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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 前編『水の都と秘密結社』
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人格が変わった理由

「もぐもぐもぐもぐ……。ううむ、イケるな! 小娘の姿で食う飯もまた格別だ」

「そうかい……」


 空っぽになった財布を片手に、ウェイルはゲンナリとした表情で、肉や魚をこれでもかと頬張る弟子の姿を見る。

 見た目はいつもと変わらぬフレス。見た目どころか行動まであまり変わらない。

 だが根本的に違うことが一つだけあった。


「ウェイル、貴様も食わんか。我の肉を少し分けてやろう。ありがたく思え」

「……俺が買った肉だろうに。フレスに比べて厚かましすぎるぞ、お前」

「フレスはフレス。我は我だ」


 ――それは人格である。


 ……いや、フレスは龍だから龍格とでも言うべきか。


 フレスは変身して龍の姿『フレスベルグ』になると、人格が変わる。

 それが何故かは判らなかったし、考えてみればフレスに問いただしたこともない。それが自然だと思っていた。

 いつも少女の姿に戻れば、素直で天然なフレスに戻っていたからだ。


「ふぅー、食べた食べた。我は満足だ」

「食い過ぎだバカ。フレスだってこんなには食べて――……いたな」


 どちらの人格であっても、食事に関しては遠慮はないようである。


「だからウェイルよ。我とフレスの違いは人格だけだ。後は同じだと何度も言ってだろう。つまり胃袋の大きさも同じだ」

「……信じられないだけだよ。少女の姿のフレスが、龍の方の人格でいることに違和感があって戸惑っている」

「心配するな。いずれ元に戻る。それよりデザートはないのか?」

「もう財布の中は空っぽだっての」

「やれやれ、貧乏な師匠につくと弟子は大変だな」

「やかましい」


 食事を終えてウェイルの部屋に戻ると、そこにはテメレイアと、そしてイレイズの姿があった。

 勿論その傍らには、パートナーである龍の少女が付いている。


「フレスちゃんが目覚めたと聞いて飛んできましたよ。比喩じゃなく」

「はいはい」


 イレイズはどんな時でも、いつも通りの調子である。


「おい、ウェイル。イレイズの渾身のギャグなんだ。少しは笑ってやれよ」

「だな。イレイズならこの程度のギャグしか出来ないか」

「あの、ウェイルさん? 言葉の棘はもう少し隠していただければ嬉しいのですが。そしてサラーさん。そのフォローはなんだか私が痛いキャラみたいに聞こえませんか?」

「ようやく気が付いたか。このバカ王子め」


 フン、と腕を組むサラー。


「最近サラーが私に対して厳しくなったように思います。昔はとても素直でしたのに」

「いつ私がお前に素直になった」

「クルパーカー戦争の後、私を抱きしめてくれたではないですか」

「…………ッ!!」


 思い出すと恥ずかしかったのか、サラーは顔を真っ赤にしながら無言でポカポカとイレイズを殴っている。

 もはや夫婦漫才と化した二人のやり取りに、苦笑を浮かべるしかない。


 ――とはいえ、ウェイルとしてはありがたかった。


 ここ数日、ずっとフレスの看病をしていたのだ。気が滅入っているのも事実である。

 そして目が覚ました肝心のフレスがこの状態である。

 フレスベルグ本人が大丈夫と太鼓判を押しても、不安は未だ拭いきれていない。

 二人のおかげで幾分気が紛れた。


「イレイズ、いいのか? クルパーカーだって復興で忙しいんだろうに」

「優秀な部下達がいますからね。それにサラーがどうしてもフレスちゃんに会いたいって」

「少し様子が見たかっただけだ。ただそれだけだ」


 イレイズにこう言われると、いつもは照れているサラーだが、この度はその照れすらない。

 一応フレスの状況は二人に伝えている。

 サラーはそれを心配してきてくれたのだろう。


「フレスベルグ、どうしてお前が出てきている?」

「はぁ、それを何度我に説明させるのか。もう飽いたぞ」


 サラーのこの質問は、ウェイルが何度も問うており、今ので通算四度目になる。

 サラー自身は初めて問いかけることになるのだが、フレスベルグはうんざりだと嘆息した。


「私は今初めて尋ねたんだ。答えろ」

「ふん。サラマンドラよ、いつから我に命令できるようになった? 偉くなったものだな」

「なんだと……!?」


 その瞬間、部屋の温度はサラー側は燃えるように熱く、フレス側は凍る様に冷えていく。


「おい、ちょっと待て! 俺の部屋で何をするつもりだ!? フレス、止めろ!」

「ちょっと、サラーも落ち着きなさいって」


 二人の間にウェイルとイレイズが立つと、温度も元に戻っていく。

 だが、二人の視線のぶつけ合いは止まらない。


「フレス、いいからサラーに教えてやれ。サラーだって心配してここまで来てくれたんだ。それに俺だって詳しいことはまだ聞いてない」

「……ああ。判ったよ。お師匠殿がそこまで言うならな」


 ふぅと、フレスは今一度嘆息すると、スカートがめくれるのも気にせずに、ベッドに身を投げた後、仕方なくと言った表情で答えた。


「フレスはな。今は少し考え事をしたいんだと。だから代わりに我が出た」

「何を考えている?」

「それは教えられんな。別に答えてもいいんだが、フレスに悪い」

「それはウェイルにも言えないのか?」

「別に我としてはウェイルに話してもいいとは思うのだがな。この前『氷龍王の牙(ベルグファング)』を使ったとき、あることを思い出してな」

「『氷龍王の牙(ベルグファング)』を……?」


 ウェイルは思わずベルトに刺さった神器を見る。


「こいつについて、フレスは何を考えているんだ……?」

「ちょっとした記憶の整理さ。色々とあるんだよ、フレスにもな。いずれ全てを打ち明ける。それにフレスも近い内に元に戻る気でいる。早ければ明日にでもな。オライオンを倒した魔力の譲渡の影響は、もうない」

「そうか、ならいいんだ」

「我とて少しばかり小娘の姿で遊んでみたかった。丁度いいではないか。少々付き合ってもらうぞ」

「……そうか」


 フレスが元に戻ると聞いて、サラーもホッと胸を撫で下ろしていた。


「良かったですね、サラー。フレスちゃん、無事だったみたいです」

「ああ。良かった」


 意外にもサラーは素直だった。

 なんだかんだ言って、フレスとサラーは仲が良い。

 やっぱり、相当心配だったのだろう。


「よーし、ならばひとまず帰りましょうか。フレスちゃんの無事と、そしてミルちゃんの無事も見届けられましたし。バルバードに託すのも、そろそろ限界でしょうから」

「お前はもう少し王としての自覚が欲しいところだ」

「自覚はありますよ。ただ貴方のことを優先してしまうだけで」

「…………もういいよ」


 なんて再び夫婦漫才を繰り広げながら、ウェイル達の見送りを受けて二人は帰っていった。


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