テメレイアの三つの告白
――プロ鑑定士協会屋上 天空墓地――
ここは違法品に関する事件で犠牲となった、身元が判らない人達を供養する共同墓地であるが、それに加えて競売都市マリアステル全体を見渡せる絶景ポイントの一つとして有名な場所でもある。
天に近いこの場所は、風が強く、肌寒い。
そんな場所に、テメレイアはウェイルを引き連れやって来た。
すぐ後ろに立つウェイルから少し距離をとって、そして向き直った。
「何の話があるんだ？ わざわざ天空墓地まで来る必要があるのか？」
どうしてここに来ることになったのか理由が全く判らないウェイル。
「ここへ来てもらった理由はただ一つ。話の内容を他人に聞かれたくなかったからさ」
「……一体何の話なんだ……？」
しばらく沈黙があったが、テメレイアは意を決し、ウェイルに向かって指を三本立てた。
「三つ、伝えたいことがある。一つは僕の今後についてだ」
「今後？ お前の罪は全て免罪となったのだろう？ プロ鑑定士協会の潜入捜査という名目で」
「その通りさ。でもミルはそうじゃない。ミルはアルカディアル教会の象徴、『龍姫』と呼ばれる存在だった。事情を知る治安局の一部やプロ鑑定士協会では、ミルの罪もイルガリの精神操作の結果だとして免罪にはなった。でもこれからは教会のしがらみを考えれば、この話は簡単には終わらない」
「ラルガ教会か」
「ラルガ教会だけじゃないけどね。ミルの存在はアレクアテナ大陸全土に知れ渡ったと言っても過言じゃない」
あれだけアルカディアル教会が大々的に『龍姫』の存在を祀り上げたのだ。
それでいて実際にアルクエティアマインの上空に龍が現れたのだから、誰もが龍の存在を確認したことになる。
「ラルガ教会を筆頭として、龍を悪だと考える教会は多い。ラルガ教会にとって、ミルは今回の件を含めて絶対に許すことの出来ない存在と言えるだろう。だから僕はミルを連れて共に旅に出ようかとも思っている。彼女をほとぼりが冷めるまで匿うつもりだ。しばらくはここにも帰れないかも知れない。いつほとぼりが冷めるか判らないからね」
ミルを追う者から彼女を守るため、テメレイアはまたも酷く険しい旅路を選んだのだ。
「……なるほどな。寂しくなるな」
「君にそう言ってもらえるだけで嬉しいよ」
そしてテメレイアは指を二本立てる。
「ここからが重大な発表なんだ。二つ目の伝えたいこと。心して聞いて欲しい」
「重大……？ ……って、レイア!? 何を!?」
「いいから、黙って見ていてくれ」
ウェイルが驚くのも無理はない。
何故ならテメレイアは、自分が身に着けていた上着を、一枚一枚脱いでいったからだ。
そして脱がれる枚数に比例して、ウェイルの顔が固まっていく。
最後は下着だけになり、ようやくウェイルも理解できたようだ。
「レイア……!? お、お前、まさか!?」
「そう、僕。いや、この瞬間から私でいいよね？ 実は私は――――女、なんだ」
すらりと伸びたしなやかな手足。
控えめだが、ぷっくりと膨らんだ胸。
男の身体では体現できない体躯を、テメレイアは持っていた。
「ちょ、ちょっと待て！ 少し状況を整理させてくれ……!!」
「いいよ。私も状況整理を手伝おうか」
テメレイアが女だった。
……つまりだ。ウェイルはこれまで女であるテメレイアを男として接してきたわけである。
「……なんてこった……」
男として振る舞うテメレイアのことを、なんも疑いもなく男として接してきたということは――
「……一緒に風呂に入ったこともあるよな……？」
「ああ、プロ鑑定士試験の時のことか。そうだね。あの時は正体がバレないかヒヤヒヤしたもんさ。私は全力で君の視線から逃れていたことを君は知らないだろう？」
「……全然気づかなかった……」
――というレベルであればまだいい方。
「君が下着姿で歩き回っているのを、私は嫌というほど見てきたさ」
宿でテメレイアと同室になったこともある。
考えてみればシルヴァンの時だってテメレイアと同室だった。
「君から男物の下着のデザインについて熱く語られた時は、流石に辟易したものだけど」
「……お前、質悪いぞ……」
「それは今に限ったことじゃないだろう？」
クックと笑うテメレイアに対し、ウェイルの顔は真っ赤だ。
「何故女であることを隠していたんだ!?」
「その理由を話すには、懐かしい話をしないといけないね。ウェイル。君にも関係があることさ」
「俺に関係がある……？」
はて、一体なんのことだろうか。
そもそもテメレイアとは、プロ鑑定士試験の時が初対面だったと記憶している。
「実はね。私は君とプロ鑑定士試験で出会うよりもずっと昔に、君と会っている」
「会っている？ いつだ!?」
「君は覚えているかな？ 十年以上も前の、リグラスラムでの出来事を」
そしてテメレイアは穏やかに語り始めた。
