表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
475/763

フレスはやっぱりフレスだった


「さて、フレスの奴、鍵を預かった瞬間に部屋に向かったということは、――多分()()()()な」


 フレスが待つであろう部屋に入る前に、ウェイルは部屋の扉を少しだけ開けて、こっそり中を覗いてみた。


「にゃははは! ベッドふかふか~! すっごく跳ねる~!!」

「……やっぱりな」


 純粋な感想を述べると、フレスはやっぱりフレスだということだ。

 ルーフィエが企むような関係になるのは、やっぱり難しそうである。


「フレス、そろそろ止めようか」

「うぇ、ウェイル!? いつの間に!?」


 扉を開けると、フレスは驚き固まってしまった。


「いつから見てたの!?」

「そうだな。お前がベッドに飛び乗って、ぴょんぴょんジャンプし始めた時か」

「そ、それってほとんど最初からじゃない!?」


 ふかふかのベッドがあれば、フレスは遊ばずにはいられない。

 枕があれば投げずにはいられない。

 ベッドでトランポリンや一人枕投げで大はしゃぎ、しかもそれがバレて固まっている弟子の姿を見るのは、なんとも情けなくなる。


 ……きっとルーフィエの妻は、こんなことをしなかっただろう。


「お、怒ってるよね……?」


 投げようと振り上げた枕を抱きしめながら、ウルウルと涙ぐんでいる。

 お約束の展開と光景に、怒りと言うよりも、呆れの方が強い。


「安心したよ。フレスはやっぱりフレスだ」

「それどういう意味!?」

「そのままの意味だよ」


 やっぱり、いつも通りのフレスは、妙に安心する。





 ―――●○●○●○――





「ねぇ、ウェイル。お仕事って、明日からだよね?」

「ああ。ルーフィエ氏も、今日一日はゆっくりしてくれと言ってくれたからな」

「ゆっくりするの?」


 なんて言いつつ、期待の視線を送ってくるフレスに、思わず苦笑い。


「するわけないだろ。さ、外へ遊びに行くぞ」

「待ってました! 流石は師匠!」

「現金な奴だ。まあ折角ラインレピアに来たんだ。観光しないのは損だからな」

「うんうん! じゃあ早速行こうよ! 美味しい食べ物がボク達を待っている!」

「クマの丸焼きはないがな」

「――!?」

「驚きすぎだって……」


 何も顔を青ざめることはないだろう。


「これだけ大きい都市なのに!?」

「どれだけ大きい都市に行ってもないと思うぞ……?」


 という二人にとってのお約束のやり取りの後、二人が向かったのは、運河都市ラインレピア中央区域『セントラル』。

 広大なラインレピアの中心であるこの地区は、競売都市マリアステルに勝るとも劣らぬ活気を見せていた。

 表の大通りから、隙間の裏路地まで、至る所で出店が出ており、商売をする声で溢れていた。

 ただマリアステルと大きく違うのが、その出店の内容だ。

 マリアステルは競売都市故に、言ってしまえば何でも売っている。

 宝石から芸術品、食料品に土産物。衣服に靴に、とにかく何でも揃っている。

 しかしながら、この都市の出店の傾向は、一極化していた。


「……美味しそうな匂いが全くしないよ……」

「そうだろうな」

「ねぇ、ウェイル。もしかしてラインレピアの出店って、全部こんな感じなのかな……?」

「少しは例外もあるだろうが、まあ大抵こんな感じだな」


 折角ラインレピアの都市巡りを始めたというのに、フレスの表情は暗い。

 宿を出た時からお腹をキューキュー鳴らすフレスは、大通りに並ぶ出店のラインナップを見てブーブー文句を垂れていた。


 その理由はというと――


「――食べ物屋が全く無いぃぃぃぃぃっ!?」

 

 そう、フレスの楽しみの一つである買い食いが一切出来ないほど、食べ物を売っている店が少なかったのだ。


「芸術の都だからな。仕方ないだろ」


 出店の大半は、芸術品や美術品の販売であったわけだ。


「へぇ、絵画や彫刻だけでなく、金細工や宝石加工まで……。お、メガネや時計専門の出店まであるぞ? こりゃ興味深い」


 また、販売だけではなく、その場で絵画を書いてくれたりだとか、金属を加工してアクセサリを作ってくれたりだとか、そう言った出店も数多い。

 そんなラインナップの出店に、ウェイルは柄にもなく興奮していた。

 鑑定士だけでなく、芸術に精通する者であれば、誰もが興奮する光景である。

 今頃硬貨コレクターのルーフィエ氏も、興奮の渦中にいるかも知れない。

 ただ唯一、フレスだけは興奮どころか不満たらたらである。


「ウェイル! 食べ物屋を探すよ!!」

「ちょっと待て、俺はあの時計屋を見ていきたいんだが」

「ダメ! ボク、もう我慢できないんだから! お昼ご飯どころか朝ご飯だって、まともに食べていないんだよ!?」


 朝日の光景に興奮して忘れていたと思っていたが、ちゃっかり覚えていたようだ。

 汽車を降りて宿を探してと妙に忙しく、その間に食事を摂る暇が無かったのだ。


「心配するな、俺だって腹は空いているんだ。飯は食いに行くって。だが、少しだけあの時計を見させてくれよ」

「ダメッたらダメ! ウェイルってば、一回時計を見始めたら長いでしょ!? 仕事でもないのに勝手に鑑定始めちゃって、贋作だったら怒るくせに! いつもそれで時間掛かるでしょ!?」

「……うっ」


 職業柄、つい無意識に鑑定してしまう癖があるウェイル。

 しかもその鑑定は、きっちりとやってしまうものだから、結構な時間を要することが多い。

 その間、フレスは待ちぼうけを喰らうことが多々あるのだ。


「時計は後でね! さあさあ、先にご飯だよ!」

「わ、判ったから引っ張るなってば! ……あ、あれはもしやリアネックスの限定エメラルドコーティング!? 興味深い……――って、痛い、痛いって! 耳を引っ張るな、フレス!」

「鑑定は後で! 職業病だよ、ウェイル~!」


 そんなわけで、珍しくフレスがウェイルの手綱を握る形で、二人は昼の食事へと向かったのだった。


 セントラルにそびえる時計塔の鐘が鳴り響く。

 荘厳なる鐘の音は、ラインレピアの平和を祈りながら、正午の時を告げたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ