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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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重ねた手


 朝の感動冷め止まぬフレスは、もう『天国への螺旋階段(ヘブンズ・スパイラル)』は終わったというのに、未だ外の景色を眺めて、うっとりとしたため息を漏らしていた。


「フレス、そろそろ降りる準備だけはしておけよ」

「……う、うん。――って、駅はもう目の前じゃない!?」


 外の景色を眺めていたフレスだ。

 目の前に駅が迫っていることに気が付き、一人あたふた慌てている。


「おい、落ち着け。この駅じゃない」

「……え? ラインレピアの駅でしょ? ここ」

「まあな。だが駅は後二つ先だ」


 ラインレピアには、朝の時点ですでに入都している。

 といっても都市内に入っただけで、目的の駅にすぐ着くわけではない。

 運河都市ラインレピアは、競売都市マリアステルよりも広大な敷地を持つ都市で、その大きさはアレクアテナ大陸にある都市の中でも随一である。

 何せラインレピア内だけで駅は17か所もある。

 東西南北それぞれにそびえ立つ時計塔の近くに駅が配置され、それぞれの中間に一つずつの計8駅あり、円になるように路線が敷かれている。

 さらに中央にはこの8駅すべてと接続された駅があり、中央と8駅の間にもそれぞれ駅が存在するので、この数になっている。

 あまりにも広いので、各駅の周辺と中央は、それぞれが別々の都市のようになっていた。


「俺達が降りるのは中央駅だからな。もうしばらくは景色を楽しんでおけ」

「うん! ラインレピアって、すごく綺麗な都市だったんだね!」

「準備もしっかりな」

「綺麗だなぁ……」


 プロ鑑定士というのに、あまりにも語彙の乏しいフレスであったが、仮に語彙が豊富でも、おそらくフレスは綺麗という言葉以外は使わないだろう。

 それほどまでに、この都市は美しく綺麗であると有名なのだ。


「この都市の景観はハンダウクルクスと並んで有名だからな」


 為替都市ハンダウクルクス、運河都市ラインレピア、図書館都市シルヴァン。

 都市の景観が美しい三大都市であり、ラインレピアは、その中でも最高と称される。

 汽車が都市部に入ると、運河や時計塔、そして美しい街や人の営みの様子を楽しめて、汽車の旅にうんざりした旅人の目も、十分満足できる景観なのである。


「ラインレピアの光景だったら、どれだけ見続けても全然飽きないよ!」


 フレスも先程から窓から身を乗り出して、美しい景色をその瞳に収めていた。


「ラインレピアは芸術の都と言われているほどなんだ。この都市の景観だって、芸術の都と呼ばれるのに恥じないように、都市全体が協力して作り上げたものだしな」

「そうなの?」

「アレクアテナ大陸一有名な芸術家を生んだ都市が、芸術で他都市に負けるわけにはいかないということでな。誰もが率先して協力してくれたそうだ。この都市の景観は、まさに奇跡と表現してもいい」

「う~ん、アレクアテナ大陸一の芸術家かぁ。誰なの?」

「あのセルク・マルセーラのことだ。お前にも馴染み深いだろう」

「うん! そっか、ここはセルクの生まれた都市なんだ! ……ん? とすると……」


 フレスは、考え事をしていたが、その顔はなんだか嬉しそうだった。


「そっかぁ、ここがそうなのかぁ……」


 フレスは独り言みたいに、『ここがなぁ……』なんて呟きながら、また窓から景色を見ながらボーっと惚けているのだった。


「ここがなぁって、なんのことだ?」

「あのね、ウェイルには以前話したことあるよね。ボクの親友のこと」

「ああ。――ライラ、だっけか」

「うん。ライラはセルクと出身地が同じだって言っていたからさ。なんだか嬉しくて」

「……そっか」


 フレスのライラを想う時の表情は、正直見ていて辛い。

 もう二十年も前の親友の影を追い、一人想い耽るフレスの姿は、見ていて切なくなる。


「……『不完全』、もうないんだよね」

「……ああ」


 ウェイルはここでふと思い出した。

 初めてフレスと出会った夜のことを。

 自分だけでなく、フレスもまた『不完全』に強い恨みがあった。

 フレスの最近の変なテンションは、憎むべき敵を失った虚無感から来ていたのかも知れない。


「ねぇ、ウェイル。君はこれからどうするの?」

「さあな。お前はどうなんだ?」


 気持ちの良い風を浴びながら、ウェイルは素直に返答する。

 ウェイル自身、行き場のない気持ちに戸惑っていた。


「ボクも判らないよ。でもね」


 フレスは、そっとウェイルの手の上に、自分の手を重ねた。


「ウェイルとこうして旅をして、綺麗な景色を見るの、ボク、楽しいよ。ずっとずっと、こうしていたいよ」

「…………」


 「俺もだよ」とは、すぐに言葉に出来ない自分の小心者さに、嫌気が差す。


「ボク、ずっとウェイルの弟子だからね」

「……当たり前だ。何があっても破門するつもりはないぞ」


 乗せられた手を、しっかりと握ってやる。


「そうだよね。何せ、ボクとウェイルの仲なんだからさ!」

「そうだ」


 なんて互いに笑みを送り合ったのだった。


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