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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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願いを託された責任

「ウェイル……これって……」

「……ああ」


 解読の終えた二人は、その途方もない内容に愕然として、脱力感からベッドに身を投げていた。


「なんなんだ、この文章は……!!」


 意味が判らないから嘆いているのではない。

 むしろその逆。

 

「クソ……!! 『三種の神器』は世界を滅ぼす神器で、しかもその一つがフェルタリアにあるなんて……!!」


 ウェイルは、こんな一般人から見ると意味不明な内容を、逆にほとんど理解してしまったのである。

 隣で顔を伏せているフレスも同様だ。

 むしろフレスの方がショックは大きいかも知れない。

 『三種の神器』に関しては、フレスの方がよほど詳しい。

 そのフレスすら知らなかった事実を、突如としてセルクから託されてしまった。


「ねぇ、ウェイル。こんな偶然って、あるのかな……」

「有り得ないさ。普通はな。セルクはこの内容をインペリアルに伝えたのか……?」

「インペリアルって、あのインペリアル手稿を書いた人だよね?」


 ――インペリアル手稿。

 

 図書館都市『シルヴァン』に保存されていた、長年解読の進まなかった書物である。

 稀代の天才テメレイアによって解読された情報を、ウェイルはいくらか手にしている。


「ウェイルは解読したんでしょ!?」

「そうだ。俺はインペリアル手稿を、テメレイアの解読方法通りに解析し、そして解読に成功したよ。そうか、インペリアル手稿は、『セルク・ブログ』を見て書かれたものだったのか……!!」


 インペリアル手稿にも『三種の神器』の情報が載っていた。

 『創世楽器アテナ』の記述もあったし、それ以外の神器についても、しっかりと記述してあった。


「やっぱりセルクは、インペリアルと知り合いだったんだ……!」

「そのようだな。しかもこれを見る限り、かなり親しい仲だったことが判る」


 これまでの研究で、セルクとインペリアルの生存期間は一致している期間があるという結論付けられている。

 その結論から、二人は親交があったのではないかという噂が、まことしやかに囁かれていたが、これでそれが事実だということが判明した。

 

「この詩の中の『急』に出てくる『女神』って表現は、多分『アテナ』のことだよね。直接見たことあるわけじゃないけど、確かレイアさんはこの神器は女神の像を模してるって言ってたから」

「『アテナ』という名前は、芸術を司る女神の名から付けられたものだろう。とすれば『女神』は『アテナ』で間違いない」

「じゃあ『邪神』ってなんなんだろう……?」

「……判らん。大砲との表現があるから、おそらくは兵器系の神器だろうさ」

「『アテナ』だってあれだけの魔力を持っていたんだよ。それと同じレベルの兵器だったとしたら……」

「……想像するだけで怖いな……」

「世界が滅ぶ的なことが書いてあるしね……」

「これはなんとしてもテメレイアにも協力を仰がなければならなくなりそうだ……!!」

 

 インペリアル手稿を解読したテメレイアならば、『三種の神器』に関しても、何か的確なアドバイスをくれるに違いない。

 彼女の才能に頼らざるを得ないことは、同じプロ鑑定士としては恥ずかしいことだとは思うが、効率を考えれば協力を仰がない選択肢はない。


「ウェイル、この八つの音色って、もしかして……!!」

「お前の想像通りだろうな」


 セルクの言う八つの音色とは、カラーコイン――もといサウンドコインに違いない。

 カラーコインはそれぞれ違った音が鳴る。

 現在『ラ』の音が足りないが、それ以外は全て揃っている。


「詩に出てくる都市についても、聞き覚えがありすぎて恐怖すら覚えるよ。フェルタリアと、そしてここラインレピアだもんな……」

「もう一つあるよね。ルクソンマテアって。ウェイル、知ってる?」

「いや、資料でそんな都市があったと見たことはあるが、それほど詳しくはない」

「実はね。ルクソンマテアって名前は、今のハンダウクルクスがある場所にあった都市の名前なんだよ。ボク、覚えてる」


 旧時代、現在ハンダウクルクスがある場所には、当時ルクソンマテアという都市があったという。


「確かハンダウクルクスの地下に、『アテナ』はあったんだよね」

「テメレイアはそこで発掘したと言っていた」

「だとするとさ……」

「フェルタリアとラインレピアにも、『三種の神器』は存在する、と」


 神器の所在も、この『セルク・ブログ』に書かれた通りにあった。


「だとしたら、メルソークは本気で『三種の神器』を狙っているってことだよね」

「……『アテナ』のことを考えれば、かなり不味い状況なのかもな……」


 秘密結社メルソークは、神器収集を活動の主としていると、フレスベルグが以前言っていた。

 そしてそのメルソークは、奴隷オークションを開催するような連中であるわけだ。

 そんな輩が『三種の神器』を手に入れれば、一体どのような使われ方をするのだろうか、想像するのが怖いほど。


「メルソークは、ボクらが止めないといけないと思う」


 フレスが、力強くそう言った。


「そうだな」


 正直に言えば、ウェイルはあまり乗り気ではなかった。

 相手は天才の集まった犯罪組織だ。そんな連中に手を出せば、自分達の命すら危うい。

 だが弟子の力強い言葉と、セルクの想いを託された者としての責任感が出てきたのだ。

 どの道メルソークの違法行為は、プロ鑑定士としても取り締まらなければならない案件。

 ならばいっそ真実に辿り着ける方を選ぶに限る。

 

「龍が永久になる時……か」


 そうすれば、この言葉の意味も判る時が来るだろうから。


「……永久か……」


 しかし、この意味は、一体どういうことなのだろうか。

 もし『三種の神器』が全て現れた時、フレス達の身に、一体何が起こってしまうのだろうか。

 フレスも自分達のことを書かれていたのがショックだったのだろう。表情のこわばりを隠しきれていない。


「大丈夫か……?」

「……うん。大丈夫だよ」


 動揺はあるだろうが、それ以上の問題はなさそうだ。

 気持ちは判るだけに、師匠としてどんな声を掛けてやればいいのか判らない。


「ウェイル、これからどうするの?」

「正直悩んでいる。だがこれを解読した俺達には、それなりの責任があると思ってる」

「セルクのお願い、聞くんだよね?」

「ああ」


 ウェイルはゆっくりと頷いた。

 この『セルク・ブログ』は本物に間違いないだろう。

 セルクの筆跡の癖なんて飽きるほど見てきているため、見間違いようもない。

 この日記はセルクの直筆だ。なんなら公式鑑定書を作ってもいいほどだ。

 日記には『メルソーク』の文字も出てきた。メルソークにこれを見せてはならないと。


「確かアムステリア達も、メルソークを追っていたな」

「奴隷売買を阻止するって言ってたね」


 『三種の神器』に秘密結社メルソーク。

 神器を集めているメルソークのこと。この『セルク・ブログ』の存在を知らないというのも変な話。


「この『セルク・ブログ』は、どこからオークションハウスに出品されたものなのか、まずはそれを知らないといけないな」


 もしかしたら情報を全て抜き終えたメルソークが、この品を流したのかも知れない。

 そうなれば、奴らが『三種の神器』を手に入れるのも時間の問題だ。


「フロリアさんに聞いてみれば?」


 それも一つの手だ。

 直接フロリアが知らなくても、奴の周囲のいる『異端児』連中に真相を聞けばいい。

 誰か一人くらいは真相を知っているはずだ。


「何が何だか判らない状況だが、ここでくすぶっていても仕方ないな」

「だね」


 この日記の内容は大きな問題だ。

 だがそれ以上に問題なのは、この日記の情報を欲していた連中がいたということ。

 そしてその内の一人――フロリアによって、この情報はすでに敵の手に渡ったということを知っている。

 それだけではない。

 神器を集めているという秘密結社すらも、この事件に関わってくるとなると、あまりにも事態が複雑になってくる。

 何せメルソークという連中は、奴隷売買をやってのけるような連中なのだから。


「ウェイル。少し寝ておこうよ。今日のイベント、なんだか本当に嫌な予感がするんだ」

「気が合うな。俺もだよ。フロリアのセリフ的にも穏便には済まなそうだからな」


 ――『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』。


 本の内容的に八つの音色となる最後の硬貨が、このイベントに出展される。

 このイベントが平穏に終わってくれるだろうという希望的観測は、今の二人には出来ない。


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