表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
Side Episode 5 アムステリア編『愛に狂った朧月』
429/763

貧民街の浮浪姉妹

「お姉ちゃん、お腹、すいたね……」

「……うん」


 『貧困都市リグラスラム』にある、貧民の中でも、さらに貧困層が住むとされる地区『ジャンク・エリア』。

 その日口にする食料どころか水すらなく、服を着ているだけで幸せだというほどの貧困地区に、姉のアムステリアと妹のルミナステリアは、半ば行き倒れるように抱き合いながら座っていた。

 二人が最後にまともな食事をしたのは三日前。

 その後は道端で僅かに拾えた残飯や、虫やネズミなんかを取って何とか命を繋ぎとめていた。

 僅か六歳と五歳の浮浪姉妹に、救いの手を差し伸べる善人なんて、この地区にはいやしない。

 誰もが軽蔑の視線と憐みの視線、時には二人の身体が目的の下種な視線があるだけで、何かを恵んでくれる人間など皆無であった。

 キュウ、とお腹が鳴る。

 アムステリアも空腹の限界だったが、隣に座る妹の姿を見ると、なんとかしなきゃと思い、空腹にも耐えられる。

 ルミナステリアの方は憔悴が激しく、歩くのも難しい状況だった。


「ルミナス。私、何か食べ物を探してくるから」


 アムステリアが立ち上がると、ルミナステリアはアムステリアの服を掴んで、首を横に振った。


「一人で待つのは嫌だよ、お姉ちゃん。私も一緒に行く」

「でもルミナス、大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ。ほら、私元気だから」


 なんてルミナステリアは強がるが、足が震えて、上手く立てていなかった。


「いいから休んでて。私一人で十分だから、ね?」

「嫌だ! お姉ちゃんから離れたくないよ! 一人になったら、誰に何をされるか判らないもん!」


 孤児を狙う奴隷商人だって、ここには大勢いる。

 もちろんアムステリアがついていたとしても、奴隷商人達が本気になれば一人二人数が変わったところで関係はない。

 それでも、二人でいると心は強くいられる。安心していられる。

 一人の心細さ、苦しさは、アムステリアだって同様だ。


「判ったわ、ルミナス。肩貸すから、掴まって」

「ありがとう、お姉ちゃん」


 正直な話、食べ物がある分、奴隷商人に捕まった方が楽な暮らしが出来るだろう。

 でも、それだけは絶対に嫌だとアムステリアは心に決めていた。

 自分は大きくなって、自由に生きていきたい。

 今は苦しくても、我慢すれば必ずいいことはある。そう信じていた。

 ルミナステリアに肩を貸し、ゆっくりと歩いて食料を探す二人に、唐突に声が掛けられた。


「君ら、孤児だよね。どうかな。オジサンと一緒に来ないかな? 食べ物も服も、アクセサリーもあげるよ?」


 見ると少し太って頭の薄い、いやらしい笑みを浮かべる中年の男だった。

 この手の輩は見るだけで吐き気がする。

 明らかに、二人の身体が目的だろう。

 この都市では当たり前に行われている児童買春の誘いだった。

 貧しさに耐えられず、買われていく子供の数は把握出来ない程多い。

 この『ジャンク・エリア』は、そういう目的を持ってやってくる大人が後を絶たないのだ。


「要らないよ。私達は自分で食べ物を探すから」


 はっきりとアムステリアは拒絶するも、男とて簡単には引き下がらない。


「この都市に食べ物を分けてくれる人なんていないよ? 悪いようにはしないから、一緒に来なよ。そっちの妹さんも医者に連れて行かなくちゃ」

「いいから放っておいて。どうせ私達を買いたいだけでしょ」

「な、何言ってんのさ。そんなことないよ」


 そう言いつつ、男の手がルミナステリアに触れる。

 それにアムステリアは激昂した。


「ルミナスに触るな、この豚野郎!」


 男の手を払い、少しだけ距離を取る。

 すると先程までいやらしい笑みを浮かべていた男の表情が、みるみると険しいものになっていった。


「あ? 今、なんつった? このガキ」

「何度でも言ってやる! 豚野郎って言ったんだ! このハゲ!」

「ハゲ……!?」


 男にとって禁止ワードでも踏んだのか、男のこめかみには血管が浮き出ていた。


「はぁ、せっかく優しくしてもこれだからよ。大人しく股開けばいい思いさせてやったのによ。このクソ浮浪児共が……!!」


 男は腰から短剣を抜くと、アムステリアに向けた。


「手足切り刻んで、ダルマにしてから犯すってのもそそるねぇ。そうしてやろうか」

「この豚野郎! 私達は、死んでもお前のものになんかならない! お前に犯されるくらいなら舌を噛んで死んだ方がマシだ!」

「なら口を塞げばいいんだな? お前らは一生、俺の奴隷になればいいんだよ!」


 男はまだ少女である二人に、容赦なく短剣を振りかざした。


「ひっ――」


 ルミナステリアが小さく悲鳴を上げ、アムステリアも息を呑んだ、その時である。


「実に汚い。このような汚いものが、この美しい大陸にあってはならない。そうは思わないか?」


 太陽の光を反射する、一本の長槍。

 小さな二人がその矛先を目で捉えたのは、矛先が真っ赤に染まった時であった。


「うごおおおおおおおおお…………――――」


 二人を襲おうとした男は、白目を剥いて絶命していた。

 見ると周囲にはほとんど血が漏れていない。

 ただ、貫いた矛先に、人間の心臓が突き刺さっていただけ。


「お、お姉ちゃん……、私、怖いよ……!!」

「だ、大丈夫、私がついているから……!!」


 今の今まで生きていた、心臓をぶち抜かれた男。

 その男の背後にいたのは、少しばかり陰のある表情をした、髪の薄い中年の男であった。

 男はさっと槍を引き抜くと、手にした手拭いで血を拭き取る。


「無事だったな、お嬢さん達」


 そして警戒する二人を見て、にっこり笑うと、手を差し伸べてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ