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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
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事件の後で

 ラルガ教会に乗り込んだ次の日、事件の詳細をまとめる為、二人はヤンクの酒場へやってきていた。


「ラルガ教会本部が贋作ラルガポットを全部買い取ってくれたってのか?」

「ああ、実はな、ラルガ教会本部もサスデルセル支部には不穏な動きがあるとして探りを入れていたらしい。どうもバルハーが属する派閥の資金繰りが良すぎるとして、その派閥を念入りに捜査していたそうだ」

「あそこまで金遣いが荒かったんだ。怪しまれて当然だな」

「ただ、どんな方法で稼いでいるか詳細までは判らなかったみたいでな。お前の鑑定書を提示したら、本部はすぐに行動してくれたよ」

「そういえばお前には見張りが付いていたと思うんだが」

「実はな、俺の見張りをしていた奴こそ、ラルガ教会本部の諜報員だったんだ。お前の鑑定書を届けるのに色々と手助けしてもらったよ」

「そうか。本部の諜報員も結構潜入していたんだ」

「そうみたいだ。だが聞くところによると、その諜報員達は全員ステイリィに逮捕されちまったそうだ。勿論、教会本部が治安局に掛け合って解放されたそうだが」

「あのアホ、誰彼構わず逮捕していたからな……」

「ま、贋作ラルガポットもきちんと処理出来たし、結果的には万々歳だよ」

「贋作はいくらか残してくれたんだろ?」

「勿論だ。これからの贋作対策の資料になるし、何よりお前達も必要だろ?」

「ああ、助かるよ。教会にあった分は全部破壊してしまったからな」

「おいおい、そりゃ相当勿体無いことをしたな」

「ラルガ教会本部は、一ついくらで回収したんだ?」

「聞いて驚け。なんと一つ五万ハクロアだ」

「一つ五万⁉」


 あり得ない金額だ。

 ラルガ教会本部が、贋作だと判っていてこの金額を提示したのは、おそらくルークへの口止め料も含まれているのだろう。


「これも全てお前達のおかげだね。感謝している。だから今日は俺の奢りだ、好きなだけ、存分に食ってくれ!」

「いいの!? 何をどれだけ食べてもいいの?」

「もちろんだよ。フレスちゃん。君のおかげで贋作と見抜けた訳だからね。好きなだけ食べてくれよ」


 後にルークはこの言葉を後悔し、ヤンクは料理する側としてルークを恨むことになる。


「嬢ちゃん、何を食う?」

「じゃあボク、くまの丸焼き!!」





 ――●○●○●○――





「……おい、これは一体どういうことだ、ウェイル……」

「……実はな。俺もフレスがここまで大食いだということを、今初めて知ったんだ……」

「あぐあぐあぐあぐ、んー、おいし~っ!! もぐもぐもぐもぐ……、がぶがぶがぶ……あ、ヤンクさん、豚の丸焼き三頭追加ね!!」


 テーブルの上には、すでに骨だけとなった豚が五頭もいる。


 ――フレスの食べっぷりを見て、最初こそ面白がっていた周りの客も、豚の丸焼き三頭目辺りからは、ただただ唖然としていた。


「フレス、そんなに食べるとお腹壊すぞ……?」

「大丈夫だよ。ボク、龍だから! あ、これ秘密だっけ? 本当なら熊を食べたかったのに、ヤンクさんが無いって言うんだもん! 困っちゃうよ!」

「普通無いわ!!」

「もぐもぐもぐ、ヤンクさん、リンゴのジュース頂戴!」

「おい、ウェイル。お前の嫁さんは気持ちいいほどの食いっぷりだなぁ。相当稼がんと養っていけんぞ?」

「……ほっとけ……」

「弟子をとるのも大変だな……」


 ヤンクに皮肉を言われ、ルークに肩を叩かれ同情された。

 これからの食費を考えると頭が痛い。


「もぐもぐがばがばんぐんぐ……ゴクゴク、プハー!! ヤンクさん、リンゴジュースもう一杯!!」


 夢中で暴飲暴食を続けるフレスを見て、もうウェイルは苦笑するしかなかった。

 そしてルークは話を戻す。


「しかしあの鑑定書の威力、凄まじいな。流石プロ鑑定士様の直筆だよ」

「正直に言えばあの鑑定書、信じてもらえるという確信はなかった。何せ物的証拠はあったが関連証拠はなかったからな。半ば予想だけで書いたんだ。それにしても教会本部が来るのが早すぎやしないか?」

「だからさっき言ったろ? バルハーは元々監視されていたんだ。鑑定書を本部の司祭に見せた途端、すぐさま部隊を編成してくれたよ」

「そうか。やけに大人数で来たからな。正直驚いたよ」


 ウェイルとフレスが事件を解決してラルガ教会から脱出した後、すぐにラルガ教会本部が介入し、事件の収束と噂の鎮火に努めたのだという。

 その手際の良さは治安局も舌を巻くレベルで、事件の担当者としてラルガ教会との仲介役になったステイリィは、ほとんどの事後処理を教会に任せたのだという。

 それもどうかとは思ったが、ラルガ教会本部の仕事は公正なもので、噂を広まらないように手を打った以外には、バルハー側の人間をあぶりだして治安局に引き渡したり、贋作の処分に尽力したり等、誠意ある対応だったそうだ。

 ほとぼりが冷めた後日、ウェイルは公式鑑定書を書いた張本人だということでラルガ教会本部や治安局から呼び出され、事情聴取に応じ、見聞きした全ての事情を語った。

 その際も、ラルガ教会はあっさりするほど素直に謝辞を述べ、事件に巻き込まれたシュクリアやルークの身の安全も、全力で確保することを約束してくれた。


「俺も口止め料をたんまりと貰ったよ。といってもプロ鑑定士協会への報告だけはすると伝えたがな。ラルガ教会本部はバルハー神父を本部の地下監獄に幽閉することにしたらしい。治安局にも金を積んで事件を公にしないよう手を打ったと聞く」

「ステイリィが嘆いていたよ。事件があのまま公になれば、手柄は全部ウェイルの通報を受けて真っ先に教会へ突入した自分のものになっていた、てな。自棄酒するもんだから介抱が面倒だったぞ。今日は酔い潰れて寝てるようだ」


 酒の入ったグラスを傾けながら、やれやれ、とルークがぼやいた。


「おお、そうだ。結局悪魔の噂ってのは、どういう仕組みだったんだ?」

「ラルガ教会は地下に魔獣ダイダロスを飼っていてな。知ってるか?」

「ああ、腐銀を作るときに利用する魔獣だな」

「そのダイダロスが召喚したデーモンを、転移系の神器で外に放流していたって訳だ」


 その後、ラルガ協会本部は証拠隠滅の為、全ての神器と円陣を回収したそうだ。


「それにしてもお前ら、本当によく無事だったな。ダイダロスなんて上級デーモン、教会の司祭が束になって、それも封印系神器(シールクラス)を駆使してようやく抑えられるってレベルなんだろ?」

「生憎、俺の弟子は最強なんでね」

「――ガハハッ! 確かにな! あれだけ強い弟子は世界中どこ探してもいないだろうよ!」


 笑いながら両手に焼いた肉を乗せた皿を持って、ヤンクも会話に混じってきた。

 

「はぁ……、しかしいつも命の大切さを説いている教会が、こんな事件を起こすのだからな……。世も末だ」


 はぁ、と深く嘆息したルーク。 

 それに釣られるようにヤンクも嘆息した。


「本当だぜ。それに降臨祭が中止になったせいで宿泊客がキャンセルしやがってな。ルークは儲かったかもしれんが、俺は大損だよ」


 豚にかぶりついているフレスを除く三人が、今回の事件についてひとしきり呆れた後、ルークはウェイルの耳元に寄ると、こっそり囁いてきた。


「結局、『不完全』の情報は手に入ったのか?」

「…………」


 この言葉を聞いた途端、ウェイルは沈黙した。

 結局情報は手に入らず、情けないところをフレスに見られたのである。

 いくら怒りが心を支配していたとはいえ、やりすぎたことを反省していた。


「……バルハーは何も吐かなかった。ただ喋ったら殺されると、そう答えるだけだった。『不完全』が暗躍していた以上、この事件にも何か裏があるはずなんだ……!」

「……裏、か……」


 何も情報を得られなかった。

 そのことでウェイルが心底がっかりしていることに、ルークとヤンクは気づく。

 二人とも、ウェイルのことを親友だと思っている。

 ウェイルが『不完全』に対し、並々ならぬ憎悪を抱いていることはよく知っている。

 だが実際にウェイルと『不完全』の間に何があったかなど、詳しいことは何一つ知らない。ウェイルは自分の過去をあまり語らないからだ。

 二人がウェイルの過去の詮索をすることはない。

 親友だからこそ、敢えて深く踏み込まない。

 そんな二人の配慮に対し、ウェイルは心から感謝していた。


「呑めよ、ウェイル! 情報が無かったんだろ? だったらまた探せばいいじゃねーか! なーに、裏があろうとなかろうと、いずれ判ることだろ!?」

「そうだな、ヤンクの言う通りだ! ここは俺の奢りなんだ。たっぷり呑んでくれよ!」

「ああ、ありがとな」


 二人の優しい心遣いは、とても温かかった。


「そうだよ、ウェイル!! 今日はルークさんのおごりなんだよ!! お腹一杯食べようよ!!」

「まだ腹一杯じゃないのかよ」

「あ、ヤンクさん、豚、もう二頭追加お願いしまーす!」

「ま、まだ食うのか……? そろそろ豚肉が無いぞ……。いい加減肉を焼くのは疲れたぜ……」


 流石のヤンクでも、フレスの底知れぬ胃袋には呆れるしかなかった。


「フレスちゃん、そろそろ勘弁してくれよ!」


 金を出すルークが、財布の中身を確認しながらフレスに懇願する。

 机の上は、皿だけですでに百枚以上重なっていた。


「む? あにかいった? もごもご」


 豚の骨を口から突き出しながら聞き返しているあたり、ルークの頼みは聞き入れられそうにない。


「食べ終えてから喋れよ……」


 ウェイルも呆れていたが、幸せそうに肉を頬張るフレスを見ているうちに、段々と気分は晴れてきた。


「ウェイルもいっぱい食べて元気出そうよ!」

「そうだな。とりあえず事件は解決したんだ。ここはルークの驕りだし、久しぶりに騒ぐか! おい、ヤンク。俺にも豚の丸焼きを三頭ほど頼む!」

「「もう勘弁してくれ!!」」

 

 ――ルークとヤンクは、これから地獄を見ることとなった。


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