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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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フレスの仮説

「いやぁ、何が何だかさっぱり判りませんが、良かったですねぇ。見ているこっちも感動いたしました」

「は、はは……」

「は、恥ずかしいねぇ……」


 ルーフィエがそこにいることなどお構いなしに、嬉しさ爆発で抱擁を交わした二人に待っていたのは、なんとも恥ずかしくて気まずい空気であった。

 見ていたルーフィエは、事情が分からず完全に置いてけぼり状態ではあったものの、なんとなく空気を察して祝福してくれたので、さらに恥ずかしさは加速する。


「フ、フレス!? そういえば何を思い出したんだ!?」

「じ、実はねぇ!」


 ルーフィエの生暖かい視線に耐えきれず、無理やり話を元に戻そうとするが、緊張感からか声が少々上ずってしまう。

 しかし、フレスの次の台詞は、ウェイルは元の真剣な表情に戻すのに十分なインパクトがあった。


「このカラーコインの正体、それは――神器だよ」

「神器……!?」

「うん。間違いないよ」


 普通の硬貨だと思っていたこいつ正体を、フレスは神器だと断言した。


「この硬貨が神器ですか!?」

「とても信じられん……」

「こらー、可愛い弟子の言うことは信じなさい!」

「自分で言うなよ……」


 ぷんぷん怒るフレスのことはとりあえず棚上げするとして、ウェイルとルーフィエは思わず顔を見合わせた。

 見た目も触った感じからも記念硬貨にしか思えないし、まさか神器だとは想像すらしていなかった。


「神器なら多少なりとも魔力を感じると思うが、これからは一切感じないぞ?」

「うん。だからボクもこれが神器だと見抜くのに時間が掛かっちゃったんだ。これはね、大きな魔力回路の一部分なんだよ。これ単体では何の意味もなさない。パズルのピースみたいな感じかな」

「パズルのピースか。なら他の硬貨も?」

「多分そうだよ。この硬貨自体に魔力を発生させる機構はついていないから、外部から魔力を流して、流した魔力を制御する類のものだと思う」

「……なるほどな」


 すなわち判りやすく例えるなら、電源の付いていない電気回路の一部分であるとフレスは言いたいわけだ。


「そしてこの硬貨は、おそらく合計八枚存在するはずなんだ!」

「八枚か。ここにあるのは……七枚」


 机の上に並べられたカラーコインは赤、黄、緑、青、紫、白、黒の色を持つ、合計七枚。


「一枚足りないのか……!?」

「しかし、どうして八枚だと判るのですか? もし仮に硬貨の色を、虹に照らし合わせても、色は違えど七色でしょうし」

「この色の意味はよく判らない。でも、これで判るはずだよ」


 フレスはおもむろに硬貨を三枚程掴むと、先程フレスベルグが手を滑らせた時と同じ様に、机の上へポイッと投げた。


「な、何してるんだ、フレス!? 大事な芸術品なんだぞ!?」

「黙って見てて。いや、聞いててよ」

 

 ウェイルが机の落ちる前に拾おうと手を伸ばすも、その動きをフレスが制した。


「ボクはこの音に聞き覚えがある。だから、びっくりして目が覚めちゃった」


 ――……キン……ッ!


 さっきと同様、硬貨は音を立てて机の上に落ちる。


「判った?」

「……な、なんのことだ……!?」

「もう、今のすっごいヒントだったんだけど!」


 フレスはこれだけで十分だと言う。

 だが、ウェイルとルーフィエには、今のフレスの行動の意味が理解できなかった。


「フレス。単刀直入に答えてくれ。お前には何が判ったんだ?」

「答えはね……――音だよ」


 落ちたコインを見つめながら、フレスはポツリと解答を述べた。


「……音?」

「うん。もう一度聞いて」


 今度は七枚全てを持って、机の上に放り投げた。


 ――……キン……ッ!


 ――……カン……ッ!


 ――……コン……ッ!


「音が、違う……!?」

「判ったでしょ?」

「あ、ああ」


 そう、フレスが言いたかったのはこれだ。

 落下した七枚の硬貨は、それぞれ落とした時に響いた音が、どこか聞き覚えのある音階を示していたのだ。


「ねぇ、ウェイル、おかしいと思わない? このカラーコインって、確かボクらが調べた結果によると、重さは同じで、しかも材質も同じだったよね」

「……その通りだ」


 長いこと借り受けていた間、ウェイル達は何もしていなかったわけじゃない。

 様々な鑑定法を試して、この硬貨に関する基本的なスペックは、あらかた判明させていた。

 その結果、材質は真銀(ミスリル)

 質量、密度、直径から電気抵抗まで、誤差は一万分の一程度にしか現れず、十分無視できる範囲だと断定していた。


「全く同じに作られて、音だって同じになるはずだよね。それでも違うってことは、その原因は二つしか考えられない。その一つは表面の塗料が影響しているかどうかだよ」


 鑑定の結果、唯一違うとウェイル達が仮説を唱えていたのは表面の色、つまりは塗料のことだが、これについてはまだまだ考察の余地がある。

 何せ、この硬貨の塗料が何で出来ているのか、未だに解明できていないからだ。


「だが、塗料を塗るだけでここまで音が変わるとも考えにくい」

「だよね。だから原因はもう一つの方かも知れない。それはこの表面の模様。これが音を変える原因かも知れない」


 さらに言えば、この模様はただの模様ではなく、内部の魔力回路の一部を外に書き込んだものだと、フレスはもっともらしい仮説を立てた。


「なるほど。この描かれている文字や模様は、音階を変えるために掘られた模様、もとい魔力回路だったというわけか」

「仮説だけどね。でもこの模様や内部の魔力回路を考えればこの仮説で間違いないと思う。それでルーフィエさん、ボクは思うんだけど、貴方くらいのコレクターならこういう特徴を持つ硬貨に心当たりがあるんじゃないの?」

「音を楽しむための硬貨、ですか……」


 ルーフィエはしばらく、手を口元に添えて固まって、何やら思い出していた。


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