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個人行動の報い

 ――三年前。


 その日、ステイリィはいつものように、たった一人でとある犯人を追いかけていた。

 その犯人の罪状は、大陸法によって禁じられている武器の無許可売買。すなわち密売である。

 密売現場を目撃したステイリィは、そのことを治安局本部に連絡せずに、単身で敵のアジトに乗り込もうとしていた。


 ――本来、治安局員の行動は二人で一組が大前提である。


 だがステイリィは、あんな性格ゆえにどうしても周囲とのコミュニケーションがうまくいかず、個人行動ばかり取っており、パートナーのことをないがしろにしていた。

 自分の自由を奪いかねないパートナー制度というものを、煩わしいとさえ思っていたのだ。

 当然パートナー側としても、自己中心的な行動ばかりするステイリィのことを快く思うわけもなく、互いに助け合いなどは皆無で、共に行動するは一切なかった。

 ステイリィもそっちの方が気が楽だし、そもそも自分の実力に自信があったため、相手が誰であろうと一人で解決できると、そう自惚れていたのだ。

 今回の事件でも、当然一人で全てを終えることが出来ると思っていた。


 腰には愛用の短剣と、敵を縛る鉄の縄。

 そして小さいペンダント型の神器が首に掛けられている。


「うらぁーぃ、まてーいぃ!」


 軽い身のこなしで、逃走する敵を追いかけ、教会都市サスデルセルの路地裏までやってきた。


「おい、もう逃げられんぞ!! 出てこい、ブサイク共!」


 口の悪さも相変わらずで、いつも敵を憤慨させてきた。

 無論相手を冷静にさせない作戦の一つではあったのだが、いかんせんこの時の相手には通用しなかったようだ。


「今出て来たのなら半殺しで勘弁してやる!!」


 さらに煽るも反応はない。

 すでに逃げたのか。

 いや、小さいが敵の気配と息遣いを感じる。周辺にいることは間違いない。


「もう、知らないよ」


 ステイリィがナイフを手に取ろうと、腰のベルトに手を掛けた、その時だった。


「――このクソガキが、調子に乗りやがって」


 それは唐突だった。

 ステイリィの背後から、肩まで髪を伸ばした屈強な男が現れ、彼女の腕を掴んだのだ。


「いつの間に……!?」


 神経を最大限まで研ぎ澄ませていたのに、何故気が付けなかったのか。


「見えなかったか? そりゃそうだろ。そういう神器を使ったのだからな」

「か、攪乱系神器か……!?」

「ご名答。流石は治安局員様。よく知ってらっしゃる」


 男が取り出したのは、小さい瓶。


「こいつはあまり強い力はないが、人に幻覚を見せる神器でね。中に水を入れて、その水を撒くと、周囲に透明な霧を発生させる。その霧が幻覚を見させるんだよね」

「知ったげにベラベラと……!!」


 腕を掴む男の握力が強さを増す。

 どうにか体勢を立て直し、敵に蹴りでも入れてやろうとも思ったが、正面からやってくる敵を見ると、どうもそれは出来そうもない。

 

「一人でかくれんぼなんて、良い趣味ね!」

 

 それを聞いた男は、ニッと卑しい笑みを浮かべた。


「そうかな? 全員集合だぜ?」


 ステイリィに幻覚を見せていた霧が晴れる。

 透明な霧だ。晴れると言っても視覚的には判らない。

 ただ唐突に、目の前に十数人以上の敵が、急に現れた様に見えただけだ。


「たった一人で俺らを追うなんて、なかなか舐めた局員さんだな、おい」

「よく見りゃ中々可愛い娘さんで。俺、こいつ貰った」

「待て待て、俺のもんにする」

「まあ、それよりもまず先にボコボコに痛めつけないとな。半殺しでいいかい?」


 男達の身の毛のよだつほどのゲスで気持ちの悪い会話に、流石のステイリィも、身体が冷たくなっていくのを感じる。

 恐怖に、身体が震えているのだ。


「お、お前ら、私に手を出してみろ、本部が黙っちゃいないぞ!」

「うっせえよ」


 突如、お腹に想い衝撃を感じる。

 密売人の一人が、ステイリィの鳩尾に拳を叩き込んだのだ。


「……ひぎっ……!!」


 一瞬だが、呼吸困難になる。


「おいおい、死なれちゃ困るからな。優しくやれよ」

「すまんすまん、ほら、交代でやってやれ」


(クソッ……! この私が……!!)


 腕を動かしてみるも、敵の握力が強すぎてピクリとも動かない。

 今の打撃により、身体に力も入らない。


「お、お前ら……!! 絶対に許さない……!!」

「いいね、その強気なところ。そういう娘、大好きだよ? そう奴に限って、犯す時楽しめるんだよな」

「……このゲス野郎め……!!」

「ゲスで結構。おい、皆、そろそろ服を破け。後逃げられんよう足を縛れ」


 敵は最初からそうするつもりだったのか、密売していた武器でステイリィを脅して拘束すると、足を縛り、ナイフでコートを切り刻み始める。

 やがて下着が露わになった。


「やめろ、やめろおおお!!」

「この状況で止めれるほど人間出来ていないんでな。さあ、皆、楽しもうぜ!」


 縄で縛り、動けなくなったステイリィに、男達の汚い手が一斉に襲い掛かった。


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