裏方
オライオンは炎上し徐々に降下していくも、未だその機能の全てを失ってはいない。
アテナから供給されていた魔力は膨大で、船首を破壊されて尚、オライオンは空中要塞として君臨していた。
今尚、治安局、並びに『セイクリッド』の面々は有効な手段を取れず、地上から手をこまねくことしか出来なかった。
しかしながら船首にある巨大象砲手を破壊することに成功したおかげで、しばらくは敵の攻撃は休まると言っていい。まさに今がこちらから攻め入るチャンスである。
むしろ逆に言えば今しかチャンスはないというわけだ。
だが敵には強力な結界がある。こちらからの砲撃は通用しそうもない。
だから攻撃は、外部からではなく内部からしか出来ないとサグマールとステイリィは判っていた。
空中に浮かぶオライオンへ向かうには、此方も空から行くしかない。
その手段を、サグマール達は持っている。
たった今オライオンの砲撃をカウンターした神器『幻視瞬転』。
敵の攻撃が一段落した後、治安局はこの神器を使って、治安局員をオライオンへ送り込もうという計画を立てていたのだ。
この計画に乗っ取り、治安局本部は、すぐさま作戦の決行を、ステイリィへ命じていたのだが、そのステイリィはというと、その作戦決行を渋っていた。
「ステイリィ上官! 本部からの命令です! オライオンへ攻め込みましょう!!」
「……待て、今は止めておいた方がいい」
「しかし! 今がチャンスなんですよ!? アルカディアル教会を制圧する機会は、もう無いかも知れない!」
「お前、あの龍の姿が見えないのか!?」
「あれが例の龍姫という奴でしょう! こちらには豊富な神器も戦力もあります!」
「バカ言うな。あの龍は敵じゃない! それに龍は私達が総力を挙げても敵う相手ではない。今はまだ様子を見ろ」
ステイリィは感じていた。
あの龍――フレスベルグがあの姿であそこにいるということは、まだ全てが終わっていないということを。
敵の本丸、龍姫との死闘は、まさにこれから始まるのだと確信していた。
「我々もステイリィ殿の意見に賛成だ」
「サグマールさん!?」
治安局のテントに入り、ステイリィの元にやってきたのは、サグマールとナムル。
治安局の作戦を知っていた二人は、今は時ではないと、進言しにここに来たのだ。
「ステイリィ殿。上の命令というのは判るが、ここはプロ鑑定士協会の責任ということで構わない。もう少しお待ちいただきたい」
「ええ。安心してください。私はいつでもウェイルさんを信じていますので。まだ時じゃないんですよね?」
「ステイリィ殿もあれを見てそう思いましたか。察しが良くて助かります」
フレスベルグの姿があるということは、あそこにはウェイルもいる。
事前にウェイルは、オライオンのことは任せろと言っていた。
おそらく、何らかの手段を使って墜落をさせるつもりなのだ。
サグマールらも、テメレイアの作戦を聞いている。
龍姫を救いだし、自爆装置を解除した後、オライオンを墜落させると。
サグマール達、そしてステイリィは、ウェイルとテメレイアに全てを託そうと、そう決心していたのだ。
ならばここで治安局員をオライオンに送り込むことは、二人の邪魔になり得る。
そもそもあそこには龍姫がいるのだ。
龍同士の戦いとなれば、治安局員の存在は邪魔でしかない。
「オライオン周辺では、これからアルクエティアマインを賭けた死闘が始まる。我々のような力のない一般人が立ち入ってはダメだ。行ったところでオライオンは空中にある。脱出するのも難しいのだから帰ってこられる保証はないし、セイクリッドですら龍には力不足だろう。我々はただ邪魔になるだけだ」
「そんな受け身でいいんですか!? この機を逃すと、また敵に勢いがつくかも知れません!」
「ばかもん、何も手をこまねいて何もしないというわけじゃない。オライオンはプロ鑑定士協会に任せればいい。我々が優先すべきは都市部に侵入している敵信者達の逮捕だ。鉱山は未だに敵に狙われている可能性が高い。徹底的に守り、敵を殲滅せよ」
「……了解しました! 我々は都市部へ、他の部隊は鉱山へ行け!」
「「「はっ」」」
ステイリィの指示に、局員達は騒々しく動き出す。
ステイリィは、一度フゥと嘆息すると、テント内の椅子に腰かけ、頬杖をつき、そして呟く。
「お互い苦労しますね。振り回される方は、毎回疲れます」
その隣に、サグマールとナムルが腰を掛けた。
「ウェイルの奴、事件に巻き込まれるのが趣味みたいなもんだからな……。事後処理をするこっちの身にもなってもらいたい」
「ハッハッハ、若いうちはそれくらいで良い」
げんなりするステイリィとサグマールに対し、ナムルは大きな声で笑っていた。
「ナムル殿、あいつは暴れすぎなのです。それでいて報告はいつも全て終わった時でして。たまには手伝わせろと言いたい」
「ほんと、私達っていつも仲間ハズレですよね。サスデルセルの時もそうでしたけど」
「マリアステルの時なんぞ、足手まといだから来るなと言われたくらいだ」
「お互い、損な役回りですね」
「何を言う、君は得しかしてないだろう?」
ステイリィの出世っぷりは、サグマールの耳にも聞き及ぶほど。
「確かに!? てか私、高所恐怖症なのでオライオンには行けないのですけどね!」
「行ったところで、また足手まといになるんだろう。どのみち我らは裏方よ」
「いいじゃないですか、裏方。旦那を支える美人な妻となる私にはピッタリ」
「君は本当に幸せだな」
「……だからそれ、一番傷つく一言なんですって」
そうして二人は、またしても嘆息し、宙に浮かぶオライオンと、フレスベルグの姿を見る。
「我々はウェイル達が無事帰ってくるのを祈り、迎えるのが仕事だろう」
「ですね。いつも通り、気合を入れて出迎えしましょうか」
アルクエティアマインを賭けた戦いが始まるというのに、一人の老人と一人の女局員は、しみじみと、戦いの行く末を見守ることにしたのだった。




