三種の神器『心破剣ケルキューレ』
ダンケルクの過去がどうであろうと、今は憎むべき敵。
「ダンケルクとルシャブテは、俺達の依頼人であるコインコレクター、ルーフィエ氏を襲った。そして氏の所有する全てのサウンドコインという神器を奪っていった。そもそもそのサウンドコインは、メルソーク会員ばかりのイベント運営本部から盗まれたものだ。それなのにメルソークの連中は、コインが盗まれたと騒いだり動揺することはなく、何故か平然としていた。計画通りと言わんばかりにな」
「つまりダンケルク達が何らかの策を講じて、メルソーク連中を騙したってことね。……ま、ダンケルクというよりは、あの爺様でしょうけど」
「しかし厄介なことになっているな……。『秘密結社メルソーク』に『異端児』まで絡んでくるとは……」
「本当に厄介なのは、それらが全て『三種の神器』に関わっているってことよ」
「メルソークは『三種の神器』を手に入れるために、神器を動かす魔力源として奴隷を集めた。なぁ、お二人さん。その『三種の神器』についての情報は、何か得られたか?」
「ばっちりですよ、ウェイルさん。……アムステリアさんが身体に訊ねていらっしゃいましたから」
ぶるりと身体を震わせたリル。その光景を思い出したのだろうか。
どうしてかフレスも一緒に、ぶるりと身体を震わせていた。
「奴らが求めている神器の名前は『心破剣ケルキューレ』。……小娘。あんた何か知らない? 神器について詳しいんでしょ?」
フレスの正体を知っているからこその質問。
フレスはその名前を聞いた瞬間、これまでの表情とは一変して、一気に目つきが鋭くなる。
「ケルキューレ……!? メルソークはケルキューレを復活させようとしているの……!?」
「聞くところによると、どうもそういうことらしいわね。そのために膨大な魔力がいるとか」
「……フレス。ケルキューレって神器は一体どんな神器なんだ?」
ウェイルだって、その名は以前にシルヴァンに行った時に、少しだけ聞いたに過ぎない。
「心破剣ケルキューレはね……。名前の通り、心を破壊する神の剣なんだ。ボクは昔、この剣と戦ったことがある……!!」
フレスはグッと拳を握る。
力を込めすぎて手が赤くなるほどに。
「リルさんにもボクのことを伝えるよ? いいよね、ウェイル」
「……ああ」
フレスの秘密を知る者は少ない方がいい。
だが、イルアリルマには知っておいてもらった方がいい。
フレスが伝えるという覚悟をしているのならば、ウェイルは止める気もなかった。
それに、おそらくイルアリルマは薄々気づいているはずだ。
何せ彼女自身も半分はエルフ――つまり神獣なのだから。
「リルさん。ボク、実は人間じゃなくて、龍なんだ」
「……え? フレスさんが……龍……? あの、龍ですか?」
「うん。あの龍だよ」
あの、と強調したのは、龍という存在がこのアレクアテナ大陸では忌み嫌われる存在であるからだ。
これを伝えれば、フレスはイルアリルマに嫌われてしまうかも知れない。
フレスが一番恐れているのは、イルアリルマから恐れられてしまうことだった。
「…………」
しばしの沈黙。
イルアリルマの反応が怖いのか、フレスは目を瞑ったままだ。
そんなフレスの肩に、そっと暖かい手が置かれた。
「大丈夫ですよ、フレスさん。フレスさんが何であれ、私の大切なお友達ですから」
「リルさん……!!」
「フレス、心配するだけ無駄だったな。お前の友人は、そう簡単には嫌ってはくれないそうだ。ギルもそうだったし、リルだって同じだったな」
「アンタみたいな小娘が龍って、随分龍も身近な存在になったものね。エルフの方がレアなんじゃない?」
「そうですよ。それに私だってフレスさんと同じく神獣ですよ? 半分ですけど。お仲間ですってば!」
フレスの心配は杞憂に終わる。
今更、この面子でフレスの正体がどうとか気にする者はいないのだ。
「フレスさん、続きをお願いします」
「……うん!」
自分が龍であることが、あんまりにも些細な問題と周りが反応する。
それがフレスにはたまらなく嬉しかった。
「ボクら龍は太古の昔、この大陸にて神々と何度も戦争をした。ボクら龍は無限の生命があるから、神々の出来ることは、ボクらの封印しかなかった。もちろん簡単に封印されるようなヘマはしない。だから戦争は圧倒的にボクらに有利だったんだ。だけど神々がこの神器を創り上げてから、状況は一変したんだ」
龍の有利な状況を覆すほどの力を持った神器。
「ケルキューレは、龍を殺せるのか……?」
――それはもう、龍を殺せるとしか考えられない。
「ううん、違う。だけど近いね」
すぐにその可能性は否定されたものの、フレスは当たらずも遠からずだと語った。
「龍を殺す力は流石にないよ。だけど龍の心を砕く力はあったんだ。その刃は人間であれば掠っただけで心が砕け散り、廃人と成り果てる。龍だって、人間ほどのダメージはないけれど、当然影響は受ける。そしてそれは『ボク達』にもね……」
――『ボク達』。
フレスは自らを指差したが、ウェイルにはそれが別人を指しているように見えた。
それはフレスのもう一つの人格、フレスベルグに。




