアノエを先にぶつけてみるのも悪くないと判断したのだ。


「ねーねー、イドゥ?」


 ティアがするするとイドゥのところへやってきて、ツンツンとお腹をつついてくる。


「どうした?」

「ティア達って、どこか時計塔に行くんじゃなかったの?」

「急遽中止したのだよ。その方がいいと()()()ものでな」


 微かにイドゥのイヤリングから魔力を感じる。

 ダンケルクも、その魔力光を目にしている。

 何となくイドゥの能力を予測していたのか、深く頷いた。


「先に時計塔へと向かった二人にはすでに話したが、お前らにはこれから三種の神器『心破剣ケルキューレ』復活についての最終作戦を伝える」

「コードネームは……(ケル)(キュー)()!? カッコいい!」

「KKR……。カッコいいの……」

「フロリア、ニーズヘッグ。急に出てきて変なことを言わんでよろしい。コードネームなどあるわけないだろうが」

「……残念」

「……なの」

「……そわそわ」

「ティア、君はボケなくていいからな?」

「ティアの行動がばれてるーーーー!?」


 揃ってボケ集団である『異端児』であった。


「……いいから聞け。明日は準備だ。残った時計塔にも誰かに行ってもらう。ただし、リーダーはここにいろ。来るべき時が来れば、存分に働いてもらう」

「俺達は他の時計塔に行って何をすればいい? もう奴隷オークションはないんだぞ?」

「奴隷なぞ必要ない。人さえいればいいのだ。何、そのための手筈もすでに整えてある。ティア、頼んだぞ」

「はーい、任せてー! このラインレピアを、沈めちゃうからねー!」

「…………」


 嬉しそうにそんなことを言うティアに、ニーズヘッグの視線は冷たかった。


「ダンケルク、ルシャブテ、フロリア、お前達に与える作戦は――」


 ――『異端児』達の奏でる交響曲。


 時を告げる鐘の音から始まる旋律は、人々を戦慄させるほどの大事件(サビ)へと向かっていく。



 ――光の龍が、ラインレピアの終焉に向けて、異端が奏でるオーケストラのタクトを取る。


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