「貰い受ける」
リーダー達御一行の進んだ道は、アノエによって真っ二つに割かれた死体で一杯になっていた。
『不完全』の連中も、どうにかこの凶悪な裏切者たちを止めようと、様々な神器で先頭を走るアノエに攻撃を仕掛けてきたが、彼女の鎧を貫く攻撃は一つもなく、立ち塞がる者は紙屑のように切り捨てられていく。
「……ここの連中はこんなにも貧弱だったか?」
「いや、彼ら一人ひとりは相当な神器の使い手なんだけどね。君が強すぎるだけだよ、アノエ」
「私は傭兵隊の中でもそこまで強くはなかったが」
「いやいや、その傭兵隊を潰したのは君じゃないか」
「潰したのは私じゃない。この剣」
アノエの持つ大剣は、実は神器である。
大剣型神器『死神半月』。
月色に怪しく光るミスリルで出来たその刀身の重さは、軽く300キロを超える。
そんな代物を片手で軽々と振り回すことが出来るのは、単に彼女の腕力が優れているからというわけではない。
この『死神半月』はアノエの愛刀であり、半身だ。
半身というのは、ただの比喩表現ではない。
この剣は少し特殊で――言ってしまえば妖刀にあたるもので、常に魔力を補充していないと刀身と斬れ味を保つことが出来ないという代物だ。
基本的には所有者が魔力を供給し続けなければならず、常人であれば一年足らずで魔力を吸い取られ、命を落としてしまうだろう。
しかしアノエとこの剣の付き合いは五年を超えている。
アノエの少女時代、屈強なならず者によって結成された傭兵隊を、自らの手で潰した頃からの付き合いだ。
ではどうしてアノエの命の灯が、未だに爛々と激しく揺らめいているのかというと、簡単な話だ、他人の魔力を奪って剣に注ぎ込んでいるというわけだ。
そうすることで、剣自身が彼女を使い手と認め、剣はまさに彼女の身体の一部の様に振る舞うのだ。
「……貰い受ける」
アノエは人を斬る時、必ずこう口ずさむ。
「あがっ……!?」
アノエの大剣は、人を突き刺すなんて器用なことは出来ない。
出来ることはただ一つ。全てを薙ぎ払うことだけだ。
上半身と下半身が分離した死体から、噴出する血飛沫と共に、緑に光る魔力がミスリルの刀身に集まっていく。
「これで一年は持つ」
「これだけ斬っても一年しか持たないんだねぇ……」
「この子は大食らいだから」
剣を維持するためだけに、一週間に一人以上斬ることが、アノエの日課であり日常になっている。
「おい、リーダー、アノエ。結構手ごたえありそうな奴らが来たぞ。楽しめそうだな」
ダンケルクが足を止める。
三人の視線の先には、それぞれ禍々しい形をした神器を持つ贋作士の姿が。
そして、彼らは異臭をまき散らす犬やオオカミを従えていた。
「……動く死体だ。…………魔力はあまり奪えそうもない」
「ああ、イングの手下だった奴らと、そのコレクションだね。臭いがきつそうだしあまりやりたくはないね」
「ならそこで待ってろ。お前がいると足手まといだ。アノエ、行くぞ」
「うん。リーダーは邪魔」
「ええ!? こんなにリーダーを蔑ろにするテロ集団っている!?」
なんてリーダーが突っ込みを入れている間に、ダンケルクとアノエは敵の方へ向かっていった。
「……くさい」
鼻を左手でつまみながらも、右手だけで大剣を振うアノエの姿に、贋作士達も驚き距離を取る。
「いけ、犬ども!」
「ぐるるるる……、……ぐがあああああああああ!!」
顎が外れかねないほど、大きく口を開けて、ゾンビと化した犬の軍団がアノエに襲い掛かった。
「……ちょっと厄介」
大剣を床に刺し立てて、右手で髪をくるくるいじる。
アノエが困った時にする癖だ。
「……アノエ。流石に敵の前で剣を置かなくてもいいだろう」
「だって、困ったから」
「……まあ素早しっこい犬に大剣は不利かもな」
「いや、そうじゃなくて。剣が汚れる」
「……なんだ、それだけのことか……」
アノエの剣に対する愛情は異常の一言だ。
他人に剣を触られることすら嫌がるほど。
(ならどうして躊躇いなく人を斬れるのか)
そんな疑問をダンケルクだけでなく他のメンバーも常々思っている。
「判った。ゾンビ連中は俺がやる。お前は奥の人間をやれ」
「それは名案」
大剣の柄を掴んだアノエは、まるで棒高跳びの様に剣をしならせ飛翔する。
犬や狼らがアノエに襲い掛かる寸前のことだ。
「ダンケルク、後よろしく」
「任せておけ」




