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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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ストーカーさんの土産話

「いひゃい! いひゃいよ! テリアひゃん~!」

「だからその呼び方をするなとあれほど~~!!」

「いひゃあああああっ!?」


 もちのようにプニプニとしたフレスの頬を、結構激しめにつねるアムステリアに、ウェイルも思わず後ずさり。

 とはいえ、その姿はまるで仲の良い姉妹みたいでもあり、見ていて微笑ましくもある。


「あはは、フレスさんとアムステリアさんって、仲が良いんですね。アムステリアさんが意地の悪いお姉さんって感じですか?」

「フレスは生意気な妹って感じか」

「ちょっと、誰が意地の悪い姉よ!」

「誰が生意気な妹だよ!?」

「……仲がいいな、お前ら」


 思わず声が重なる二人に、ウェイルは嘆息、イルアリルマはニヤニヤと目を細めていた。


 フレスの頬にはもう満足したのだろうか、アムステリアは涙目のフレスを放っておいて、腕を組んでベッドに腰を掛けて、足を組んだ。

 スラリと伸びる足に視線が行きそうになるのを堪えて、アムステリアに訊ねる。

 

「なあ、アムステリアよ。一つ疑問があるのだがいいか?」

「なんなりと。スリーサイズ以外だったら答えてあげ――将来の旦那には答えていいのかしら?」

「その予定はないから答えなくていい。俺が聞きたいのは、どうしてここに俺達がいると判ったのかということだ」


 ウェイルは自分達がラインレピアに来ることを、アムステリアに伝えてはいない。

 だから彼女がここに来るのはおかしいわけだが、その問いに対してアムステリアの返答はというと。


「フン。私が今までどれだけウェイルのストーカーをやってると思ってるの? どこにいるかなんてお見通しよ!!」

「……納得してはならない気がする……」


 ぞわり、と背筋が凍りついたのは気のせいではないだろう。


「フフ、実際はプロ鑑定士協会に連絡をとったから判ったことなんですけどね」

「ちょっとリル。本当のこと話さないでよ。格好つかないじゃない」

「ストーカーに格好いいもクソもあるかよ……」


 実際はイルアリルマの言った理屈だとしても、ウェイル達がラインレピアに来ているという、彼女のストーカーとしての感が当たっていたのも事実。

 その感を頼りに、プロ鑑定士協会に問い合わせたところ、見事ドンピシャだったというわけだ。

 これにはイルアリルマもアムステリアのストーカーっぷりはに頭が下がったという。

 ついでに背筋はさらに凍った。


「凄いですね、アムステリアさんのストーカーっぷりは! 見ていて惚れ惚れします! 参考にしたいくらいです!」

「リルよ、そこは褒めるところじゃないぞ……。しかもお前見えないんだろうに……」


 少しリルの印象が変わった気がする。勿論あまりウェイルの好ましくない方向に。


「まあいいじゃない。それよりも今日来たのは、ウェイルに面白い土産話があったから」

「面白い土産話?」


 一体何の話だろうか。

 アムステリアがこう切り出す時は、大抵面倒事ばかりである。


「奴隷オークション絡みか?」

「あら。察しのいいこと」

「お前らがラインレピアに来た理由はそれだろうに」


 奴隷オークションを潰す為だけに、この二人はラインレピアにやって来た。

 であれば話題はその事しかないのは誰だって判る。


「結局どうだったんだ?」

「奴隷オークションならいくつか潰してきたわ」

「流石だな……」

 

 オークション会場で、無双乱舞するアムステリアの姿が容易に目に浮かぶ。


「それでね、その時に敵の一人をボコボコにして情報を聞き出したんだけど、そいつの言葉がやけに気になって」

「うわぁ……、ボク、その様子を見たわけじゃないけど、無条件で可哀そうだなと思っちゃったよ……」

「黙らないと、次は小娘。アンタの番よ?」

「…………!?」


 フレスは素直すぎるのと、口がすぐに開いてしまうのが悪い癖である。

 ちなみにウェイルもフレスと同意見であった。口にはしないが。


 そしてアムステリアは、奴隷オークション会場で手に入れた情報をウェイルに披露した。


「なるほど。奴隷オークションの裏にいたのは、やはりメルソークだったか」

「ええ。でもメルソークの真の目的は、奴隷オークションじゃなかったわ」

「真の目的?」

「やつらはね、奴隷オークション自体に興味があったんじゃなくて、奴隷オークションに()()()()に興味があったみたい。そうよね、リル」

「はい。メルソークは、時計塔に多くの人間を集めようとしていたみたいです。なんでも『三種の神器』に関係するそうで」


 ――『三種の神器』。

 その名に、ウェイル達の時間は一瞬停止した。


「また出たな、その名前……」

「『セルク・ブログ』の通りだね……」

「『セルク・ブログ』? セルクの絵画の一つかしら?」

「いや、違う。フレス、持ってこい」

「うん」


 フレスは『セルク・ブログ』を持ってきて、机の上に広げた。


「これはセルクが書いた日記なんだ。とある事情で今預かっている」

「へぇ。で、そのセルクの日記が、どう関係するの?」


 ウェイルは『セルク・ブログ』の解析結果をかいつまんで話した。


「なるほどね。セルクも『三種の神器』について何か知っていたようね。この日記の中身と私達の聞いた話は、少しばかり繋がるもの」

「そうなのか?」

「ええ。なんでも時計塔は神器で『三種の神器』を封印しているそうよ。『セルク・ブログ』には時計塔を意識するような文面があるのよね?」

「五つの鐘ってところだよな。時計塔と照らし合わせれば意味は理解出来る。……しかしどうして人を集める必要があるんだろうか?」

「人が集まれば、その封印が解けると奴らは言ってたわ」

「……多分、人間から魔力を得たいんだよ。封印を解くほどの大型の神器を使いたいなら、その分魔力が必要だからさ。時計塔本体が神器なら、尚更ね」


 もし本当に時計塔が神器であるとしたら、あれほどの大きさの神器を起動させるには、相当な魔力が必要だ。

 数十人程度の魔力では足りないほどだとフレスは言う。


「魔力を集めたいから、奴隷と、それに群がる人を集めたって。さらに人を集めるために、『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』を開催したとも言ってたわ。プロ鑑定士協会に貴方のことを問い合わせた時、そのイベント名が出たから、もしかしてウェイルはすでに何らかの事件に遭遇したのかと思ってね。何せウェイルのことだから」


 その言い方には、ぐうの音も出ない。

 流石はストーカー。なんと図星である。


「……まさか本当に事件があったわけ?」


 表情から読み取ったのか、またかとアムステリアも流石に呆れ顔。


「悪かったな、また巻き込まれて。『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』のこと、聞いていなかったのか?」

「そのイベントには興味がなかったからね。しかしウェイル、本当によく事件に巻き込まれるわね……」

「別に好きで巻き込まれてるわけじゃないさ……」

「ならこれを聞いたらさらに驚くかも。『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』のスタッフは皆、メルソーク会員だって」

「……この流れだと、やっぱりそうなるか……」


 運営本部に押し入った時のあの違和感は、こういうことであったわけか。

 もしかしたらメルソークは最初からルーフィエのカラーコインが目当てだったのかも知れない。


「……そういえば俺からもお前に伝えておきたいことがある。お前がマリアステルの地下オークションで倒した、赤髪の男。そいつに出会った」

「ルシャブテのこと!? ……ってことは、この事件、やっぱり『異端児』が絡んでいるのね?」


 驚くアムステリアに、ウェイルは体験した事件の詳細を語った。

 その際、ダンケルクに出会ったことも話す。

 ダンケルクは、アムステリアにとっても無関係の人間ではない。

 話の途中から、聞く顔はずっと神妙だった。


「……ダンケルクねぇ。あの男が『異端児』にか。ま、あの男に関しては何も有り得ない話じゃないけど」

「ねぇ、ウェイル。ボク、ずっと気になってたんだけど、ダンケルクって誰なの?」

「ダンケルクは俺の先輩鑑定士だったんだ」


 それからウェイルは、ダンケルクという男について語り始めた。


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