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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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始まりの朝

 ―― 集中祝福週間 五日目 午前七時 ――


「ね、眠い……。眠すぎるよ……」

「言うな。言えば言うほど眠くなるぞ」


 『セルク・ブログ』の内容に興奮しすぎた二人はというと、調子に乗って太陽が顔を出すまで鑑定を続けてしまった結果、揃って青い顔になっていた。

 数えてみれば、何度――


「そろそろ寝るぞ。今日のイベントに差し障る」

「うん、だね。寝よう」


 ――という会話を交わしたか判らない。

 途中からは言葉すらなくアイコンタクトで互いの睡眠を促していたのだが、


「……ウェイル、やっぱり『邪神』って神器なんだよねぇ」

「他の文面から考えるにそうだろうな」

「ボク、その神器見たことあるのかなぁ?」

「どうなんだろな……って、そろそろ寝るぞ」

「うみゅうう……」


 といった具合に、寝ようと思っても『セルク・ブログ』のことが気になって眠れず、結局二人は一睡も出来なかったのである。


 朝食のパンをスープに浸して、疲れた身体をいたわりながら、ちびちびと食べ続けるフレス。


「プロ鑑定士って、大変だね……。ウェイルは凄いよ、あまり眠くないんでしょ?」

「いや、眠いに決まってるだろ」

「そうなの? ボクなんて食べながら眠りそうなのに、ウェイルってばなんだか余裕があるように見えるから」

「俺は慣れてるだけだ。鑑定に徹夜は付き物だからな。こればかりはお前も早く慣れるしかない。まあ今回は時間がない関係上仕方なく徹夜になったわけだが……」


 確かにウェイルも食事を摂る手の進みは悪い。パンをちぎる手も重そうだ。

 時折口を押えているのは、欠伸を隠しているのだろう。

 いくらベテランのウェイルとはいえ、眠いものは眠いのだ。


「これを食ったらすぐに身支度だ。出発までは少しばかり時間があるから、身支度を終えた後、少し休もう」

「……うん。そうする」

「食べ終わったら先に部屋戻ってな」

「わかったよ……ふわあぁぁ……。ごちそうさま……」


 如何に普段食欲旺盛のフレスといえども、今ばかりは睡眠欲の方が強いようだ。

 今日は珍しく朝食を残して、そそくさと部屋へ戻っていった。

 代わりに食堂へと現れたのは、今回の依頼主であるルーフィエ。


「お早うございます。昨晩はよく眠れ――なかったご様子ですな……。何かあったのですか? すれ違ったお弟子さんの顔色もよくありませんでしたが」

「……少し時間の掛かる鑑定をしていてな」

「左様ですか。この都市は芸術品ばかりな故、鑑定士さんはさぞ大変でしょう。お仕事ですかな?」

「……いや、ちょっとプライベートでな」


 別に他の鑑定依頼をこなしていたわけではないのだが、『セルク・ブログ』が関わっている以上正直には話しにくい。

 そういうことにしておいた方が無難だろう。


「本日のイベントに支障はありませんな?」

「無論だ。プライベートはプライベート、仕事は仕事。そこはきっちりとやらせてもらうさ」


 ある意味ではこの仕事の為に徹夜したようなものだ。

 ルーフィエは今日、最後のサウンドコインを手に入れるつもりだ。

 そしてそのコインは、『三種の神器』に繋がる大きな手掛かりになる可能性のあるものだ。

 どんな敵が狙ってくるかは判らないが、必ず死守し、手に入れねばならない。


「イベント開始ギリギリまで俺達は身体を休めるよ。この依頼を必ず果たす為にな。約束する。サウンドコインは絶対に手に入れるとな」

「よ、よろしくお願いします」


 ウェイルが改めてそう宣言するものだから、思わずルーフィエの方が改まってしまっていた。

 どうしてウェイルがここまで真剣になっているのかは定かではないが、ルーフィエとしては心強い一言で、先程までの大丈夫だろうかという懸念など吹き飛んでしまった。


「部屋に戻る。また後で」

「はい。私は一足先に会場へ行っております。知り合いに挨拶周りしませんと」

「判った。気を付けてな」


 サウンドコインのことで、色々とコレクター仲間に配慮してもらっているルーフィエだ。

 コレクター同士の繋がりは何よりも大切なはず。

 だからこそウェイルは引き留めなかった。

 コレクターが仲間を失えば、収集理由の大半を失うに等しい。

 それはコレクターにとって死より辛いことだろう。

 イベント会場がこれから危険地域になると予想していても、こればかりは止められない。


「本当に、気を付けてくれよ」

「ええ、判りました」


 念押しするウェイルに、ルーフィエも何かを悟ったのか、今度はしっかりと頷いてくれたのだった。


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