再会
「相変わらず洒落た店が多いな」
「だね。綺麗なお店ばっかりだよ!」
マリアステルのレストランは、総じて洒落ている。
競売都市マリアステルには、アレクアテナ大陸各地から選りすぐりのインテリアが集まっており、日々競売に掛けられている。
そんなクオリティの高いインテリアで彩られたレストランばかり連なっているのため、ここは流行の最先端を調べるには持ってこいの場所となっている。
「昼時だし、どこも混雑しているな。すぐに入れそうな所がどこかにないか?」
「あ! ウェイル、あそこのレストランはどう? 他よりもちょっと空いているよ!」
フレスが指差した店は、看板に装飾の一つもなく、この華やかな競売通りには不釣合いと言えるほど、お世辞にも綺麗とは言いがたい質素なレストランであった。
「やけに小汚い店だな」
「嫌なの?」
「いや、小汚い方が俺好みだ。入れそうか?」
「列は出来てないから大丈夫かも」
「とりあえず訊いてみるか」
列こそ無かったものの、中に入ってみると、そこには意外にも多くの客で賑わっていた。
「いらっしゃいませ。レストラン『ファッティホエール』へよく来たね!」
「で、でかい……! 本当にホエールだね……」
思わずフレスがポロリと失礼な感想を漏らしてしまうほど、ぷくぷくと恰幅の良いマダムが接客に出てきた。
「席、空いてるか?」
「二名様かい? ごめんなさいねぇ、生憎空いているのは合席だけだねぇ。それでも構わないってなら案内できるよ? どうする?」
「構わないよな? フレス」
「う、うん。別にいいよ」
「その席頼む」
「はいはい、ついておいで」
ノシノシと客をかき分け道を作るマダムについていきながら、二人は顔を見合わせた。
「凄まじい迫力の接客だな」
「後ろについていったら混雑なんて関係なくなるね!」
そんな接客に案内された席は四人席で、すでに二人組みが座っていた。
一人は白髪の男、もう一人はローブで全身を包んでいて、よく判らない風体だった。
「すまないね、こっちの二人を合席させていいかい?」
「私達は構いませんよ。どうぞ、使ってください」
マダムがそう尋ねると、白髪の男が顔をあげニッコリと微笑んだ。
「――イレイズ!?」
「え……?」
ウェイルはその顔に見覚えがあった。
そして相手もウェイルに気づいたようで、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていた。
「ウェイルさんじゃないですか!? いやぁ、まさか再び会えるだなんて、なんという僥倖でしょうか」
「僥倖ってのは大げさだが、確かに凄い偶然だ」
「知り合いかい? なら丁度よかったさね」
こんなところでイレイズと再会できるとは、世間はなんと狭いことだろう。
知り合いということも有り、気兼ねなく腰を下ろすことが出来た。
「まさかマリアステルで出会えるなんてな。驚いたよ」
「本当ですね。先日はありがとうございました。今日は是非お礼をさせてくださいね」
二人はぐっと握手を交わす。
もう二度と会うことはないと思っていただけに、ウェイルも少しばかりテンションが上がってしまった。
「ねぇ、ウェイル。この人、誰なの?」
フレスがウェイルの袖をちょいちょい引っ張って、耳元で囁いた。
当然のことだが、フレスは汽車上での事件を知らない。
その時はまだ二人は出会ってもなかったのだから。
「こんにちは、お嬢さん。私の名前はイレイズと申します。以前ウェイルさんに困っていたところを助けていただきまして」
「そうなの!? さっすがボクの師匠!」
「おや? では貴方はもしかすると、ウェイルさんのお弟子さんですか?」
「うん!」
「そうなのですか。それは凄いことですよ。何せウェイルさんは若干18歳でプロ鑑定士の資格を取得した伝説の鑑定士なのです。市場ではウェイルさんの公式鑑定は他の鑑定士の公式鑑定より高く値が付くほどなのですよ」
「どうしてそのことを知っている?」
「あの後少しウェイルさんのことを調べましてね。これほど著名な鑑定士に助けていただいたなんて光栄に思いましたよ」
「うわぁ! やっぱりウェイルってすごいんだね!」
自分が伝説扱いされるというのは、なんだか変な感覚だ。
龍であるフレスはいつもこんな感覚で話を聞いていたのだろうか?
「マリアステルには競売をなされにいらっしゃったのですか?」
「いや、別件だ。協会本部に用事があってな」
「ああ、そうでした。プロの鑑定士なんですから、そりゃ本部に用があるに決まってますよね」
「そっちは競売目的か?」
「はい。商品を出品しに来ました。それと、この子に何か買ってあげようと思いまして」
「…………」
この子とは隣に座っているローブを被った小さな子のことだろう。
見たところ身長はフレスとほとんど変わらない。
「「ぐぅ~」」
どこからともなく間抜けな音が聞こえてきた。
「お腹すいたよ~、ウェイル~」
「…………!」
どうやらフレスとローブを被っている子の腹の虫が文句の大合唱をしているようだ。
ローブのせいで表情は見えなかったが、少し震えていたのでやはり恥ずかしかったのだろう。
相変わらず終始無言を貫いていたが。
「ははははは、ごめんよ。つい話に夢中になっちゃって。お腹すいたよね」
「おいおい、フレス。はしたないぞ?」
「むぅ。だってもうお腹ペコペコなんだもん」
そうこうしている内に、さっきのマダムがやってきた。
「注文はお決まりかい? うちの自慢は私の旦那が作る特製クリームシチューだよ!」
「それいいな。俺はそれを頼もう」
「私もそれでお願いします」
「フレスはどうする?」
「「――くまのまるやき!!」」
ローブを被った子とフレスの叫びが重なる。
聞いたことのない料理名に、店中の注目が集まった。
「……熊……? ……そんな馬鹿な料理があるわけないでしょ……」
シンと静かになった店内で唖然とした表情の接客がぼそりと漏らす。
そんな接客を尻目に、ウェイルとイレイズは思わず顔を見合わせた。
「「ま……まさか?」」
こっちまで言葉が重なってしまう。
「おいおい、まさかその子って……!!」
「ウェイルさん……! もしかしてそちらの子も……!!」
「「――――龍……!?」」




