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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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クマ食べたい病


 西に沈む太陽が、西の時計塔と重なって、影の階段を投影している頃、ウェイル達はルーフィエに用意してもらった宿へと戻り、食事を摂りながら明日のイベントに向けて打ち合わせをしていた。


「明日はどう動く?」

「イベント開始は午前九時からで、硬貨即売会は十時から開かれるのです。競売を介さないイベントである故に、本来であれば入手は困難を極めますが、おそらく手に入れることが出来るでしょう」


 ルーフィエは、今回の『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』の為に、同じ硬貨マニア達に対して既にある程度話を通しているという。

 アレクアテナ大陸は芸術大陸だ。故にコレクターの数も膨大に及ぶが、硬貨コレクターの、それも莫大な財産を持つ者と言えば、それほど数がいるわけじゃない。

 ルーフィエは硬貨コレクターの中でも一目置かれる存在であるし、何よりコレクター達から尊敬されている(硬貨がたくさん手に入るという理由だけで、危険地区である貧困都市リグラスラムに居を構えているところは彼が尊敬される一因として挙げられている)。

 なので今回の即売会について、ルーフィエは他のコレクターに対し、このカラーコイン以外の即売会には参加しないことを表明し、代わりにカラーコインの即売には自分以外は参加しないように要請をかけていた。

 他のコレクター達も、この提案を快く承諾してくれているそうだ。

 というのも、コレクター達の間では、このカラーコインは何らかのセットになっていると考えられていた。

 だからセットの中の一枚を手に入れるより、その他の価値のある硬貨を買う方が、コレクターとしては正しい選択なのである。

 むしろ他の参加者から言わせれば、単体では価値を持たない一枚を無理して自分で手に入れるより、すでにセット品を持っているコレクターに渡る方が、正しいと考えるほどである。

 自力にしろ、他人の力にしろ、彼らコレクターという連中は、セット物は全て揃っておかなければならない、揃っておくべきであると思っている。


「その他のカラーコインは、最後のカラーコインを購入し次第、一緒に展示することになっておるのです」


 ウェイル達が預かっていたカラーコインは、すでにルーフィエに返却している。

 このイベントが終わった後、また鑑定を依頼してくれるとのこと。

 ちなみに今カラーコインはどこにあるのかというと、イベント運営本部の金庫に保管されているそうだ。

 大事な看板展示品だ。ルーフィエとしても手元にあるより運営に管理を任せた方が安心できる。


「仲間達もそのことを知っていますし、即売会で他の参加者に購入されることはまず無いと思いますぞ」


 ルーフィエが断言するのだ。間違いないのだろう。


「問題は、それが本物であるかどうかだな?」

「左様。あのカラーコインが、本当に『ラ』の音色を持つサウンドコインかどうか、ウェイルさんに鑑定して欲しかったのです。信頼できる鑑定士である貴方に、ね」


 ウェイルに鑑定をして欲しいとルーフィエは言うが、それは半分建前だ。

 正しく言えばウェイルにしか鑑定できないと、そういうことであるわけだ。

 カラーコイン(サウンドコイン)の鑑定については、今のアレクアテナ大陸においてウェイルより詳しい鑑定士は存在しない。

 何せカラーコインに描かれている文字すら、ウェイルは把握しているのだから。


「了解した。明日の九時には会場に入るよ。カラーコインの鑑定は下見段階である程度済ませたいからな。音については鑑定は難しいが、隠れてこっそりつついてみる分には問題ないだろう。ここに地獄耳を持つ弟子がいるからな」

「もぐもぐ……うん! ボクに任せてよ!」


 会話そっちのけで肉を頬張っていたフレスは、ゴクリと口の中の物を飲み下すと、力強く頷いた。

 カラーコインの音を知るには、フレスの耳は欠かせない。


「それともう一つ。明日この宿には400万ハクロアが銀行から届けられる手筈となっております。ウェイルさん。申し訳ないが、この現金の警備もお願いしたい」


 プロ鑑定士には、このように現金輸送を任されるケースも多い。


「それも承知した。フレス、大金だ。全力で死守するぞ」

「ねぇ、ウェイル。400万ハクロアって、どれくらいのお金なの?」

「お前が以前ギルと稼いだお金が41万ハクロアだったろ? ざっとその十倍だ」

「うみゅう……。結局あのお金は自分の為に使った訳じゃないからなぁ……、どれくらいのお金か判んないよ……」

「そういえば騙されて株券買ったんだったな……」


 マリアステルにて、41万ハクロアという大金を、当時全く価値のなかった旧リベア社の株式に全額つぎ込んでしまったフレスである。

 結局その株式は、新リベア社に勝利する切り札となったわけだが、フレスはそのお金を自分の為に1ハクロアも使うことが出来なかった。

 プロ鑑定士なったとはいえ、フレスは龍だ。

 人間の銭勘定は、まだまだ苦手である。


「ボクに判りやすく例えてよ」

「そうだな……」


 フレスがピンとくるものと言えば。


「くまのまるやき400匹くらい食えるんじゃないか?」

「な、な、ななななななな、なんですとおおおおおおッ!?!?」


 クマで目を輝かせるのは龍たる所以か。


「凄いだろ? 400万ハクロア」

「絶対に死守するよ! ボク、クマ食べたいもん!」

「いや、守ってもクマは食えんけどな」


 今の会話を聞いたルーフィエは、面白い冗談をいう弟子ですなと大笑いして、明日はよろしくと挨拶を済ませると、自分の部屋に戻っていった。


「むう、ボクは別に冗談でクマ食べたいと言った訳じゃないのに」

「いや、普通は冗談に聞こえるって」


 フレスの正体を知らないルーフィエの反応は、至極普通のことである。


「まあいいもん! ボク、プロになったわけだし、お金もらえるわけだし! お給料でクマ買うもん!」

「どこにも売ってないと思うぞ。うん」

「うわああああん、クマ食べたいクマ~~!! クマ―」


 以前にもあったことだが、フレスはよほどクマが好きらしい。

 クマのことがよほど恋しいのか、羞恥も捨ててしまうほどで、毎回泣いて喚いてを繰り返すのである。

 ウェイルはこの行動を『クマ食べたい病』と呼んでいた。


「おい、フレス。そろそろ泣き止め。流石に周囲の客の視線が痛い」

「うぐうう、ひっく、だって、クマ、現代に封印を解かれてから、一度も食べてないんだもん……!」

「……流石にフェルタリアにもなかったのか。クマは」


 いつものように豚肉でも買って食えばいいと諭していた、その時のこと。


「いやああああああああああ、クマ、クマ食べたいいいいいいいいいいのぉぉぉぉぉ!!」

「あのね、ニーちゃん。クマなんてね、そう簡単に食べることは――――」


「「――――あっ」」

 

 ウェイルの背後の席、そこにはフレスと同じようにクマについて泣き喚くグループがいて、そしてその宥める方同士が視線を合わせてしまった。


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