警鐘とヒント
「あらら、丁度好いタイミングだったってわけね。リル、私も手伝うわ」
そんなイルアリルマの気迫を気に入ったのか、アムステリアはイルアリルマの手の上に、そっと手を重ねた。
「いいのですか?」
「乗りかかった船よ。ルーテルストンの事件で消化不良なところもあるしね。私がいれば、誰が相手でも楽勝でしょ? それが例え糞生意気なロリっ子鑑定士でもね」
「フン。小娘が言ってくれるわ」
「いつもと立場が逆転しちゃってて、少し笑えるわね。でも今の貴方になら、そう言われても嫌な気はしないけど」
「アムステリア、リルを頼むよ」
「ええ。可愛い後輩鑑定士ですもの。優しく厳しく鍛えてあげるわ」
もしイルアリルマが単身一人で、奴隷オークションを止めるというのであれば、ウェイルは迷わず反対していた。
以前イルアリルマと約束したことがある。
前線に出るのはウェイル達、イルアリルマは後方で支援をしてくれと。
――だがアムステリアがいるなら話は別だ。
彼女はウェイルの知る限り、誰よりも強い鑑定士だ。
精神的な面も考慮すればフレスすらも凌駕するかも知れない。
アムステリアなら、きっとイルアリルマを守ってくれる。
(……優しいからな、アムステリアは)
恥ずかしくて面と向かって本人には言えないけれど、そう思っている。
「二人共、気をつけろよ」
「それ、私にも言ってんの? 大丈夫に決まってるじゃない。いらない心配よ」
「そうだな」
「でも愛する妻のために夫が心配するのは当たり前のことだし、ウェイルが心配するのも仕方ないわね」
「その言い回し、なんだかステイリィに似てるんだが」
「なっ――、あの馬鹿娘と同じ発想をしてしまうなんて……!! ショックかも……」
変に落ち込むアムステリアは棚上げするとして、二人の次の行先が明確になったわけだ。
二人はすぐに目的地へと向かうだろうし、しばらくは帰ってこないだろう。
「ウェイルも来る?」
「いや、悪いが今は行けないんだ。仕事が山積みになっていてな。奴隷オークションと聞いては黙ってはいられないんだが、少し鑑定業務を休み過ぎたよ」
ウェイルとしても同行したい気持ちは強い。
『異端児』が気になるし、奴隷オークションは許せない。
だが、それに関わる前にやらねばならないことが山のように積み重なっているのも事実。
「何があるの?」
「最近のごたごたで鑑定依頼が溜まりに溜まっているんだ」
ここしばらくの間、アルカディアル教会絡みの事件やフレスの看病ばかりしていた故に、その間の仕事を一切こなしていなかったのである。
小さな仕事は全て断ってくれとサグマールに依頼していたものの、それでもウェイルの元へやってくる鑑定依頼は多い。
それに、そろそろカラーコインの鑑定にも結論を出したい。
依頼者のルーフィエ氏には、随分長い間待たせてしまっている。
「『異端児』にも奴隷オークションも気にはなるが、仕事の方も再開しないとな。それに今はこいつのこともある」
ポンッと、フレスの頭に手を置く。
こいつをどうにかしないと、下手に動けないというのも事実である。
「ええい、手を放せ。それとフレスを心配する必要はないとずっと言っておるだろうに」
「そうはいかないんだよ。俺はフレスの師匠なんだから」
「では我のことはどう思っておる? 我もお前の弟子か?」
「当然だ。今更聞くな。俺とお前の仲だろう? お前の認識では違っているのか?」
「……いや、違っていない。我もウェイルの弟子だ」
「なら頭を撫でるくらいいいだろ?」
「……ウムム。ならば仕方ないか……?」
微妙に納得しきれないような表情で、頭をナデナデされているフレスベルグであった。
「つまらない夫婦漫才は結構よ。私達はもう行くわ」
「夫婦じゃないっての。そういうことで俺達はもうしばらくマリアステルにいるよ。何かあったら電信で伝えてくれ」
「分かったわ。何かあればすぐに連絡する。そっちこそ何か面白い情報を掴んだらお願いね」
「ああ、ラインレピアの治安局に電信を送る。定期的に確認しに行ってくれ」
話も終わりだということで、アムステリアとイルアリルマの二人は荷物をまとめ始めた。
「この『セルク・ラグナロク』はどうするの? 贋作なわけだし、処分する?」
「いや、わざわざフロリアが持ってきたんだ。贋作士がわざわざ贋作を、贋作だと言って持って来たんだ。何かあるのかも知れないから、ここに置いておくよ」
「そうね。わざわざ持って来たんですもんね……」
そこに大きな謎でもある。
結局のところフロリアはこれを持って来た本当の理由を喋らなかったし、二人も特に聞くつもりはなかった。どうせ話す気などさらさらないのだろうから。
それでもフロリアは親切だと思う。
フロリアが最初に言った『警鐘とヒント』という意味を考えれば、自ずとこの絵画で伝えたいことが判ってくる。
――フロリアは暗にこう言いたいのだ。
『セルク・ラグナロク』に、大きなヒントがあるのだと。
そして最後にわざとらしく言った、次の目的地。
フロリアを信頼するのであれば、これは警鐘。
導き出される結論は簡潔だ。
――『異端児』のメンバーは、ラインレピアに集結し、何かをやらかすつもりなのだ。
「行くわよ、リル。ウェイルも、もし来れそうなら来てみたら?」
「ああ。仕事が一段落ついたらな」
こうしてアムステリアとイルアリルマは、奴隷オークションの捜査の為に、ラインレピアへと赴くのであった。




