足りない音階
カラーコインが神器であると判明した後、三人はこれまで出来なかった様々なことを試してみた。
所持者のルーフィエ氏が、ウェイル達が遠慮していた硬貨を傷つける可能性のある鑑定方法について、快く了承してくれたからだ。
ルーフィエ氏としても、この硬貨がサウンドコインと判った段階で、ある程度の解析をしたいと申し出てくれていた。
フレスお得意の水を用いた鑑定から、魔力回路を覗き見たり、実際に少量の魔力を流してみたりと、フレスの魔力を総動員して鑑定を行った。
「……うん。やっぱりこれは神器だ。魔力抵抗も魔力反応もあるし、間違いないよ」
魔力を硬貨に流してみると、やはり多少の魔力反応が起きて輝いていた。
内部で何らかの作用が働いているに違いない。
「それで、その魔力回路の使用用途は判ったのか?」
「ううん、全然。でもね、判ったこともあるよ」
フレスは手に持ったコインを机に置いて、それぞれのコインを並べ始める。
「想定通り、これ一つ一つは大きな魔力回路の一部だね」
「さっき言ってたことが証明されたわけだな。大きな魔力回路を、バラバラに分解したのがこいつというわけか?」
「う~ん、分解ってのは少し違うかな。どちらかというと、これは鍵みたいなものかな。何か別の神器に、この硬貨を入れて魔力回路を完成させ、能力を発動するタイプの神器だと思う。後ね、ここにある硬貨だけじゃ完成しない」
ここにあるカラーコインは全部で七枚。
フレスはそれだけでは足りないと話す。
魔力回路の構造を見ればフレスには判る事かも知れないが、実の所フレスはこの魔力回路の鑑定の前から数が足りないと、そう言っていた。
「……フレス、さっきルーフィエさんも訊ねていたが、これがどうして八枚あると思ったんだ? お前、これを鑑定する前からそんなこと言ってただろ?」
「それはね。これがサウンドコインだからだよ。サウンドコインってのは、多分八枚で一セットなんだ。コインはそれぞれ、音階の『ド』『レ』『ミ』『ファ』『ソ』『ラ』『シ』『ド』と対になってる」
フレスは黄のコインを投げてみる。
鳴ったのは少しばかり低い音。
音感のないウェイルには、何を示す音か判らない。
「これが『レ』の音だね」
「フレス、お前、もしかして絶対音感とか持っているのか?」
フレスは龍だ。人間には聞こえない周波の音を聞くことが出来るのかも知れない。
「ボク、多少だけど音感あるみたいなんだ。ライラに鍛えてもらったからかなぁ?」
「ああ、ライラは音楽家なんだっけ?」
「うん」
ライラの名前が出るということは、フレスには本当に音が判っていて、それも自信があるということだ。
「七枚ってことは一枚足りないんだよな。どの音がないんだ?」
「何度聞いても『ラ』の音がないんだよ。どこにあるんだろう?」
「さあな。フェルタリアにでも行けばあるのかも知れん」
赤い硬貨をしげしげと見てみる。
やはり描かれている文字は、文献の通り旧フェルタリアの文字。
この硬貨の製造元は、やはり古代のフェルタリアなのだろうか。
その可能性は非常に高い。
「赤と黄色、そして黒には方角と詩が書かれてあったんだよな……」
以前シルヴァンで調べた硬貨に書かれた詩の意味。
――ド 赤 北 『時代の覇者は放たれる』
――レ 黄 南 『黄金の鍵は龍の手なり』
――ド 黒 西 『終焉は王の手によって』
「う~ん。聞いたことがあるような、無いような」
「お前そればっかりだな」
時間の関係で解読できたのは、この三つだけであったが、おそらく他の硬貨にも詩が書かれてあったに違いない。
ルーフィエ氏の鑑定延長の許可も出ることだろうし、残りの詩の解読も進めるべきだろう。
もっとも全ての硬貨の詩を解読したところで、どんな意味があるのかは不明。
今度は詩について、更なる鑑定が必要だ。
時間は途方もなく掛かるかも知れない。
「このサウンドコイン、一体何のために作られたんだろうなぁ」
「そこらへんはボクにもさっぱりだよ。でも、これが何かの神器のパーツである以上、何か元の神器があるんだよねぇ。そしてこのパーツは、やっぱりその神器の一部なんだよねぇ」
「……そりゃそうだろ」
考え過ぎて少し疲れたのか、フレスも言っていることが無茶苦茶になりつつある。
「三種の神器に関係してるのかなぁ……」
「……ん? ……そういえば」
疲れたーと、思いっきり背伸びして、ソファーにもたれ掛りながら言ったフレスの一言に、ウェイルもあることを思い出した。
「三種の神器、か。そういえばテメレイアが資料をくれたんだったな」
テメレイアが別れ際に残してくれた、三種の神器に関する資料。
それを見れば、何らかのヒントを得ることが出来るかも知れない。
「確かスフィアバンクの貸金庫内に入れたとか言ってたぞ。行ってみるか?」
「あ、いいね! ボク、久々にのんびり汽車の旅がしたいかも!」
「だな。俺もしばらく忙しかったし、スフィアバンクまでノンビリするのもいいかもな。よし、行こう」
「うん! ボク、早速旅行の準備するよ!」
ここしばらく教会戦争に巻き込まれ、二人は休暇という休暇を取っていない。
たまにはバカンスを兼ねて、のんびり旅行するのも悪くはない。
「ちょ、ちょっといいですかな?」
そうしようと、話がまとまったところで、依頼者であるルーフィエが話に割って入ってきた。




