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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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仇の仇


「この『セルク・ブログ』は、もう『異端児』にとっては要らない代物。だからお前が持ち逃げしても何ら問題は生じない。だからこそお前は放置された。単刀直入に尋ねよう。『異端児』はこの『セルク・ブログ』を何に使うつもりだ?」


 話が少し脱線していたが、結局ウェイルが聞きたかった情報はこれである。


「順序立てて話すよ。まずどうして『セルク・ブログ』は既に必要ないかだけど、実は欲しいのは中身の情報だったんだよね」

「全部読んで覚えたと?」

「まあそれは半分正解かな。私の仲間の中には感覚を司る神器の持ち主がいてね。その神器を使えば、感覚を他人と共有できるんだ。そしてその子は、一度覚えたことは絶対に忘れない記憶能力を持っている」

「つまり『セルク・ブログ』の内容を、記憶力の良い奴が覚えて、神器を使ってその視覚情報を他の仲間に伝送し、情報を抜き出したということだな」

「そういうこと」

「だから抜け殻同然の『セルク・ブログ』を盗んだところで、誰も咎める奴はいなかったと」

「う~ん、たぶん後で嫌味を言われちゃんだろうなぁ。何せ今回のオークションではそれを盗む気なんてさらさらなくてさ。情報の抜き出しは、バレない様にこっそりとやる予定だったから」

「お前がその作戦を台無しにしたんだな?」

「だって、アレス様へのいいお土産になると思ったんだもん!」

「盗品が土産になるか!」


 盗品は、それが盗品と知らなくとも取引すれば犯罪になるケースもある。

 如何にアレスが裏で手を回すとしても、犯罪は犯罪だ。


「まあまあ。結局戻すことになったんだからいいじゃない!」

「よくはねーよ」

「それよりもさ、その『セルク・ブログ』の中身、気にならない?」

「無論気になる。お前らがどんな情報を知りたいか調査しなければならないからな」


 なんて言いつつも、ウェイルとて人並み、いやそれ以上の好奇心は持ち合わせている。

 この『セルク・ブログ』は返品しなければならない大切な代物とはいえ、少しくらい中身を見ても構わないだろう。


「せっかくだから鑑定してみたら? 私も鑑定はしたけど、それはあくまでこれが本物かどうかってだけ。実は内容まではよく判らなかったんだよね。ただね。私の仲間はその内容こそが最も重要な手掛かりになるって言ってたよ」

「『セルク・ブログ』の内容か……」


 パラパラとページを何枚かめくってみる。

 当然のことながら、そこには文字とイラストが描かれていた。


「この日記、もしかしたら何らかの暗号にでもなっているんだろうか」


 『異端児』が狙った以上、内容には重要な情報が含まれているはず。

 ならば暗号が隠されている可能性も、あり得なくはない。


「ウェイル! ボクも手伝うからさ! 頑張って一緒に解読してみようよ!」

「そうだな。幸い今日は時間もあるしな」

「ボク、鑑定道具持ってくるね!」

「……あれあれ!? 急に私が仲間外れになってる!?」


 本格的に鑑定モードへと移行したプロ鑑定士二人に、フロリアは置いてけぼりにされた気分。

 同じようにペタリと座り込んでいたニーズヘッグはというと、そそくさと鑑定準備をするフレスのことをボーっと見惚れていた。


「ニーちゃん、そろそろ帰ろうか……」

「……フレスに……縛られてるのって……なんだか……ぞくぞくするの……」

「ド変態でしたかーそうですかー」


 縛られて顔を赤らめエヘヘと笑うニーズへッグに、今度はフロリアがドン引きする番だった。


「おい、フロリア、お前まだいたのか。鑑定を始めるから、部外者にはとっとと帰ってもらいたいんだが」

「私部外者!? その『セルク・ブログ』を持ちこんだ張本人ですけど!?」

「俺がちゃんと返しておくから安心しろ。お前は邪魔だ。帰った帰った」

「私『異端児』のメンバーなんだよ!? もっと色々聞きたいことがあるでしょ!?」

「確かに聞きたいことはあるが、お前は喋る気はないだろ。どうせ喋らないならここに残す意味もない。それよりこれを鑑定してお前らの狙いを知る方が大切だ」

「言われてみればその通りだけどさー」


 確かに『異端児』のメンバーについてこれ以上喋る気はなかったが、そこまで言われると逆に喋りたくなるのがイタズラっ子の性である。


「ううう、でも流石に喋れないよなぁ……」


 変な葛藤にとらわれて、これまた妙なリアクションをしていたフロリアは放っておくとして、ニーズヘッグにもここにいられては面倒だ。


「フレス。こいつの手錠もとってやれ。とっとと帰らせた方が、お前の気分も楽になる」

「……判った。ボクもこれ以上こいつと同じ空気を吸っていたくないよ」


 フレスは、ニーズヘッグと視線すら合わせず、氷の手錠をコツンとつついた。


「……あ……」


 氷が砕け、手錠は解けてなくなっていく。

 ニーズヘッグは、氷が消えてなくなるさまを見ながら、何だか物惜しそうな顔をしていた。


「さ、お前らは帰れ。これ以上用はない」

「ムムム……。そこまで言われると絶対に帰りたくなくなってきた。……まあ、そろそろ仲間のところに戻らなければならないのも事実だし、いいよ。帰ってあげるね」


 鑑定作業を進めるウェイルの近くにいても、無視されるのがオチである。


「ちょっとニーちゃん! 早く立って!」

「……嫌だ……。まだフレスのとこにいたいの……」

「面倒かけないの! 全くもう!」


 座り込んで落ち込んでいるニーズヘッグの手を引く――のではなく引きずりながら、部屋から出ていこうと扉に手を掛ける。


「あ、そうそう」


 そこでフロリアはピタリと動きを止めて、ウェイルの方へ振り向いた。


「これだけは教えておいてあげるね。私達の次の狙い。それはね、明日開かれるイベントに出展される、()()()()()()なんだってさ」


「――ハァ!?」


 一瞬だが、この場の時が止まった気がした。

 突然のセリフに、ウェイルは言葉を失う。

 フレスも同じく目を丸くしながら、ウェイルと視線を合わせた。


「じゃあね。また会おうね! ウェイル!」

「ちょ、ちょっと待て! その話、もっと詳しく教えろ!」

「やだよー! ウェイルが帰れって言ったんだからねー」


 ウェイル達は急いでフロリアを追いかけたものの、結局逃げ足の速い二人に追いつくことは出来なかった。





 ――●○●○●○――





「珍しいコイン……。まさかカラーコインのことじゃないだろうな……!?」


 最後にフロリアからもたらされた情報は、ウェイルに自分の運の無さを恨ませるのに十分なものであった。

 ()()()()()()について、二人には心当たりがありすぎる。


「『異端児』の狙いが何であれ、あのイベントが狙われている以上、接触は避けられんな……」

「……だね。どうするの? テリアさんに報告するの?」

「今アムステリアがどこにいるか判らない以上、報告は難しいだろうが、一応試してみる」


 明日に迫った硬貨コレクター達の祭典『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』。

 このイベントに『異端児』達が現れる。

 フロリアからの情報だ。虚偽の可能性だって否定は出来ない。

 だが、これはある意味チャンスでもある。


「奴らがもしカラーコインを狙っているのであれば、あのカラーコインには何か秘密があるってことの証明になる。……それに、だ」


 気が付けば手には汗。

 復讐心とも違う、形容しがたい感情が、ウェイルの拳を強く握らせていた。

 ちらりとフレスの顔を見る。

 フレスもウェイルと同じ気持ちなのだろうか。

 同じように拳を握り、そして判っているとばかりに首を縦に振って応じてきた。


「『不完全』を叩き潰した連中の顔を拝めるんだ」

「ボク、奴らを一目見てみたい。そしてね――」


 その言葉の先は、沈黙であった。

 二人は十分理解している。


 ――仇の仇に直接会う可能性があるというのだから、二人の思いはただ一つ。


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