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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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人生最初で最後の体験

 悪趣味な演奏会の余韻に浸るシュトレームを現実に戻したのは、彼の従者たる演奏者であった。


「総帥様。全時計塔への配置はすで完了しております。明日、全てのパーツが揃います。しかし、これらを一体どうするつもりなのです? 我々も準備は致しましたが、計画の最終段階が判らない以上、これ以上動きようがありません」


 従者が恭しく、腰を下げた。

 その様子に、シュトレームの目は何とも冷たい。

 自分以外の者全てを見下す、蔑みの目。


「そんなことも判らぬのですか。全く使えないクズだ」

「申し訳ありません。私達部下には、総帥様に匹敵する知恵を持ち合わせておりませんので」

「当たり前のことを言うのも愚か者のすることですよ」

「申し訳ありません。ですが、是非ともお聞かせ願いませんか?」

「……仕方ありません。一度だけ教授しましょう。お聞きなさい」

「ありがたく思います」


 従者のよいしょする言葉の数々に、いくらか機嫌を良くしたシュトレームは、大げさに手を広げながら、舞台上に上がっていく。

 

「東、西、南、北。全ての時計塔は、神器で出来ているのです。それは貴方もご存知でしょう?」

「……ええ」

「時計塔はそれぞれ名前が付けられていますね。それぞれ東は『水』、西は『音』、南は『光』、北は『火』。これらの名前には意味があるのです。私の部下ですから、ここまでヒントをあげれば気づくでしょう? 準備をしたのは貴方達なのですから」

「…………」


 従者の男は、少しだけ言葉を詰まらせたが、コクリと首を縦に振った。


「気づきましたか。ここまで言って判らないようでは、メルソークから脱退してもらうところでしたよ」

「…………」


 ここでシュトレームは、決定的にしてはならない勘違いをしていた。

 今の従者のとった一瞬の間は、言葉の意味に気づいた驚きの仕草であると。


 ――だが、実はそうじゃない。


 シュトレームは、満足げに、そして大袈裟に手を上げると、またも天を仰いだ。


「ああ、ついに我々の悲願が達成される。これで手に入るのですね……!!」

  

 そしてシュトレームは、ついにその名前を口にした。


「――『心破剣ケルキューレ』を――!!」


 彼がその名を発した瞬間だった。 

 闇を切り裂く光が、神々しくも切ない光が、シュトレームを包み込む。


「――ケルキューレ。その名を貴様から聞きたかった。万が一にも間違いがあっては困るからな」


「なっ……!?」


 シュトレームにとって、これは人生で初めての経験だった。

 そして、それは人生最後の経験となるだろう。


「な、な、な……なんですか、これは……!?」


 唐突に言葉が荒くなった従者の変貌具合に驚くとともに、腹部から強烈な激痛が走ったのだ。


「ひ、光が……!?」


 眩い光の刃が、彼の身体を貫通するように突き刺さっていたのだ。


「シュトレームよ、全てを聴かせてもらったぞ」

「あ、あなたは……」


 シュトレームにとって初めての経験。

 それは他人に出し抜かれることであった。

 天才ゆえ、他人を出し抜くことは数多くあったが、逆にやられたことは初めてであった。


「ぐがっ……!? あ、貴方は、一体……!? そ、それに、この、光は、どうやって……!!」


 口から血を吐きながらも、シュトレームは従者だった者を睨み付ける。

 屈辱を覚えたのか。それもそうだろう。

 今までクズだと罵っていた相手に、今度は見下されているのだから。


「誰が、この光、の刃、を……!?」


 血まみれの歯で歯ぎしりをするほど、シュトレームの顔は苦痛と憎悪で歪んでいた。

 もっともその歯ぎしりは、単に負傷による痙攣出会ったのかも知れない。

 そんなシュトレームなどお構いなしに、従者であったはずの男は、余裕しゃくしゃくの顔でこう耳打ちをしてきた。


「メルソークのことは全て判った。しかしお前さんはまだ若いのに、なんとも気色の悪い趣味をしているもんだ。よくもまあ下の連中は、お前みたいなゲスの言うことをホイホイ聞いてるな。さながらカルト宗教だ。まあ、一部お前のやり方に反発していた奴もいたがな。おかげで助かったよ」

「し、質問に、答えなさい……!!」

「お前のようなゲスに答える解答など持ち合わせてはいない。楽に死ねると思うなよ。ティア」

「は~い。ねーねー、イドゥおじさん! ティア、もう演技しなくていい?」

「ああ、いいぞ。悪かったな、作戦とはいえ、嬢ちゃんを鞭で打ってしまった。許してくれたら嬉しい」

「別にいいよ! ティア、演技するの楽しかったもん! じゃあさ、次はティアがこいつにやりかえしちゃっていいかなぁ? さっきの鞭、結構痛かったし!」


 現れたのは、先ほど鞭によって演奏されていた壊れた楽器――もとい金髪の少女。


「な……!? 貴方は……先程の奴隷の娘……!? な、何故生きている……!?」


 すでに息を引き取ったと思っていた、シュトレームにとってはただの楽器に過ぎなかった少女が、どうしてか自分の目の前で、傷一つない美しい姿で笑顔を向けてきている。


「ティアはね! ぶたれるのも好きだけど、ぶつのはもっと好きなんだ! やっていい!? もう我慢できないよぉ!」


 少女の瞳から、正常な色が消えていく。

 やがて現れた色は、狂気に駆られた潔白の光。


「勿論だ。贋作士のワシがいうのも何だが、こいつは人間のクズだ。殺した方が世のため人のためになる。……なるほど、さっきの男の言う通りだったか」

「うん! あ~、どうやって遊ぼうかなぁ~、フフフ、楽しみ~!!」


 実は、この悲惨な演劇は最初からイドゥに仕組まれたものであった。

 奏者はイドゥで、楽器はティア。

 シュトレームに近づく為に、あえて彼の好きな演奏会をしてやったのである。


「さあ! 遊ぶぞ~~!! お返しだぁ~!」

「や、止め……!! あぐああああああああああっっ!!」


 ティアは容赦なく、シュトレームの左手の指を一本一本へし折っていく。


「あはは! 楽しいね、これ! それ、それ!! 次は右、いくよ~!!」


 これまでの報いを、シュトレームは最後に楽しむことが出来たのだった。

 

 ――さて、どうしてイドゥ達がここにいたのかというと、話は二日前まで遡る。

 


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