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ルシカの『絶対感覚』


「さ~て、イドゥさんの件も解決したことだし、そろそろ遊びに行きたいなぁ」

「馬鹿野郎、やっぱり皆殺しにしおってからに。議長や一部の幹部は殺さないようにと言ったはずだぞ」

「だって、あの議長ってば無駄に話が長いからさ。飽きるよ、あれは」

「お前の飽きた飽きないで、これからの手間が大幅に変わるんだ。いい加減後先の事を考えろ。……まあ過ぎたことだ。もうよい」


 あの後、早速リーダー達とイドゥらは合流。

 当初の計画を無視したリーダーの行動に、イドゥも頭を抱える。


「でもさ、アノエも幹部連中を殺してるよ? 一部アノエにも責任あるよね?」

「……もしかして責任転嫁?」

「い、いや、違うよ! 僕が全部悪い! 君は実に僕の期待通りの活躍をしてくれてるよ!?」


 アノエは責任転嫁や濡れ衣を着せるといった、仲間からの裏切りにあたる行為が何よりも嫌いなのだ。

 その理由は彼女の過去にある。

 彼女は傭兵隊時代から絵画を描く趣味があった。

 腕は中々のもので、特には高値で売れることもあった。

 そんなある時、彼女があるコンクール用に描いていた絵画が盗まれる事件が発生した。

 犯人は、アノエが所属していた傭兵隊の隊長。

 隊長自身も絵を書くのが好きで、絵の話で盛り上がるほど仲が良かったという。

 隊長はアノエの絵を自分の描いた作品としてコンクール出展、それがなんと最優秀賞を取り、隊長はプロ画家としてデビューすることが決まった。

 仲間と思っていた隊長に裏切られたアノエは、隊長の授賞式の日、隊長や他の隊員を全員皆殺しにした。

 一人になって途方に暮れていたアノエを拾ったのがリーダーであるのだ。


「アノエには感謝してるよ! ホントだよ!? 大好きだよ!?」

「うん。リーダーがそう言うなら信じる」

「おい、リーダーが動転して愛の告白しているぞ」


 言われた方のアノエも満更ではなさそうだ。

 髪をクルクルいじっているのがいい証拠である。


「ルーシャ。私にも大好きって、言ってもいいよ?」

「言うわけないだろ、馬鹿」

「私は言えるけど? ルーシャ、大好き」

「俺は嫌いだ」

「言ってくれないと殺すよ?」

「……なんでそんなことで命を狙われないといけないんだ……」

「ルシャブテ、もう諦めて言ってやれよ」

「無責任なことを言うな、ダンケルク。こいつに一度言うと後が大変なんだ。知ってるだろう?」

「知らんよ。俺はストーカーに追われたことはないからな」

「ねぇねぇ、ルーシャ、早く早く」

「…………今回の仕事が終わったら言ってやるよ」


「あ、逃げた」←ルシカ

「男らしさの欠片もないな」←ダンケルク

「へたれ」←アノエ

「ナルシスト」←リーダー


「おい、リーダー、お前の言いがかりだけおかしいだろ。俺は別にナルシストじゃない」

「そう? 事実じゃないの? ねぇ、イドゥさん?」

「……知らん、ワシに振るな。全くお前らときたら呑気と言うか何というか……。まあいい。話を戻すぞ」

「どこまで話したっけ?」

「お前が議長を殺してしまったという話までだ。過ぎたことだから流そうと言っただろう」

「そういえばそんな話があったねぇ。でも僕とて何の保険も掛けずに殺したわけじゃないんだよ?」

「判っておる。後はルシカに任せればいいだけだ」

「はーい、私にお任せを!」


 リーダーがこんな呑気な性格をしているのだ。彼女の魅覚と、そして察覚はこのメンバーの生命線といっても過言ではない。


「え~っと、少し待って下さいね……」


 ルシカが目を瞑ると、それに習って皆も黙り込んだ。

 彼女の魅力探索を邪魔したら後が怖いからだ。


「う~ん、見つからないなぁ……」


 なかなか感が働かないのか、目に見えてルシカがイラついてくる。


(……リーダーよ。少し離れていた方がいいんじゃないか?)

(うんにゃ、このままの方が面白いものを間近で見られるし、僕はこのままで)

(どうする? ルーシャ?)

(あまりこいつが爆発するところを見たことがなくてな。珍しくリーダーと同じ意見だ)

(なら私も一緒)

(Zzzzz……)←アノエ

(どうしてこの状況で寝ていられるんだよ……)←ダンケルク

(ワシは逃げておこう。ルシカの神器の力は何度経験しても慣れん)←イドゥ


 そんなコソコソ話など聞く耳すらないルシカ。


「ああああああ、全く、どうして見つからないかなぁ!!」


 誰しもが経験があるだろう。

 そんなに大切ではないと思っているモノが、いざなくなった時イライラする感覚を。

 誰彼構わず当たり散らしたくなる経験はないだろうか。

 ルシカの持つ神器は、そんな苛立ちを解消する力を持っている。


「…………もう、いいです! 皆さんの『感覚』、少し借りちゃいますね!」


(……始まったか……)←ダンケルク

(ルシカは怒っていても可愛いねぇ)←リーダー

(そんなこと言うとる場合か)←イドゥ

(イドゥ、少し離れるぞ)←ダンケルク

(暗くなっても、私、隣にいるから)←スメラギ

(お前の場合、明るい暗い関係なく勝手にいるだろうが)←ルシャブテ

(Zzzzzz……)←アノエ


 コソコソ話の通りに、イドゥとダンケルクは距離を取る。

 話の中心人物であるルシカの、エルフの薄羽で出来た胸のペンダントが輝き始めた。


(やっぱり、エルフの薄羽の輝きは堪らないねぇ。しかもこの直後には闇が訪れるというのも憎い演出だね。流石は僕らのルシカ――)


 リーダーの感想の最中の出来事。

 この場にいたイドゥとダンケルク以外の者達は、唐突に深い闇へと誘われた。

 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。これら五感の全てが機能しなくなっていたのだ。

 無論立ってなどいられない。

 皆が皆――いや、寝ているアノエは最初から倒れているし、この闇に乗じてルシャブテに抱きつこうとジャンプしたスメラギは例外にして、尻餅をついてしまっていた。


「きたきたきたーーーー!! 今ならアレクアテナ大陸の全てを感じることが出来そうです~~!!」


 アノエのペンダント、それは神器であった。


 ――神器『絶対感覚(イマジン・イメージ)』。


 この神器は使用者の持つ五感、または七感を、通常の百倍以上に増幅してくれる使用者強化型の神器である。

 ルシカは優れた感覚を持つ。

 その百倍以上ともなれば、この大陸内に置いてルシカに探れるものは無くなってしまうほどだ。

 ただし、その代償と言うべきか欠点が一つ存在する。

 それは神器使用者の周辺の人間や動物の感覚が一切なくなってしまうということ。

 周囲の人間の感覚を、強制的に借り受ける力とも言える。


「うひょーーーー!! 判る! 全て丸見えですーーーーー!! ナーッハッハッハッハ!!」


 当然のことながらルシカの半狂乱ともいえるこの痴態を、リーダー達は見ることが出来ない。


「……いつみてもこの状態のルシカは恐ろしい。近寄り難い」

「傍から見れば気が狂ったようにしか見えんからな。とはいえ、もし俺があれを使えば精神が崩壊するに違いない。あいつは凄い奴だ」


 全てが見える、聞こえる、感じる。

 大陸全ての情報が、一度に頭に入り込んでくる感覚なわけだ。

 無論、実際にはルシカの近辺、遠くてもこのアジト内だけの情報であるが、研ぎ澄まされた感覚は時として人間の精神を崩壊に追い込む。

 頭に流れ込む膨大なる情報を整理しきれなくなった時、果たして常人は正気でいられるだろうか。


 ――そういう意味で、ルシカはやはり普通じゃない。


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