天国への螺旋階段―ヘヴンズ・スパイラル―
――運河都市ラインレピア 集中祝福週間 四日目の早朝。
ウェイル達は、運河都市ラインレピアへと向かう汽車に乗っていた。
久々の汽車の旅は、移動だけで丸一日を要する長旅となった。
太陽も未だ顔を見せておらず、周囲の乗客達は未だ夢の中だというのに、ウェイルとフレスは寄り添うように毛布を被りながら、二人揃って窓から外の景色を眺めていた。
「綺麗な景色だねぇ。最近色々とありすぎて、この景色を見るだけで癒されるよ」
「ソクソマハーツの空は汚かったからな……。それに比べ、こいつは最高だ」
静かな客室内で、車輪の音をBGMに、徐々に明るくなっていく空を眺めるのは最高の贅沢と言えよう。
空は薄暗いながらも、太陽の登場を待ちわびるかのごとく赤みを帯び始めて、清々しい朝の訪れを表現していた。
「フレス、今日はやけに早起きだな。まだ朝六時前なのに」
ウェイルが目覚めた時には、フレスはすでに起きて外の景色を眺めていたのだ。
「なんだか今まで寝すぎちゃってたのか、今はあまり眠くないんだよ」
「そうか」
人格がフレスベルグと入れ替わっている間、フレスはある意味眠っていたといえる。
十分休養も取れたということで、昨晩からやけにテンションは高かった。
「ねぇ、ラインレピアって、後どれくらいで到着するの?」
「実はもうすぐだ。太陽の方を見てな。これが絶景なんだ」
「太陽? まだ出てないよ?」
「今から出てくるから。いいから見てろって」
「どういうこと?」と、頭に?マークを浮かべるフレスだったが、その意味もすぐに知ることになる。
「フレス、ラインレピア内に入ったぞ」
平原と森ばかりだった風景に、新たな色合いが登場した。
赤や白、黄色などの色とりどりの屋根が、現れてきたのだ。
「家だ! 家がたくさん!?」
朝日のてっぺんが顔を出す時、色とりどりの屋根が、その光を反射していく。
その光景は、さながら光のカーペットの様。
「フレス、太陽の方を見てみろ!」
「だから、一体どういうこと――――」
――朝を告げるオレンジ色の太陽がほっこりと顔を出すと、運河都市ラインレピア中央にそびえる時計塔の背後に重なった。
時計塔のステンドグラスと壁の凹凸、それが太陽の光を複雑に反射し、光と影のアートが登場する。
「うぇ、ウェイル!? なにこれ!? 凄いよ……!!」
「だろ? これを見せたかったんだよ」
「まるで、天に向かって階段が出来ているみたいだ……!!」
時計塔の光と影は、都市にある家々の影にも影響を与えていく。
光と影の螺旋状のコントラスト。
フレスの感想通り、天の象徴である太陽に向かって、影の階段が現れているように見えるのだ。
「ラインレピア名物『天国への螺旋階段』。ラインレピアに来たのだから、これは絶対に見ておかないとな」
「うわああ!! なんだかもう、言葉が出ないよ……!!」
フレスは翼こそ出さなかったが、しばらくその光景から目が離せないほど感動してしまっているようだ。
フレスは気が付かなかったが、周囲の乗客もこの光景目当てで続々と目を覚まし、そしてあまりにも素晴らしい奇跡の光景に、心から酔いしれていた。




