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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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『セルク・ブログ』

「わーい、オークション、オークション! やっほーい!」

「わーいわーい!」

「オークションホールもひろーい! やっほーーい!!」

「やっほーーーい!!」


 揃って奇抜な格好をしているフロリア(メイド服)スメラギ(ゴスロリ)は、周囲の奇異な視線など物ともせず、ルシカ達の溜息なんてお構いなしに騒いでいた。

 フロリアとスメラギは、ずっと昔から仲が良い。

 互いに精神年齢が幼い部分があるという共通点もさることながら、メイド服にゴスロリといった多少マニアックなファッションが好きだということもあり、昔からよく一緒にいる。


「二人共、周りに迷惑ですから止めてください!」


 こうして子供のようにはしゃぐ二人を抑えるのが、ルシカのいつもの役目でもある。


「えー、だってー!」

「フロリアとは久々に会えたんだから……!」

「だからって騒ぐの禁止! 今から大事なオークションなんだから!!」


 あれから何だかんだで時間が経ち、目的のオークションの開始三十分前となった。

 13番オークションは、本日の目玉商品が勢ぞろいということもあって、オークション会場は多くの人で人で賑わっていた。


「そういえばルシカよ。俺は今回のオークションについて、一体何を競り落とすのか知らないんだが」

「あれ? ダンケルクさんには伝えていませんでしたっけ?」

「ダンケルクだけじゃない。私もだ」


 アノエも自分もだと手を上げて、それに続くようにスメラギと、そしてリーダーも手を上げる。


「あれ? フロリアは知っているんですか?」

「うん。……と言ってもイドゥから直接聞いたわけじゃなくて、出品予定リストから多分これだろうなぁ的な感じで分かっただけだけどねぇ」

「確かに貴方なら出品リストを見たらピンと来るかも知れませんけど。何せ貴方が大好きな()()に関わるものですもんね」

「ねぇ、()()って何のこと? 僕、何が目的か知らないんだけど?」

「え!? なんでリーダーが知らないんですか!?」

「だって仕方ないじゃない。イドゥの奴ったら、口が堅いんだもの」

「いやいや、リーダーには伝えたと思いますよ!? というかイドゥさんが私に教えてくれた時、リーダーは隣にいたじゃないですか!?」

「そ、そうだったっけ?」

「そうです! 全くもう、何でこんな大切なことを忘れてるんですか……。ハァ……」


 本日何回目の嘆息であろうか。


「溜息しすぎると幸せが逃げるって言うよ?」

「それをさせたリーダーには言われたくないですよ!?」 

「……ルシカ、お前って本当に大変なんだな」

「そう思うんだったらダンケルクさんも私の立場、半分やりますか?」

「断っておく。このバカ共の面倒を見始めたら、俺の仕事もままならん。そんな仕事をする奴は超が付くほどのお人好しで、そして愚か者だ」

「その仕事をしている張本人の前で、よくそこまで言えますね!?」


 とはいえ、全く話を聞く気のない周囲に、流石のダンケルクもルシカを不憫に思ったのか、助け舟を出した。


「お前ら、少しは黙ってルシカの話を聞け。さぁルシカ、教えてくれ」

「判りましたよ……」


 先程買ったパンフレットの13番ホールのページを開いて、皆に見せる。


「イドゥさんの狙いはこれなんですよ」←ルシカ

「これは……!」←アノエ

「うっひょー! リストを見た時は信じられなかったけど、本当にあるー!! というかこれ、実は贋作だったりして」←フロリア

「贋作士が贋作を掴まされるなんてお間抜け、したくはないな……」←ダンケルク

「大丈夫です。これを鑑定したのは、今は亡きルミエール美術館の館長、シルグル氏みたいですから」←ルシカ

「あの人、まだ生きてるけどねぇ」←フロリア


 皆が注目し、そして疑うような反応を見せたのも無理はない。

 何せそのページには――『セルクの日記(セルク・ブログ)』が掲載されてあったからだ。


「『セルク・ブログ』? るーしゃ、何、これ」

「いちいち俺に聞くな、そこに書いてあるだろうが」

「これはですね。セルクが書いた日記なんです。そのままですけど」


 ――『セルクの日記(セルク・ブログ)』。


 名の通り、セルクが生前書いていた日記のことである。

 実のところ、セルクの日記の原本は、このオークションに持ち込まれた品を含めて、全11巻存在することが分かっている。

 日記の内容は、セルクが絵画を書くのを止めた、死ぬ前の五年間の出来事である。

 11巻中、9巻はプロ鑑定士協会に保管されており、今回の品は、残りの2巻の内の一つと言うことになる。

 プロ鑑定士協会が保管している日記には、最後の巻がない。

 すなわち今回の日記は、セルクの残した最後の日記という可能性が高い。

 当時の遺族の話によると、セルクは死ぬ二日前まで、この日記を書き続けたと言う。

 その内容は、大きく分けて二つのパートに分かれている。


 一つ目は文章パート。


 実のところセルクの日記は、普通の日記とは全く違う形式で書かれている。

 セルクは日記の全てを詩のような形式で書いているのだ。

 その為、何とも抽象的な表現が多いと言う。

 また、全ての日記が同じ言語で書かれていたわけではない。

 その日の気分によるのか、様々な言語が規則性なく使われているのだ。

 その言語の中には現代では用いられていない文字もあり、『セルク・ブログ』の完全解析には、まだまだ時間が掛かるとのこと。


 二つ目はイラストパート。


 セルクは画家だ。

 日記に描かれたイラストは、見る者を圧倒させるほどのハイレベルな作品だったりする。

 ラフ絵や落書きであるのに、人をここまで感動させるのは、流石はセルクと言ったところ。

 しかし、そのイラストの内容があまりにも突拍子もないことばかりなのだ。

 例えば、セルクは特定の教会に所属していなかったのにも関わらず、この日記には様々な教会の神的存在を、念密にイラストとして描いている。

 時には龍の姿も描いたページもあるそうだ。

 あまりにも意味不明な内容は、現代まで鑑定士達を大いに悩ませ、さながらインペリアル手稿だと称された。

 一部の鑑定士は、セルクとインペリアルには何かしらの縁があり、二人して暗号文を作成したのではとも考えているほどだ。

 このアレクアテナ大陸の歴史的に見ても、このセルクの日記には大いに価値のあるものであると考えていい。


「買えるの? めっちゃお金いるよ?」

「もちろん、買えない」


 だよねーと、リーダーも笑う。


「最低落札価格が五千万ハクロアだってさ! ハハハ、こりゃ無理無理!」←リーダー

「なら俺達は何しに来たんだよ。ただオークションの成り行きを見守るためだけに来たってか? 馬鹿らしい」←ルシャブテ

「それだけならわざわざ召集なんか掛けませんよ、ルーシャさん?」←ルシカ

「なんでテメェがその呼び名を使ってるんだ。殺すぞ?」←ルシャブテ

「まあまあルシャブテ、そうカッカしなさんなってば。ルシカが可哀そうでしょ? ただでさえ普段から可哀そうなのに」←リーダー

「……それもそうだな。ルシカは可哀そうな女だった。すまんルシカ。可哀そうなお前に、強い言葉で辛辣にしてしまった。謝る」←ルシャブテ

「可哀そう可哀そうって、連呼しないでください!! ルシャブテ、今わざと言ったしょ!?」←ルシカ

「間違いない。るーしゃ、自分から謝らない、ワガママな子。私が一生面倒みてあげないと」←スメラギ

「お前に一生面倒みられるなって真っ平御免だ」←ルシャブテ


 いちいち話が逸れる度に、周囲から奇異の視線を向けられるこの連中であった。


 ――オークション開始二十分前。


「そろそろ、頃合いですかね」


 スッとルシカは立ち上がる。そして皆にこう告げた。


「私達『異端児(イレギュラー)』がこれから行う作戦の全容を明かしましょう」

「え!? このタイミング!? いきなり過ぎない!? もうオークションが始まっちゃうよ!?」

「作戦開始ギリギリまで、情報は伏せておけとイドゥさんに言われてまして」

「……イドゥの言うことも一理あるな……」


 ダンケルクが皆を見回す。

 確かに、うっかり口から漏れそうな奴ばかりであった。


「そんなわけでよく聞いて下さいね。どこに敵の耳があるか判らないので、一度しか言いませんから」


 ルシカは簡潔に、そしてこのラインレピアで行う全ての作戦について、ここにいるメンバーへ話した。


「へー、なんだか、面白そう」←スメラギ

「大量に人を斬れそうだ。新しい剣、買っておこう」←アノエ

「イドゥの奴、難しいことをさも簡単に言ってくれる……」←ダンケルク

「楽しければ何でもいいや」←リーダー


 各々思うことはあるだろうが、今はとにかく目先の作戦だ。

 ルシカは手をパンと景気よく叩くと、不敵な笑みを浮かべて皆の顔を見回した。


「さて、『セルク・ブログ』を頂戴しに参りましょうか!」


 『異端児(イレギュラー)』達の行動が今、始まる。


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