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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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メルソーク会員の男

 小さな太陽が扉を消滅させると、そのエネルギーの余波は風となって、辺りに突風を巻き起こした。

 その暴風は室内を、まるで台風でも通り過ぎた後の様に、酷く荒らしていた。


「誰かいるの~?」


 見るも無残に散らかった部屋に、ズカズカと入るティア。それにイドゥも続く。


「あ~、いたいた! 人がいた! ねぇ、生きてるー?」


 そしてティアは、部屋の奥に倒れている人を発見する。

 突風で壁に叩きつけられたのだろうか、壁際で苦しげに倒れていたのは、眼鏡を掛けた一人の男。

 見るからに研究者の様な風体であった。


「イドゥ! 男を見つけたよ! ほら!」

「は、離せ、何をする!?」


 ティアはガシっと男の腕を掴むと、ギリギリと力を加えながら、イドゥの前へ引きずっていく。

 男がいくら暴れようとも、ティアは何事もないかのようにケロリと笑顔を浮かべていたが、よく見ると男の腕が真っ赤に膨れ上がっている。

 どうやら男が暴れる度に、握力を強めていったようだ。

 ティアの握力は、万力をも凌駕する程の力があるようで、男も途中から抜け出すことを諦めていた。

 これ以上、握力を加えられたら腕が潰れてしまうのは、傍から見ても明白である。

 引きずられてきた男を見下し、イドゥは問う。

 

「お前はメルソークの会員だな?」

「な、なんなんだ、お前らは一体!? そんなことは知らない! 俺はここで演劇の準備をしていただけだ!」


 どうやらあくまでもシラを切るつもりらしい。

 しかし、それは愚行と言うもの。

 たった今ティアの恐ろしさを知ったばかりだと言うのに。


「メルソークの会員だというのに、案外頭が悪いんだな。お前さんは今、何をされたのだ?」


 イドゥがティアに視線を送ると、ティアの目がキラキラと輝き始める。


「ティア嬢ちゃん。もしこの男を好きにしていいと言ったら、どうする?」

「好きにしていいの!? うんとね! ティアね! 切ったり剥がしたり、叩いたり焼いたりするのは飽きちゃったからね! 次はね、次はね――――――折ったり潰したりしちゃおうと思うの! どう!? 楽しそうだよね!?」


「――ひぃっ!?」


 男はイドゥに問われた時、冷静を装おうとしたはずだ。

 だがその意地や覚悟は、ティアの目を見て、すぐさまポッキリ折れてしまったようだ。


 ティアの目。それは狂気に駆られた目だ。

 男は、ティアの瞳と目が合った瞬間から、全身を戦慄に支配されていた。

 ガタガタと体の震えが止まらない。

 この娘なら本当にやりかねない――いや、むしろ率先してやってくると。


「いいの、いいの!? ティア、早くやりたい! やっていい!?」

「どうする? お前さんの返答次第で、この娘がご機嫌になる」

「うう……!!」


 返答を間違えた瞬間、彼に待つのは死よりも酷い体験。


「ねぇ、イドゥ。いつまで待たせるのー? ティア、早く遊びたいんだけどー!」


 もう我慢の限界だったのか、ティアは男の腕を握った。


「あがああああああああっ!?」


 腕に込められた握力は、さっきの比ではない。

 ティアは本気で壊そうとして力を込めているからだ。

 握られた腕には血管が浮かび、真っ赤に染まっていく。


「早くどうするか答えてくれ。うちの嬢ちゃんはこれ以上待ってはくれないようだ」

「イドゥ、早く遊ぼーよ!」

「わ、判った! 判ったから、もう止めてくれ!」


 こいつらは狂っている。狂っている相手に、交渉など出来やしない。

 男はもう色々と諦めて、頭を垂れた。


「ティア、止めてやれ」

「ちぇー、つまんないのー。腕が千切れる音、また聞きたかったのにー」


 本当につまらなさそうに男の腕を話すティア。

 ティアは嘘や冗談をつかない。

 彼女にとって、嘘や冗談でごまかさなければならない状況など、これまでに一度として経験したことがない。

 嘘の吐き方なんて、知らないと言ってもいい。全て本気なのだ。

 その事を心の底から理解した男は、観念して語り始めた。


「アンタの言う通り、俺はメルソークの会員だ。それで、アンタ達は何の用がある」

「簡単な話だ。俺達は『三種の神器』を奪いにやってきた」

「……そこまで知ってるのか」


 嘘は通じない。この連中は、ほとんど全てを知ってここに来ていると、男は理解した。


「ワシの質問には答えた方がいい。その方がお前の身のためだ」

「……判った」

「『三種の神器』について、知っていることを話せ」

「……『三種の神器』の一つ、『心破剣ケルキューレ』はこのラインレピアに眠っている。そしてそのケルキューレを封印しているのが、時の時計塔を中心とした時計塔だ」

「なるほど。それでお前らの総帥は、ケルキューレにを手に入れようと時計塔を借り切ったということか」

「ああ、そうさ」

「総帥ってのは、どんな奴だ?」

「実は俺も数回程度にしか会ったことはない。大半のメルソーク会員は総帥の姿を知らないからな。だが正直な話、俺は奴が好きじゃない」

「数回しか会ったことない癖に嫌いなのか?」

「一度会えば判るさ。俺と同じ感想を抱く奴も多い。とにかく気味の悪い男だからな。趣味は女の絶叫を聞くことだと言っていた。そのために奴隷オークションを開催して女を競り落としたり、飽きた女を売り捌いたりしている。奴隷商売自体、俺は全く興味がないし、とにかく奴のやることは鼻につく」

「……ふん。まさか敵と同感を覚えるとはな。話を聞くだけで胸糞が悪くなる」


 少し話してみたが、この男、やはり頭は良い。

 頭の切り替えの早さは、さすがメルソーク会員と言ったところ。

 しかも総帥であるシュトレームと何度か会っているという。

 ある程度の幹部以上でないと、面会すら許されないだろうから、この男の持つ情報は信頼できる。


「もうどうでもいいか。どうせ上の連中は全員死んでるんだろ?」

「すまないな。そういう計画だった」

「別にいいさ。なら計画は失敗に終わるだろうし、全部話してやるよ」


 それから男は、異常なほど素直に語り始めた。


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