オライオンの最後
『氷龍王の牙』は、創造主からの魔力を授かった刹那、一度力を失ったかのように溶け崩れる。
だがそれは『氷龍王の牙』が真の姿へと戻るための一連の動作の一つに過ぎなかった。
溶け去った氷は輝きの中で新たな剣を生成し、今まで以上に透明度の高い氷の刃へと姿を変えたのだ。
「な、なんて、なんて力だ……!? まるで魔力が凝縮して凍っているかのようだ……!!」
見た目は普通の剣だが、その込められている尋常ではない魔力に恐怖すら覚える。
「使い方は訊いているのかい?」
「……訊いてはいない。だが判る。まるでこの剣が、俺に教えてくれているようだ……!!」
超人的な身体能力を得たことも実感出来る。
この神器の使用方法だが、不思議なことにウェイルは全て理解出来ていた。
まるで脳内にフレスが直接伝えてくれているかのよう。
今なら長年使い込んだ愛用の神器と同じくらい、手際よく使えるだろう。
「これならイレイズの腕だって粉々に出来そうだぞ」
「……ウェイルさんと腕相撲だけは絶対にしないようにします」
石くらいなら軽く握っただけ粉砕出来そうだ。冗談抜きで今ならダイヤモンドですら砕く自信がある。
「サラー、頼みがある」
『空に投げ出された自分を拾え、と言いたいんだろ? 判っている。行ってこい』
「理解の早い仲間がいて助かるよ」
『私はお前と仲間になったつもりはない』
「え!? そうなのですか!? 駄目ですよ、サラー。ウェイルさんは我々にとって恩人じゃないですか!」
『イレイズ、余計なことは喋るな!』
「お前らはどこでも相変わらずだな」
そんな漫才を交わして緊張を解そうとしてくれる二人に、ウェイルは内心感謝しつつ、思いっきり足を踏ん張らせた。
「す、すごい……!!」
テメレイアが絶句するほどの、超人的な跳躍力でウェイルは空を翔け、一気にオライオンへと詰め寄った。
「結界も自爆装置ごと切り裂いてくれる!! うらあああああああああああああ!!」
ウェイルはオライオンに向かって、光の短剣を思いっきり振り降ろした。
――その瞬間である。
振り降ろされた光の刃は、オライオンの目の前で巨大な――オライオンの倍以上の大きさとなった――剣となって、オライオンの結界と衝突した。
「――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ウェイルの咆哮と気迫の強さと比例するかのように、剣もその大きさを増大させていく。
ピキピキと、結界にひびが入っていく様子は、少し離れたテメレイアからでも確認が出来た。
「今、助太刀するよ、ウェイル……!!」
本から輝く楽譜を出現させ、テメレイアはアテナの詩を歌い始めた。
今度はウェイルを祝福する讃美歌の様に、テメレイアは祈りを込めて歌った。
詩の魔力が『氷龍王の牙』に反映されていく。
膨大な魔力を増幅させていくと、剣の大きさもさることながら、その本数も増えていった。
一本から二本、二本から三本へと増えていき、テメレイアが四小節目を歌う頃には五本もの大剣が、オライオンを破壊せんと結界と衝突していた。
ミシミシと、強固だった結界もついに悲鳴をあげはじめる。
――そして、ついにその時が来た。
限界を迎えた結界は、光り輝く魔力の粒子となって粉々に砕け散っていく。
結界を失ったオライオンを守るものは、もうどこにもない。
無防備となったオライオンに、五本の超巨大剣が突き刺さっていった。
――その日、アルクエティアマイン上空にのさばり続けていた超弩級戦艦『オライオン』は、きれいさっぱり姿を消した。
――いや、正しくは消滅したのである。
自爆装置すら瞬時に消滅させた光の刃により、オライオンは文字通りこの世界から消えてなくなったのである。
フレスの命懸けの行動によって、アレクアテナ大陸を恐怖で震撼させた超弩級戦艦『オライオン』は、撃破されたのだった。
そしてこのオライオンの消滅によって、ラルガ教会VSアルカディアル教会の教会戦争は幕を閉じたのだった。




