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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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上機嫌なフレス

「ごめんってば、ウェイル~」


 フレスが再びうるうる涙目になりながら上目遣いで謝ってくるが、もはやそれだけではウェイルの機嫌が直ることはない。

 むしろ同じ手を食らうものかと警戒すらされる始末である。

 ウェイルとしても、これ以上服を縫うのはうんざりであった。


(……何かいい方法があるんじゃないか?)


 そう思い立った瞬間、ピンと閃く。


「そうだ。ワンピースの背中のところに、翼を通す穴を開けておけばいいんじゃないか? 我ながら素晴らしいアイデアだ」


 これなら翼が現れても破れることはない。

 実にグッドアイデアだと思ったが、なんだかフレスの表情は曇っていた。


「そ、それは……、は、恥ずかしいよ……!」


 ぎゅっとスカートを握り締め、顔を赤面させている。


「恥ずかしい? お前、さっき着替えを見られてもいいって言っていたじゃないか。それなのに背中に穴を開けるくらいで恥ずかしいのか?」

「それとこれとは別問題だよ!! ……それにボクはウェイルだから見られてもいいって……」

「何か言ったか?」


 フレスは赤かった顔を、さらにトマトのように真っ赤にしていたが、今のウェイルにはそれがフレスの作戦にしか見えなかった。


「その手には二度と引っかかるか」

「むぅ! もういいよ! とにかく恥ずかしいから嫌なの!!」

「どうして不機嫌になってんだ。どちらかというと不機嫌になるのは俺の方なんだが……」


 不満げに顔を背けたフレス。

 とはいえ何度も修復するこっちの身にもなれというものだ。


「まあ聞けよ。今、巷では背中に穴を開けるのがファッションとして流行っているんだぞ?」

「ウェイル、それ嘘でしょ」


 もちろん嘘だ。

 フレスの天然っぷりに期待して適当に話をでっちあげてみたが、簡単に見破られてしまった。

 もっとも、この程度の嘘を見破れないようでは鑑定士としては失格なのだが。

 しかしこれ以上、服を破られるのも困りものだ。


「じゃあ穴が見えないように上からローブを羽織ってろ。それならいいだろ?」

「むぅ……。そ、それでいいよ……」


 急がないと汽車はマリアステルに到着してしまう。

 ウェイルは大至急、服の修繕に取り掛かった。





 ――●○●○●○――





「どうだ?」

「うん、悪くないね!! ちょっと背中がスースーするけど」

「それくらい我慢しろ」


 汽車がマリアステルに到着する直前で、フレスの服の改良を終えることが出来た。

 穴はあまり目立たず、それでいて翼を悠々と広げることが出来る。


「うむ、我ながら素晴らしい出来だ」


 完成品の出来の良さに、思わずニヤリと唇を吊り上げるウェイル。


「……ウェイルの表情が怖いよ……」

「これでもう裁縫作業をしなくていいと思うと嬉しいんだよ」


 汽車は汽笛を上げながらホームへ入っていく。

 二人は汽車を降りると、ようやくマリアステルに到着したのだった。


「うわぁ! 人でいっぱい! お祭りでもあるの?」

「この都市はいつもこんな感じだ。今日は少し多いみたいだが」


 マリアステル駅の混雑はいつものことだ。アレクアテナ大陸で最も規模の大きい駅の一つである。

 行商や競売のためのに訪れる人だけでもかなりの人数になるし、観光客も多い。

 また彼らが売買する商品はすべて汽車によって他都市から持ち込まれ、各オークションハウスへ届けられるのだから、この駅は物流の拠点ともいえる。

 いわばここはマリアステルの心臓部なのだ。

 人の多さに慣れているウェイルからすると、この程度の混雑は気にならないが、初めてこの駅にやってきたフレスは、あまりの人の多さに目を回していた。


「は、はぐれそうだよ~」

「ならしっかり手を握ってろよ」


 そう言うと、ウェイルはフレスの手をぐっと握る。


「――……あっ」

「ん? どうかしたか?」

「いや、なんでもないよ……」


(ウェイルから手を握ってくれた!?)


 ――バサァッッ。


「おい、何翼広げてんだ!? 早く隠せ!」

「ええ!? あ、う、うん」

「どうかしたのか?」

「……いや、なんでもないよ。ただちゃんと穴から翼が出るか試しただけだよ」

「そういうのは人がいないところでやれ。で、どうだ? 結構いい感じだろ?」

「そ、そうだね……」


 ――ドキドキ。


 フレスは無意識に興奮していた。


(…………?)


 フレスは己に湧き上がる感情を整理し、一つの結論をまとめる。


(――嬉しい)


 何せウェイルから手を握ってくれたのは、これが初めてだったからだ。

 そして何より、懐かしいと感じた。

 あの楽しかったフェルタリアで過ごした日々を再現したかのような感覚。

 それフレスが未だウェイルに語っていない過去。

 すべてを思い出したわけではないが、残っている大切な思い出の記憶と、今の自分を重ね合わせて、フレスは懐かしき回想に思いを馳せていた。

 ウェイルの方はといえば、急に上機嫌になったフレスを見て不思議に思い首をかしげていた。





 ――●○●○●○――





 無事に駅前の混雑から抜け出ると、二人はこの都市の大動脈とも言える大通り『競売通りオークションストリート』に出た。

 多くの人が行き交うこの通りは、その名の通り競売(オークション)をする声が飛び交う活気あふれる通りで、この都市屈指の観光名所になっている。

 競売通りは、マリアステル駅からプロ鑑定士教会本部まで3km以上も真っ直ぐに伸びている街道であり、目を瞑って歩いても迷うことなくプロ鑑定士協会本部へと辿り着ける。


「ウェイル~、早く協会本部へ行こうよ~!! 屋上に上がって景色を見たいよ~!!」

「それもいいが、まずは腹ごしらえをしよう。お前だって腹減っただろう?」


 ――ぐぅ~。


 フレスは言葉より先に腹の虫で答えた。


「腹は正直だな。どこか食いに行こう」

「うん!」


 ウェイルはフレスの手を握ったまま、食べる場所を探し始めた。

 お腹は空いているが、心は満ち足りていたフレスであった。


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