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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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暴走ルシカはめんどくさい。

「しかしイドゥさん、どうしたんですか? 急に帰ってきて」

「いやな、本当は昨日には皆の前に顔を出そうと思っていたのだが、こいつが遊び過ぎてな」


 やれやれと、疲れた顔でティアを指さす。

 流石のイドゥも、龍の子守りは慣れないのか、かなりぐったりしたご様子。


「好きなもん食わせてやると約束したもんだから、あっちこっちで店を渡り歩かされて大変だったぞ……。ついでに服を買ってやるとも言ってしまったから、目についた服全部買わされてしまってな……。おかげで財布が薄くなってしまった」

「イドゥさんも苦労していたんですね……。私、同志がいるみたいで嬉しいです」


 『苦労する者』全てに親近感を覚えるルシカは、何故か目を潤ませて共感していた。


「あのー、ルシカさ。自分で言ってて悲しくならない?」

「フロリアにだけは言われたくないです! 私が苦労しているのは貴方のせいでもあるんですよ!?」

「それで帰ってきた理由は二つ。一つはお前と会うことが『条件』だったからだ」

「……なるほど」


 その意味は、イドゥと、そしてルシカだけが理解できる。


「そして二つ目は、ルシカ、お前に会いたかった」

「え、ええ、ええええ!? イドゥさんが、私に!? ちょ、ちょっと困ります!?」

「……別に変な意味ではないぞ!?」

「私がいくらイドゥさん好みの可憐で美しい娘であっても! 私達にはあまりにもかけ離れた歳の差という障害がありまして!! ……いや、でも愛さえあれば歳の差なんて関係ないってことですか!? キャー、どうしましょう、フロリア!? 私口説かれてますよ~~!!」

「あーあ、イドゥってば、やっちゃったねぇ……」


 暴走スイッチの入ったルシカの脳内妄想を止めるのは、なかなかに骨が折れる。


「どうするつもりなの、イドゥ。ルシカをこんなにして。私知らないよー?」

「イドゥ、私にはるーしゃがいるから、ごめんなさい」

「口説いてないってのに……。しかしルシカには困ったもんだ。いつも勝手にこうなる」

「今のは言い方も悪いと思うけど?」

「……ほっとけ、いずれ元に戻る」

「放置!? 私を放置プレイですか、イドゥさん!? そっか、イドゥさん、照れてて私の顔が見れないからそんな風に冷たく当たるんですね……。全くもう、歳の割にはシャイなんですから! ちょっと可愛いじゃないですか!」

「わ、ワシが可愛いか……」


 キャッキャと妄想が止まらないルシカを見て、クイクイとティアが袖を引っ張ってきた。


「ねぇ、イドゥ? ルシカはどうして狂っちゃったの? 壊れてるの?」


 何とも手厳しい一言であるが、ルシカをよく知らない者が見れば、この表現は妥当だろう。


「いつものことだ。気にするな。話を戻すぞ。おい、フロリア。ルシカを元に戻してくれ」

「仕方ないなぁ。――おりゃあ!」

「――きゃんっ!?」


 ルシカの脳天にズバッとチョップ振り降ろす。

 するとピタリと動きが止まり、そしていつものルシカが戻ってきた。


「……すみません、なんだか気が動転してました」

「ようやく戻ったか。『お前に会いたかった』という意味はだな、ルシカ、お前の力を借りたかったということだ」

「……は、はい、大丈夫です。イドゥさんの為ならいくらでも力になりますけど。……でもちょっと残念」

「何か言ったか?」

「いえ、別に」

「ティア、例のブツを持ってきてくれ」

「は~い。とってくるよ~」


 相変わらず嫌がるニーズヘッグに頬ずりを続けていたティアだったが、そう言われると目を輝かせて部屋から出て行った。


「例のブツ? なんなんです?」

「見れば判るさ。かなり面白いモンだよ」

「とってきた~」

 

 またもやドタドタと喧しく音を立てて帰ってきたティア。

 しかし帰ってきたティアの肩には大きな荷物が乗っている。


「なにそれ――って、人間じゃん!? どういうこと!?」


 ティアは小さな身体で、何故か鎖でグルグルに拘束された人間を背負ってきていたのだった。


「どっせーい!」


 それを床に容赦なく放り投げると、再びニーズヘッグの元へと戻り、頬ずりをし始める。


「……すりすり」

「……えー、また、やるの……?」

「うん。これ、気持ちいいんだもん!」

「……痛いの……。……気持ちよくないの……。ティア、嫌いなの……」

「えー、ティアは痛くないよー。それにティアはニーちゃんのこと、大好きなんだから―。すりすり」


 なんとも微笑ましい龍の娘達のことは棚上げしておくとして、本題はこの鎖で拘束された人間のこと。

 よく見るとこの人間、すでに虫の息である。

 身体中の至るが傷だらけであるし、指や足はあらぬ方向に向いている。

 

「この既に棺桶に頭から突っ込んで逆立ちしてるレベルで虫の息なこの人は、一体誰なんです?」

「ルシカって、時々結構酷い表現するよね……。まあ間違ってはないけどさ」

「ルシカってば、外道」

「だからフロリアとスメラギにだけは言われたくはありません!? このセリフ、今日何回言えばいいんですか!?」

「こいつはな。あの秘密結社『メルソーク』の現総帥だ。こやつらの計画はあらかた聞き出したが、情報の信頼性で言えばまだ完璧じゃない。だからルシカの力を借りたいと思ったのだ」

「なるほど~。要するにこいつの記憶を私の神器で盗んじゃえばいいんですね?」

「うむ。こいつの情報さえ利用できれば、ワシらの目的に大きく近づくことが出来るのだからな」

「判りました。お任せください!」

「ルシカ、お前だけが頼り――うっ」


 そこでフロリアとスメラギがイドゥの口を抑え込んだ。


「……イドゥはこれ以上、ルシカを褒めたらダメ。後が面倒くさいでしょ」

「そ、めんどくさい。ダメ」

「ふごぐおぐご……」

「お二人とも、どうしたんですか? イドゥさん、苦しそうですけど」

「いやいや、何もないよ? ね、スメラギ」

「うん」


 ルシカが気づかなかったことが幸いである。

 暴走したルシカの相手は本当に面倒くさい。

 また脳天にチョップを加えないといけなくなる。


「早速やっちゃいましょう。それでは皆さん。感覚をお貸し願います!」

「ええ!? またあれやるの!?」

「ぶーぶー!」

「ふごふごふご……」

「フロリアとスメラギの抗議は却下します。イドゥさんは何ってるか判らないですし。では強制的にお借りしますからね!」

「ちょっと待って、まだ心の準備が――って、うわああああああああ」


 ――こうしてルシカの持つ神器『絶対感覚(イマジン・イメージ)』の力によって、秘密結社メルソークの計画の全てが判明した。


 その情報は、すぐさま『異端児(イレギュラー)』全員に伝わり、その日からのイベントに影響を及ぼすことになる。


 一番最初の狙い。

 それは『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』。



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