403/763

魔力の譲渡

「フレス、どうしてその姿に戻ったんだ？」

「少しでも多く魔力を注ぎたいからね。龍の姿ってのは結構魔力の燃費が悪くてさ」

　普段少女の姿をしているのは、溢れ出る魔力を抑えるのと同時に節約をしているためだとフレスは話す。

　ウェイルは改めて『氷龍王の牙(ベルグファング)』を握り直し、腕に氷を纏わせて剣にした。

「ねぇ、ウェイル。この感覚、覚えているかな？」

　フレスが両手を広げると、身体がぽうっと淡く輝く。

　するとウェイルは身体全体が軽くなったような感じを覚える。

「これが龍の魔力を借りている状態なんだな？」

「そうだよ。バジリスクと戦った時、ボクはウェイルに少しだけ魔力を貸したんだ。これはその状態ね。今回はこの魔力を、ウェイルと『氷龍王の牙』に集中させる。ボクの持つ魔力のほぼ全てを、ウェイルに託すよ」

　ほんの僅かな魔力の借用でも、ウェイルの動きは相当機敏になり、腕力も増加したと実感できる。

　今のこの状態でも、恐ろしいくらいの力が身体全体にみなぎっている。

　それを、本番ではフレスの持ちえる魔力のほとんど全てを借りるというのだ。

　確かにこれならば十分、火力としては申し分ないと確信できる。

　ただ気がかりなのは、やはりフレスの事。

　魔力のほとんどを貸すというのだ。

　魔力が抜けた後、果たして本当にフレスの身体は無事なのだろうか。

「……フレス、お前はどうなるんだ……？　本当に大丈夫なのか……？」

「もう、ウェイルってば。フレスベルグから説明があったでしょ？　ボクなら平気だって。ただ魔力の譲渡が終わった後、少しばかり気を失うと思う。でも絶対に起きるから大丈夫。ボクは死んじゃったりしないから」

「……判った。信じるよ。必ず生きていてくれよ。約束があるんだからな」

「うん！　一緒にフェルタリアに行こうね！」

　ハンダウクルクスの地下でした、一つの約束。

　二人で共に因縁の地である『フェルタリア』へ行こうと約束した。

　互いに拳を叩き合い、そして改めてオライオンの方を見る。

「ウェイル。もうすぐオライオンの高度がアルクエティアマインに影響が出るくらいまで落ちる。急いで欲しい」

　二人の様子をじっと見ていたテメレイアが、そっと本を開いて『創世楽器アテナ』を発動できる体勢をとった。

「『氷龍王の牙(ベルグファング)』は神器だろう？　なら僕もアテナを使ってサポートするからね。フレスちゃんが少しでも楽できるよう、僕も出来ることを全力でするさ」

「助かるよ、レイア」

　テメレイアとて、何も出来ないわけじゃない。

　魔力供給の手助けを、少しでもしたい。

　本を輝かせ、魔力を集中する。

「いつでもいいよ、ウェイル、フレスちゃん！」

「うん！　じゃあ、やるね！」

　フレスは蒼白い翼を輝かせて魔力を生み出し、そして氷の刃にそっと手を置いた。

「……ウェイル。かなりの衝撃が来ると思うから、覚悟しておいてね!!」

「……ああ!!」

　蒼白い光は、フレスから氷の剣へと移っていく。

「フレス……！」

『…………』

　ミルもサラーも、この時ばかりは黙って見守るしかなかった。

「ウェイル、後はお願い……!!　ボクの力、全てを託すよ……！」

　フレスの発する光は、徐々に弱まっていく。

　氷のように美しかった翼すらも、色艶が霞んでいくように。

「ぐぐぐ……!!」

　対するウェイルも歯軋りするほどに力み、氷の剣から来る衝撃に耐えていた。

　フレスの光は、フッと蝋燭の火を吹き消したように、静かに消え去った。

「……ウェイル、……信じてるから、ね……――…………」

　意識を失ったフレスの身体が空に投げ出される。

「フレス……!!」

　フレスの身体を空から抱き上げたのは、エメラルド色の翼を持つミルであった。

「凄まじいですね、これは……」

『……ああ』

　イレイズとサラーは感嘆の声をあげる。

　直視出来ないほどに光り輝く氷の刃は、アルクエティアマインの空を明るく照らしていたからだ。