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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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奴隷オークションをぶっ飛ばせ

 ――話は少しだけ遡り、集中祝福週間 三日目 午前 北の『火の時計塔』。

 ウェイル達より一足早くラインレピアに入っていたアムステリアとイルアリルマは、秘密結社メルソークが開催する奴隷オークションへ潜入していた。


「――うらああああららららあああああッ!!」


 気合の入った怒声を上げながら、アムステリアは自慢の脚力を周囲に披露し続けていた。


「な、何なんだ、この女は!? 強すぎる!?」

「私が強すぎるんじゃなくて――いや、確かに私は強すぎるけど――貴方達が弱すぎるのよ!!」

「ぐわぁあッ!?」

「……ちょっと可哀そうに見えてきました。私、目は見えませんけど」

 

 悲鳴だけでも十分伝わる、鬼畜染みたアムステリアの足技。


「あはは! もっと手ごたえのある奴はいないのかしら!」

「手じゃなくて足ですけどね」


 立ち塞がる敵を吹っ飛ばしながら、二人は時計塔の地下を進んでいく。


「あ、そこの階段の所にも敵の気配がありますよ?」


 不意に感じた殺気と恐怖心。

 イルアリルマの()()に掛かれば、身を隠すことなど不可能だ。


「了解! 壁越しに隠れているなら、その壁ごと蹴り飛ばす! うおりゃああああ!!」

「ひ、ひぃ!? 壁が粉々に!?」

「み~つけた。覚悟はいいかしら?」

「ふぎゃあああああああ!!」

「……本当に可哀そうですね……」


 イルアリルマが敵を感知し、アムステリアが蹴り倒す。

 各々得意分野を生かして、効率的に敵の巣窟を攻略していった。


「あ、たくさんの気配! おそらく奴隷にされた人達がいるんだと思います!」


 地下三階へ降りたところで、イルアリルマの察覚が大きく反応した。

 問題はどこに閉じ込められているか。

 上の階とフロア構造が同じであれば、部屋は全部で七つあるはず。


「さて、どこの部屋かしら?」


 とりあえず手頃な部屋に入ってみるも、中は空っぽ。


「アムステリアさん。気配はこの周辺から感じます。多分この部屋に間違いないですよ」

「でもこの部屋には入口以外の扉は無いけれど?」


 見渡してみても、扉らしい扉はない。


「隠し扉になっているんじゃないです?」

「本棚があるわね。怪しそうなカーテンも……」

「調べてみましょう」

「ええい、面倒だわ! まとめてブッ飛ばす!!」

「あ、あの~、アムステリアさん? 奥にいる人達には被害を出さないでくださいね?」

「加減するのは難しいわね……。でも努力するわ!」

「お願いしますね。――――って、本当に努力する気あるんですかぁ!?!?」


 ズゴーンッ!! と、大きな音を立てて、壁が粉々に砕け散った。

 それはさながら鉄球スリング。

 あの華奢の足から、どうやってこれほどの威力が出せるのか、リルの疑問は尽きない。


「ちょっとアムステリアさん! 少しは努力してくださいってば! 奥に人がいたら死んじゃいますよ!!」

「してるってば。さて、早く解放するわよ」


 壁を破壊すると、奥には隠れた小部屋が。

 そしてそこにはたくさんの奴隷にされた人達が閉じ込められていた。


「怪我してる人、いる?」


 突然壁が崩れて、二人の怪しそうな(一人は凶悪そうな)女が入ってきたのだ。

 アムステリアの姿は、とても味方とは思えないだろうし、ここでおずおずと手を上げる奴隷達もいない。


「ほら、いないって」

「アムステリアさんにビビっただけじゃないんですか……?」

「ほら、アンタ達も呆けてないで、さっさと脱出しなさい。私達は奴隷オークションをぶっ潰しにきたの。次の会場にも行かなきゃならないし、急いでちょうだい!」


 ――こうして一つ目の奴隷オークションをぶっ潰した二人は、その日の午後には次の会場であるセントラル地区の時計塔、通称『時の時計塔』へとやってきていた。



 先程と同じく、イルアリルマが敵を探知してアムステリアがぶっ潰すという流れで進んでいたのだが、こっちの時計塔は、何故か敵の数が少なかった。

 何かあったのかと、アムステリア達は姿を隠して、周囲の様子を窺う。

 そこへイルアリルマの超人的聴覚が、敵の会話をキャッチした。


「アムステリアさん。メルソークの奴ら、何か変なこと話してますよ」

「変なこと? 一体何かしら。敵の数が少ないってのも関係あるのかしらね。是非会話の内容を聞きたいわね」

「あ、敵が何か話します。なら私、これから聞く会話を一言一句違わずに喋りますから、何か気づいたことがあれば仰ってください」

「判ったわ」


 イルアリルマは異常に発達した聴覚を用いて、敵の会話に耳を澄ました。

 壁越しの敵連中の会話がはっきりと聞こえてくる。

 通訳するように、イルアリルマは彼らの台詞をそのまま口にした。


『聞いたか? 先程何者かが『火の時計塔』を襲撃したらしい。会員にも多数被害が出たと聞く』

『奴隷オークションを嗅ぎつけた治安局じゃないのか?』

『いや、それがどうも違うらしくてな。話ではたった二人の女だけで乗り込んできたとか』

『おいおい、何の冗談だ。女二人で神器を使う我々メルソーク会員に勝てるとでもいうのか?』

『信じられんだろうが、それが本当なんだと。実際治安局員にいるメルソークメンバーに問い合わせると、治安局は今回のオークションについては全く知らないとのことだ』

『……本当に女二人だけでやったことだとしたら、そいつはもしかしたら魔獣かもな……。オークとかゴブリンなんかじゃないのか? そんな不細工な魔獣にやられただなんて、やられた連中も馬鹿だよなぁ』


「私がオークやゴブリンですって!? 不細工!? ……今言った奴、後で絶対に殺す……」


(わわわ、殺気が激しすぎてアムステリアさんの顔を直視できない!?)


 人間に察覚がないのが救いだ。

 もしあればこの鋭すぎるアムステリアの殺気に気付かれるところである。


『冗談言っている場合じゃないだろう!? もし次にここが狙われて、奴隷達も解放されると計画が進行できん。流石に二か所も同時に穴を開けるわけにはいかん』

『そうか。まあそれならそれで別にいいさ。どのみち総帥の思惑通りになる』

『……そうなのか!?』

『ああ、心配するな。大勢の人間がいないと魔力不足で失敗するだろうが、それは奴隷じゃなくても別にいいんだからな。そもそも人を大勢集めるために『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』を開催したようなもんなんだから。人さえいればいいのさ』

『イベントに来た人間を無理やり時計塔に押し込めってことか』

『無理やりする必要もない。もっといい方法があるだろう。判らんか? 判らんなら、これはお前への宿題ってことで』

『……ああ、ちょっと考えてくるよ』


「……あ、男が一人部屋から出ていきました。残っているのはアムステリアさんをゴブリン呼ばわりした奴です」

「よし。そいつは殺す」


 なんとも躊躇のなさすぎる返事である。


「ちょっと!? そうじゃなくて、そいつからもっと詳しい情報を聞き出しましょう!? あいつ等が最後に気になる事言ってたでしょ!?」

「大丈夫。情報を絞り出した後に殺すから。行ってくるわね」

「あ、ちょっと待ってください! 部屋に丁度敵が何人か入ってきて――……って、もういない……」


 アムステリアの行動は逐一早い。

 その腰の軽さが彼女の長所であるが、慎重さに掛けるという短所にもなる。


「……あ、もう全員倒してる……。早すぎですよ……」


 ……余りある強さのせいで、短所すら霞んでいるが。





 ――●○●○●○――





 それからアムステリア達は、部屋に残った男から情報を絞りに絞り上げた。

 男は案外簡単に口を割って、彼女達が欲している情報以上のことを喋ってくれた。

 とあるキーワードが出た時、イルアリルマはあまりにも突拍子のない言葉に当初耳を疑い、唖然としていたが、対するアムステリアの方はニヤリと唇を釣り上げていた。


「へぇ、『三種の神器』ねぇ。面白い話を聞かせてもらったわ。お礼に貴方の命は見逃してあげる。さぁ、リル。行くわよ」

「あ……はい……」


 未だに信じられないと言ったご様子のイルアリルマをつれて、アムステリアは時計塔から出た。

 イドゥとティアが情報を求めてここへやってきたのは、このすぐ後のことであった。


「ウェイルへの土産話ができて良かったわ。この話、絶対に興味を持つだろうし」

「え? ウェイルさんがラインレピアに来てるんですか!?」

「これから来るのよ。ウェイルのことだもの、どうせ来るわ。何せウェイルだもんね」

「どういう意味か判らないんですが……」

「その内判るわよ。ウェイルはね、事件が起これば、いつの間にか事件の中心に入り込んでいる『巻き込まれ体質』なんだから」


 女の感というものは、本当によく当たる。それがアムステリアの感であれば尚のこと。


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