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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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嫌な予感はラインレピアへ

「ウェイル、また出たよ。聞き覚えのある名前がさ」

「……だな」


 アムステリア達が言っていた、奴隷オークションを開催するという容疑のかかった秘密組織。

 そんな危険な組織の名前が、再び話題に上った。

 嫌な予感というのが、現実味を帯びてくる。


「メルソークがどうしたんだ? 今回のイベントに関わっていると言うのか?」

「判りません。ただラインレピアに住んでいる硬貨マニア仲間から聞いたのです。此度の祝福週間中に、連中は何かを起こそうとしているのだと」

「何かを……?」


 それが一体何のことか。

 おそらくルーフィエも、この件については噂程度にしか聞いておらず、これ以上の情報も持ち合わせてはいないだろう。

 ウェイル達は、メルソークが奴隷オークションを開催する可能性があるということだけを知っている。

 故にその何かとは奴隷オークションのことなのだろうかと一応の推測は出来たものの、何か引っかかることがある。


「そのお願いとは、メルソークの連中から硬貨を守れってことか?」

「ええ。あくまで噂ですし、メルソーク自体、存在が疑わしい組織です。私は噂に過剰反応しているだけかも知れませんが、万が一を考慮いたしまして」

「いや、その反応は正しい。万が一ってことは、起きる可能性はあるということだからな」


 ますます嫌な予感がプンプンする。

 事前にアムステリア達から話を聞いていた影響も大きいが、それ以上にフレスの顔が気になっていた。

 フレスはメルソークという組織は昔からあったと言った。

 組織の存在を断言しているフレスが、妙に不安げな顔なのだ。

 師匠として、弟子の微妙な変化を見逃すわけにはいかない。


「よし。その依頼、引き受けるよ。なぁ、フレス」

「……うん。ボクも気になるからさ」

「ありがとうございます。それと実は、もう一つだけお願いがあるのです」

「もう一つ?」

「実は先日、常連限定に配布される今年のパンフレットにですね。興味深い硬貨が載っておりましてな。これをご覧くだされ」


 ルーフィエはそそくさとパンフレットを取り出すと、しおりを挟んだページを開いて、二人の前に広げた。


「ここをご覧ください」


 ルーフィエが指さした記事。

 そこには、博覧会に展示される硬貨のイラストと、説明が載っていた。


「どれどれ……」

「うむむむ……」


 ウェイルとフレスの二人は、顔がぶつかりそうになるほどパンフレットに近づいて、記事をしげしげと読んでみた。

 ――すると。


「なっ――!?」

「偶然にしては出来過ぎだよねぇ……」


 メルソークのことに驚いていた二人が、さらに驚くようなことが、そこにあった。

 何せそこには、たった今談義していたばかりのカラーコインのことが書かれていたからだ。


「……色は……茶色か」

「書かれている模様や文字も、多分同じモノっぽいよね」


 茶色の硬貨は、ここにはない。

 となれば、この硬貨が欠けている音階である最後の『ラ』の硬貨である可能性は高い。


「このカラーコイン。私が思うに、このサウンドコインシリーズの最後の一枚だと思うのです。最初この記事を見た時は驚きましたよ。まさか私の持つ硬貨と似たようなものが存在するのかと。そして思ったのです。この硬貨も是非コレクションに加えたいと」


 全て揃っていると思っていたシリーズ物の中に、実はまだ持っていない代物が存在した。

 欠番となった穴を埋めたいと思うのがコレクター魂である。

 その気持ちは、ウェイルにも痛いほどよく判る。


「この硬貨が神器と判っていても、私のコレクター魂は収まりそうにないのです。ウェイルさん。依頼をお願いしたい。是非私についてきて、カラーコインの警備と、そしてこの硬貨を手に入れる手助けをして欲しいのです。資金ならばいくらでも出せますし、いかなる交渉の場にも立つつもりでいます。しかし、専属のプロ鑑定士がいるといないとじゃ、交渉の進み安さが全然違う。こんなことを頼めるのは、このカラーコインにお詳しいウェイルさんにおいて他にはいません。お願いできませんか?」


 ルーフィエは、ここぞと頭を下げてきた。


「ルーフィエさん、頭を上げてくれよ」


 ルーフィエにはこれまで、幾度となく待ってもらった。

 正直な話、ウェイルは彼に恩義すら感じていたのだ。


「大丈夫だ。俺が貴方の依頼を断るわけがない」

「本当ですか?」

「ああ。他ならぬ貴方の頼みだ。むしろこちらから同行をお願いしたいくらいだよ」


 最後のカラーコインが現れた可能性があるというのだ。

 ここまで乗りかかった船であるし、相当な時間を掛けて鑑定してきた案件だ。

 ウェイルとしても、事の次第が気になる。

 茶色『ラ』の音を持つカラーコインに、ウェイル自身が興味を持っていたのだ。

 だからこの依頼は、むしろありがたいほどだった。例えどんな事件が待っていようとだ。


「この硬貨の案件、俺はプロ鑑定士として最後まで責任を持つ。だから共に行かせてくれ」

「ウェイルさん……。承知しました。出発は早い方がいい。明日の朝早く、マリアステル駅でお待ちしております」

「判ったよ。フレス、お前はどうする?」

「勿論行くに決まってるよ。気になることもあるしさ」

「決定ですね。それではお二人とも、明日からよろしくお願いします」


 そう告げると、ルーフィエは帰って行った。


「行先はラインレピアかぁ。なんだかラインレピアに縁があるね」

「……だな」


 しかしまさか次の行先が、ラインレピアになるとは思いもしなかった。


「まあ何事も起きないことを祈るしかないか」

「どうだろうね。ウェイルってば巻き込まれ体質なところあるから。多分また何か起こるよ? ここまで妙な偶然が重なってるしさ」

「そんな不吉なこと言うなよ」


(しかし、ある意味ではチャンスか)


 イルアリルマの言っていた奴隷オークション、その元凶であるメルソークのことが、今はかなり気になるし、『異端児』という厄介材料もある。

 まとめて片をつけるならば、一石二鳥と考えられなくもない。


「ささ、ウェイル、早く準備しようよ! ボク、お弁当作っちゃうよ!」

「……お前は楽しそうで羨ましいよ」

「楽しみなのは楽しみだよ。だってお祭りだもん! ……でもね、同時に不安だってあるんだよ。だってさ、メルソークだって『異端児』だって、結局はあれが狙いだと思うもん。嫌な予感がするよ」

「ああ。俺だってそれが気がかりだ。――『三種の神器』が、また絡んでくるのだろうか……?」

「嫌な予感が当たっちゃったらね」


 二人の不安は、結局のところ、これに集約する。


 カラーコインを巡る旅。

 それは必然とでも言うかのようにアムステリア達や『異端児』、そしてメルソークのいるであろう運河都市『ラインレピア』へと、二人を向かわせることになり、そして――。



「でも、お祭りは楽しむよ! ウェイル! 早く準備してよ!」

「お前も手伝えよ。それと俺の部屋のドアを直すの手伝ってくれ……」


 ――二人の嫌な予感は、またしても的中することになったのだった。


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