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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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記憶鑑賞会

「ただいま~」


 運河都市ラインレピア西地区にある隠れた宿。

 豪華な装飾もなく、かといってボロ宿とも言えない、質素な宿にフロリアの呑気な声が響いていた。 

 二人を出迎えたのは、ルシカとスメラギ。


「フロリアのお馬鹿さんが帰ってきましたよ」

「お帰り。フロリア」

「うん、ただいま~。スメラギ~! 会いたかったよ~!」

「私も!」


 久々の再会とでも言わんばかりに(オークションで出会ったばっかりだが)、二人はひしっと抱きしめあった。


「仲のよろしいことで」


 そんな様子を呆れた表情で見ていたルシカは、一度嘆息すると腕を組んでフロリアの横に立つ。


「フロリア、私に何か言うことはないですか?」

「ルシカに? う~ん、特に何もないかな~。スメラギ、何かあるかな?」

「ううん。何もないよ」

「何もないわけないでしょ!?」

「……無駄、なの……」


 フロリアをまともに相手しようとするルシカは何とも律儀である。

 そんなルシカを不憫に思ったのか、ニーズヘッグはルシカの肩を叩いて首を横に振っていた。


「貴方には何もなくとも、私には聞きたいことが山ほどあるんです! ほら、二人共! さっさと離れなさい!」

「うわぁ! 私とスメラギの仲を無理やり引き裂くだなんて、ルシカってば酷くない!?」

「酷くありません! フロリアが私達にしたことの方が酷いでしょ!?」

「……まあ、それは言い返せませんけども、はい」


 そりゃ勝手に抜け出したわけだし、『セルク・ブログ』も盗んじゃったし、ルシカが怒るのは無理はないけど。

 でも尋問されるのも嫌なわけで。

 ……さてと。


「――フロリア、また逃げようとしてる」

「うっ!? 思考を読まれた!?」

「フロリア、判りやすすぎ」


 スメラギに首根っこを捕まれた。


「ナイスです、スメラギ。そのまま捕まえておいてね」

「うん。逃がさない」

「スメラギが裏切った!? 私達、親友でしょ!?」

「それとこれとは話は別。逃がさない」

「ううう……」


 スメラギの馬鹿力で首を掴まれたのでは、逃げることは不可能だ。

 無理やり抜け出そうとしようものなら、下手をしたら首を折られて殺されてしまう。

 もっともこれ以上逃げたところで次に行く当てもない。

 ニーズヘッグを見ると、ルシカに頭を撫でられて嬉しそうに座っており、これまた使えそうもない。


「もう逃げちゃダメ、フロリア」

「スメラギ……」


 何故かスメラギが涙目を浮かべているし、なんだかバツが悪い。


「判った。もう逃げないよ。心配しないでね、スメラギ」

「うん。私、寂しかったよ。フロリアいないと寂しくて死んじゃう。ルシカと二人きりなんて飽きた。もういい」

「さりげなく私に失礼なこと言ってますよね!? 結構ショックですよ!?」

「寂しい? ルシャブテはいないの? あれれ? そういえば全然人がいないけど?」


 そういえば出迎えてくれたこの二人以外の姿がない。


「他の皆さんは個別に作戦を決行しに行ったんです!」

「作戦? なんの?」

「それさっきオークションハウスで説明したでしょ!? もう忘れたんですか!?」

「あ、そうだったっけ」


 『セルク・ブログ』を盗む前に、作戦を聞いていたことを思い出した。

 だからこの場にスメラギとルシカしかいなかったのも納得だ。


「リーダーとアノエ、ダンケルクとルシャブテが組んでるんだっけな」

「うう、私がるーしゃと組みたかったのに……。ダンケルクに寝取られた……えぐっ……」

「誤解を生むような言い方するんじゃありません」


 組が発表された時は、スメラギはルシャブテと同じ組じゃなかったことで随分と泣き喚いて、慰めるのが大変だったそうな。


「今からでもるーしゃのところに行きたい」

「ほら、スメラギ。あんまりワガママを言ってはいけません! これも全部イドゥさんの命令ですからね」

「……うん。だから我慢する」

「イドゥってすごいんだねぇ……」


 泣き喚くスメラギに言うことを聞かせられるのは、イドゥくらいにしか出来ない。

 愛して止まないルシャブテですら絶対に無理な芸当である。


「それでルシカとスメラギは明日、何するの?」

「よく知らない」

「……あの、私の説明、ちゃんと聞いていましたよね?」


 ルシカはジトーとした視線を二人に向ける。


「ごめん! 完璧に忘れた!」

「私も! 一言も覚えてない!」

「堂々と言わないでください!? しかもスメラギまで!?」

「ああ、頭が痛い……」


 当の本人達は、そんな視線などお構いなしに「ねー♪」とハイタッチ。

 いつまでも頭痛の止まないルシカに対し、説明を全く聞いていなかった二人は何とも能天気であった。


「一応聞きますが、どうして聞いてくれなかったんですか?」

「興味ないもん! それに『セルク・ブログ』なんて聞いたらそれしか考えられないよ?」

「フロリア、セルク好きだもんねー」

「一応マニア名乗ってるからねー!」


 フロリアは『セルク・ブログ』のことで頭が一杯であり(ヨダレまで垂らしていた)――


「るーしゃと一緒が良かったよ……うう……」

「あら、まだ引きずってるよ……」


 ――スメラギは全力でルシャブテに抱きついて、恍惚状態であった(しかもルシャブテの臭いでほんわかしていた)からである。※(ちなみにルシャブテは肋骨へとのダメージで死にそうな顔をしていた)


「はぁ……、もう一度だけ言いますからよく聞いておいてくださいね!」

「よーし、今度こそ聞いてあげよう!」

「仕方ない。聞く」

「どうして上から目線なんですか!? ……リーダー達はイドゥさんの手伝いを、ダンケルク達は明日行われるイベント『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』に参加することになってるんです」

「『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』? あ、そういえばそんなイベントあったね」



 ウェイルに自分が教えた情報だと言うのに、それすらも忘れていた。うっかり。


「それで私達は手に入れた『セルク・ブログ』の情報を解析するんです」

「よーし、急いで『セルク・ブログ』の鑑定をしちゃおうか! 時間はあまりないぞ?」

「そうだった、思い出した。ルシカ、早くしよ」

「今私が言ったことを、さも覚えていたみたいな顔しないでくれますか!? それとスメラギは思い出したって嘘でしょ!? 聞いてなかったんですから思い出す情報すらないでしょうし」

「……そ、そんなことないよ……」

「視線が泳ぎまくっていますが。……まあもういいですよ、どうでも。早速これを開封してみましょうか」

 

 これ以上は時間の無駄だと悟ったルシカは、自分のペンダントを机の上に置いた。

 そしてペンダントの上に右手人差し指を置くと、少しだけ魔力を注入する。

 すると、ペンダントは鮮やかな空色に輝き始め、その光は部屋全体を飲み込んだ。


「うわあああっ!? まぶしーー!?」

「きれー!」


 光り輝くペンダントは、さながら映写機の様に、この部屋全体にルシカの記憶(視覚情報)を写しだしていた。


「でしょでしょ、凄いでしょ!?  この私のペンダントはね、二つの神器を内蔵していまして」


 ルシカの持つペンダントには、自分自身のエルフの薄羽が、なんと二枚も内蔵してある。

 エルフの薄羽は、ガラスを遙かに凌駕するほどの魔力伝導力があり、それを二枚も用いているからか、異なる能力の同時発動が可能となっている。

 一つ目の能力は周囲の感覚を奪い、自分の感覚を強化する神器『絶対感覚(イマジン・イメージ)』。

 そして二つ目の能力は、この光景を映し出している神器『刹那思考(スピリット・ワークス)』という。

 『刹那思考(スピリット・ワークス)』は、一度でも見たり聞いた話を瞬時に記憶し、後で映像として展開することが出来ると言う優れものだ。

 持ち主の思考能力を飛躍的に向上させると言った効果もあり、元来ルシカの持つ一度見聞いたことを忘れない超記憶能力と相まって、神器の性能を100%以上に引き上げている。

 この能力のおかげで、ルシカはこの異端な連中の参謀役兼情報処理役を務めているわけだ。


「さあ、二人共。今の記憶を見て、気が付いたことがあればガシガシ意見してくださいね!」


 こうして三人の(ニーズヘッグは寝ているので戦力外)記憶鑑賞会がスタートした。


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