集中祝福週間
「ウェイルさん。申し訳ないが、先に依頼したいことがありましてな」
「ん? 依頼?」
何とも神妙な顔のルーフィエ氏。
勝手な予測ではあるが、なんだかまた事件に巻き込まれそうな予感がする。
しかし彼は大切な依頼人だ。無下にする訳にもいかない。
「何かあったのか?」
「ええ、実は今日来たのも、本当はこちらの要件がメインでしてな。おまけで頼んでいたカラーコインの鑑定話で大変盛り上がってしまいましたが、この依頼を聞いてもらわねば帰るに帰れませぬ」
「そうだったのか」
ルーフィエには別の依頼があるという。
頼み方の語尾が少しばかり息巻いているところを見るに、結構重要な依頼なのかも知れない。
ますます雲行きが怪しくなってきた。
「それで、依頼とは?」
「今のカラーコインの話にも関係がある話です」
ルーフィエは一通の手紙、もとい招待状を取り出して、ウェイルに手渡した。
「公開博覧会開催についてのご案内……? 何かイベントでもあるのか?」
手紙をじっくり読んでみると、それは運河都市『ラインレピア』からの手紙だと気が付く。
「ええ。今ラインレピアは毎年恒例の集中祝福週間でして」
「あ、もうそんな時期か!?」
「ねぇねぇ、ウェイル。なんなの、そのなんとか週間って」
「集中祝週間だ。これはだな――」
――集中祝福週間。
運河都市『ラインレピア』にて、毎年この時期に開催されているイベント期間のことだ。
ラインレピアのシンボルとも言える、五つの時計塔が完成したのが、およそ今から二百年程前だと言われている。
最初は時計塔の完成式を祝って、都市の至る所でお祭りが開催され、大いに盛り上がったという。
祭りは三日三晩どころか一週間も続き、完成したばかりの時計塔を見物しに膨大な数の観光客が訪れて、お金をたんまり落としていったものだから、その年ラインレピアは空前の好景気に見舞われた。
最初の祭り以降、ラインレピアではその祭りを毎年開催しようという風潮が高まり、翌年から時計塔完成記念日と、その前後三日間の一週間を、祝福週間と名付けて、祭りを開催することにした。
そこに集中と銘がつくのは、この祝福週間に便乗して、これまた多くのイベントが開催されるようになったので、全てをひっくるめて集中祝福週間と名付けたのだ。
「お祭りがあるの!? 今から一週間も!? 行きたい!!」
「いえ、確か今日は集中祝福週間の二日目のはずですから残りは五日ですね」
「ええーー!? 後五日しかないの!? 今から行くとしたら四日くらいしか遊べないじゃん!?」
お祭りごとに目のないフレスはというと、最初から参加できなかったことに、判りやすく落胆していた。
「うう……、ボク、もっと遊びたかったのに……」
(お前、さっきまで人格が変わってただろうに……)
龍の人格のフレスが、お祭りではしゃぎ回る姿など想像できない。
落ち込むフレスを棚上げして、ひとまず話を戻す。
「それで、祝福週間にお目当てのイベントがあると。それがこの招待状だな?」
「その通りです。実は明々後日より、ラインレピアでアレクアテナ大陸中の硬貨を集めた博覧会、『アレクアテナ・コイン・ヒストリー』というイベントが行われるのです。貴重な硬貨の販売もやっておりまして、私は是非とも参加しようと思っていまして」
「そんなイベントが開催されるのか。そりゃルーフィエさんから言わせれば天国みたいなイベントだな」
「左様。このイベントは二年に一度ありまして、私は毎回参加している常連なわけですが、今回はなんと出展側にも回ることになっているのです」
「硬貨のイベントに出展、ということはまさか」
「はい。私のコレクションであるカラーコインも、主催者側から展示をお願いされたのです。マニアの間では私の持つ硬貨は有名でして。中でもカラーコインとテスト発行しかされなかった幻のカラドナ硬貨を是非展示してくれと依頼が殺到しているのです。ですのでこの度のイベントを利用して出展を決めました」
ルーフィエのコレクションは、確かに他の追随を許さぬほどの希少価値のある硬貨ばかりだ。
マニア連中がこぞって見たがると言うのも自然なこと。
コレクターは、自分の品を他人に自慢することが何よりも好きだ。
だからこそ、ルーフィエもこの主催者側の提案に乗ったのかも知れない。
「お願いってのは、カラーコインを警備してくれということか?」
「ええ。お察しが良くて助かりますよ。なにせ今年は変なタレ込みがあったものでして」
「何の情報を聞いたんだ?」
「ウェイルさん。『秘密結社メルソーク』という連中をご存知ですかな……?」
秘密結社メルソーク。
その名がルーフィエの口から漏れ出た瞬間、ウェイルとフレスの時が止まった。




