噂をすればなんとやら
「ウェイルよ、我々は本当に行かなくていいのか?」
話を終えて部屋から出て行った二人を見送りながら、フレスベルグが少し不安げな顔で聞いてくる。
イルアリルマを試す様にあんなことを訊ねたフレスである、なんだかんだで心配しているようだ。
「行きたいのは山々なんだがな……。本当に仕事が溜まっているんだよ。鑑定依頼に関しては協会内に届けられた依頼品を鑑定するだけいいだけなんだが、問題はこいつでな」
金庫から取り出して机に並べたのは、七枚の色鮮やかな硬貨。
赤、黄、緑、紫、青、白、黒の七枚だった。
「カラーコインだっけか」
「こいつの正体をシルヴァンで掴みかけた途中でアルカディアル教会の事件が起きやがったからな。いい加減ケリをつけないとルーフィエ氏に申し訳ない」
「この正体なぁ……。我はどこかで見たことがあるはずなんだが……」
「そういえば以前にもそんなこと言ってたな」
人格が『フレス』の時にも同じことを言っていた。
記憶は共有しているのだから当然と言えば当然だが、此方のフレスベルグの方であれば、何か思い出せるかも知れない。
「どこで見たんだ?」
「簡単に思い出せれば苦労はせん。何せ我は何度も封印されたり解放されたりで、そのせいで結構記憶が曖昧になっていてな」
「ということは俺に解放される前の段階か。お前、以前はフェルタリアで解放されたと言ってたな」
「そうなんだが……、ううむ……」
フレスが腕を組んで、うんうん唸っている中。
「失礼します。ウェイル殿、貴方に――ってなんですかこれは!?」
ニーズヘッグにふっ飛ばされて、もはや扉としての役割を成していない扉を開けて、事務伝達員が入ってきた。
「あ、あの、ウェイル殿。どうして貴方の部屋の扉は毎回毎回こんなことに……?」
「俺のせいじゃないぞ……」
「……何度も修理する方の身にもなってください。結構大変なんですからね」
「あ、ああ。悪い……」
「ほんと、お願いしますよ」
最近この部屋の扉はよく破損する。
その修理作業を毎度毎度してくれる事務員達も大変だなと、つい同情してしまう。
……そろそろ彼らからの冷たい視線が痛い。
「それで何か業務連絡か?」
「あ、はい。実はウェイル殿に会いたいというものがロビーに来ておりまして」
(はて、誰かと会う約束なんてしていたか……?)
頭の中の手帳をめくって思い返すも、そんな予定はない。
「誰だ?」
「依頼人のルーフィエといえば判ると」
「ルーフィエ氏が!?」
まさかまるで測ったようなタイミングで、カラーコインの依頼主が現れるとは思いもしなかった。
つい声が裏返ってしまう。
「ああ、判った。すぐに会いに行くと伝えてくれ」
「了解しました」
今日は何とも噂をすればその人物が現れる日である。
「フレス、お前も来るか?」
「無論だ。カラーコインを見続けていれば、記憶にたどり着けるかも知れぬ」
「だな」
唐突に来訪した、カラーコインの依頼人ルーフィエ。
彼がこれからする依頼は、ウェイル達を事件の渦中へと向かわせるものであった。




